MOMO!! ~生き残れ、売れないアイドル!~

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沖太一は劣等感で出来ている

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 中原の言葉を遮り、太一は叫んだ。自分にファンがいるなんて、太一は考えたこともなかったからだ。なんせ太一は一度もテレビに出たことがなかったし、演技の才能はてんでダメ。オーディションはいつも落選通知しか貰えなかった。最近はドラマのオーディション話すら持って来て貰えなくなっている。

 おかげで太一の仕事というのは、先輩アイドルのコンサートバックにつくか、レコーディングのお手伝いをするか、事務所が出版しているアイドル図鑑のアーティスト写真の撮影に年一回挑むだけで、世間の目に晒される機会など、ないと言って過言でなかった。

 そんなうだつの上がらない自分にファンがいるなど、考えられる方がおかしい。
 学校という小さな世界。大嫌いだった。ただここは志藤と比べられるだけの世界なのだと。だけど、小さな世界だからこそ、野瀬のようなコアなファンが出来たこともまた事実だ。

「いや、え……、まじ……なのか」

 急激に恥ずかしくなって、耳まで真っ赤になって一人つぶやく。

「ちなみにあいつ、アイドルマニアだぜ」

 つんっと背中を突かれて言われる。お陰様で野瀬のイメージは瞬く間に音を立て崩れ落ちた。いつも冷静沈着で取り乱すことのない野瀬の落ち着いた雰囲気が、先輩アイドルのコンサートで大はしゃぎするファンの姿へと取って代わり、くらりと眩暈しそうになる。

「確かお前らの事務所に雪村とかいうアイドルいるだろ? あいつの姉ちゃんは雪村ファンらしいぜ」

 ちなみに妹と幼馴染は及川ってヤツだったな、と中原が付け加える。どちらも事務所のトップスターだ。

「それはつまり、お姉さんの影響?」

 太一がゆっくり振り返って聞くと、中原はすんなり頷いた。

「あいつ女姉妹に囲まれて育ってるからな。近所の幼馴染も女ばっかりみたいだし。おかげで女々しい男になったけど、その代わり優しい男になったな」

 野瀬の生い立ちまで知る羽目になり、太一はため息が出てしまった。

 チラリと席の離れた野瀬を盗み見るが、強烈に整った横顔と綺麗にセットされた髪、長い手足、第3ボタンまで外されているカッターシャツから見える日焼けした肌……、どうしたって男性アイドルにキャーキャー言っているとは想像しがたい。隣の女子と何やら会話をして、柔らかく微笑む顔は、彼こそがアイドルそのものだといえる。その顔で、その容姿で、アイドルオタクなど、そう簡単に信じられるわけはなかった。

「いや、やっぱそれは冗談だ。あいつ、あの顔で……アイドル……」
「おぅ、あいつがアイドルになればいいくらいだが、残念ながらヤツの歌唱力はジャイアン以下だ」
「いや、その情報いらない」
「あいつの家に行ってみろ。結構ヤバイことになってるから」

 その口ぶりから察すると、きっと母親がそもそものアイドルオタク発祥の地なのだろう。その影響で姉妹はもちろん、ご近所の女の子達をも巻き込むアイドル洗脳地帯が完成させられた。そうに違いない。

「いや、いい。遠慮しとく」
「人生で一番チヤホヤされる時間かもしんねぇぞ?」
「オレが? ないよ」

 太一は引きつった笑いを浮かべ再び野瀬へと視線を移した。

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