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沖太一は劣等感で出来ている
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沖太一は劣等感で出来ている。
いつだって自分に自信がない。何をしても、何もしていなくても、弟の陽一に勝つことが出来なかったからだ。粘土も、ブロックも、塗り絵も、パズルも、いつだって弟の方が上手にやってのけた。
いつの頃からか、かけっこにも負け、逆上がりも先を越され、兄としてのメンツは丸つぶれ。あまつさえ弟の陽一は目鼻立ちがはっきりとしている、いわゆる美形顏だ。一方太一は特別特徴のない顔。それなりに整ってはいるものの、陽一が派手顔ならば、間違いなく地味顔というやつだろう。
誰がどう見たって兄弟には見えない。おかげさまで、太一は何もしていなくても、陽一に勝つことが出来なかった。
そんな太一が出来ることといえば、勉強くらいである。成績を上位に保つことで、兄の威厳を確立しようと必死だ。やんちゃな弟の面倒を見、時に親の代わりに叱ったりもする。 ”お利口” でいることくらいでしか弟と差をつけることが出来なかった。
だが、親に褒められても近所のおばさんに褒められても、学校の先生に褒められても、やっぱり弟に「すごい!」と言わせたかった。オレだってやれば出来るのだと、お前なんかよりよっぽどスゴイのだと認めさせたかった。
だから、彼がこの道を選んだのは実に必然だろう。何故なら、陽一が「すごい!」と言ったからだ。「自慢できる」とまで言われた。
劣等感の塊だった太一は、迷うことなくこの道を選んだ。
それは、夕飯時に放送されている歌番組でのこと。
テレビで歌うアイドルを真似て、陽一はいつも激しく踊っていた。だが、太一はずっと思っていたことがある。
ヘタクソ
ステップはめちゃくちゃだし、手も逆だし、ろくに歌詞を読まないから、鼻唄まじりが耳障り。よくもまぁそれで真似して踊ろうなどと思うものだと。
ある日、太一は痺れを切らして陽一に言ってやった。「ヘタクソ」と。ステップはこうだ。手はこうだ。いい加減一番と二番の歌詞を間違うなと。
陽一に「うるせぇ」と言われると思っていた太一だったが、弟の反応は思っているものと違っていた。
「太一すごい! かっこいい!」
そんなこと何年ぶりに言われたか、思い出せもしなかった。
「アイドルになってよ! そしたら自慢できる!」
太一が願いこんだわけじゃない。陽一が両親の同意を取った。アイドルなんて自分になれるはずがないと冷ややかだった太一だが、胸の真ん中には陽一の「すごい」「かっこいい」がずっと熱を持っていて、結局はこの道を選んだ。
この道を選ばされてしまった。
いつだって自分に自信がない。何をしても、何もしていなくても、弟の陽一に勝つことが出来なかったからだ。粘土も、ブロックも、塗り絵も、パズルも、いつだって弟の方が上手にやってのけた。
いつの頃からか、かけっこにも負け、逆上がりも先を越され、兄としてのメンツは丸つぶれ。あまつさえ弟の陽一は目鼻立ちがはっきりとしている、いわゆる美形顏だ。一方太一は特別特徴のない顔。それなりに整ってはいるものの、陽一が派手顔ならば、間違いなく地味顔というやつだろう。
誰がどう見たって兄弟には見えない。おかげさまで、太一は何もしていなくても、陽一に勝つことが出来なかった。
そんな太一が出来ることといえば、勉強くらいである。成績を上位に保つことで、兄の威厳を確立しようと必死だ。やんちゃな弟の面倒を見、時に親の代わりに叱ったりもする。 ”お利口” でいることくらいでしか弟と差をつけることが出来なかった。
だが、親に褒められても近所のおばさんに褒められても、学校の先生に褒められても、やっぱり弟に「すごい!」と言わせたかった。オレだってやれば出来るのだと、お前なんかよりよっぽどスゴイのだと認めさせたかった。
だから、彼がこの道を選んだのは実に必然だろう。何故なら、陽一が「すごい!」と言ったからだ。「自慢できる」とまで言われた。
劣等感の塊だった太一は、迷うことなくこの道を選んだ。
それは、夕飯時に放送されている歌番組でのこと。
テレビで歌うアイドルを真似て、陽一はいつも激しく踊っていた。だが、太一はずっと思っていたことがある。
ヘタクソ
ステップはめちゃくちゃだし、手も逆だし、ろくに歌詞を読まないから、鼻唄まじりが耳障り。よくもまぁそれで真似して踊ろうなどと思うものだと。
ある日、太一は痺れを切らして陽一に言ってやった。「ヘタクソ」と。ステップはこうだ。手はこうだ。いい加減一番と二番の歌詞を間違うなと。
陽一に「うるせぇ」と言われると思っていた太一だったが、弟の反応は思っているものと違っていた。
「太一すごい! かっこいい!」
そんなこと何年ぶりに言われたか、思い出せもしなかった。
「アイドルになってよ! そしたら自慢できる!」
太一が願いこんだわけじゃない。陽一が両親の同意を取った。アイドルなんて自分になれるはずがないと冷ややかだった太一だが、胸の真ん中には陽一の「すごい」「かっこいい」がずっと熱を持っていて、結局はこの道を選んだ。
この道を選ばされてしまった。
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