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下校:秘密
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十月二十一日。僕は学校を無断欠席し、朝から柄沢さんの家の前で彼が出てくるのを待った。
朝九時。家から出て来た柄沢さんは歩いて近くの花屋へ行くと、とても立派な花束を購入した。季節の花を盛り込んだ色とりどりの花束。薔薇じゃなくて良かったと思う反面、それにしたって立派過ぎる花束に、僕は愕然とした。誰かのお見舞いだろうか……。それともプレゼントするものなのだろうか。
……考えるのも嫌だった。だって花なんて……これから会う旧友に渡す代物ではないはずだから。
僕は、嘘をつかれていたのだ。ずっとずっと嘘をつかれていた。友達のところに行くなんて……全部嘘。
許せない──。
柄沢さんは、僕に秘密しなければいけない相手と、毎月一度の逢瀬を楽しんでいたのだ。花束なんか買って、月一の特別な日を……その人と過ごしている。去年の八月の日記を思い出す。“一日音信不通”。ナニをしていたんだ……。僕ら付き合い始めだよ? 一か月目だったんだよ? どうしてそんなひどいことが出来るんだ……っ!
吐き気がした。
信じられない。嘘だと言って欲しい。こんな事実、絶対に認められない……!
だけど突然、ぼんやりと僕を見つめる柄沢さんの目が脳裏を過ぎり、あれは僕と浮気相手を重ねて見ている目なんじゃないだろうかって気付いてしまった……。
最低な男だ……。
僕はこのまま振られるのだろうか? 僕にはあんな花束贈ってくれたことないじゃないか。別に要らないけど、それでも……僕じゃない誰かには、そうやって花束を買うんだね。
こんなの裏切りだ……!
彼が花束を抱えて車で出かけるのを……僕は泣きながら見つめた。
何時に帰ってくるか、待っててやろうと思ったけど、母から電話がかかってきて、学校に行っていないのかと激怒されたから、仕方なく学校へ向かった。来月はこんなことにならないよう、事前に学校へ休みの連絡を入れておこう。
学校へ向かう道すがら考えた。必ず浮気現場を押さえてやると。あの花束はどこの女に贈り、一日何をして、どう過ごしているのか。決定的な現場を絶対に突き止めてやると己に誓った。
十一月。タクシーで追いかける準備を整えた。
だけど、まんまと撒かれた。あの男、スピード狂なんだった。タクシーの運転手は申し訳なかったと僕に謝ったが、仕方のないことだ。交通ルールは守るためにあるのだから。
「いや、むしろ……。あの車の男がすみませんでした」
柄沢さんの代わりに謝罪し、僕は来月に賭けた。だが路面の状態がいいと柄沢さんの車を追いかけるのは、とても困難を極めた。
だがチャンスは訪れる。それは雪が降りしきる二月のことだった。
僕はついに二十一日の柄沢さんの行動のすべてを……目の当たりにした。
朝九時。家から出て来た柄沢さんは歩いて近くの花屋へ行くと、とても立派な花束を購入した。季節の花を盛り込んだ色とりどりの花束。薔薇じゃなくて良かったと思う反面、それにしたって立派過ぎる花束に、僕は愕然とした。誰かのお見舞いだろうか……。それともプレゼントするものなのだろうか。
……考えるのも嫌だった。だって花なんて……これから会う旧友に渡す代物ではないはずだから。
僕は、嘘をつかれていたのだ。ずっとずっと嘘をつかれていた。友達のところに行くなんて……全部嘘。
許せない──。
柄沢さんは、僕に秘密しなければいけない相手と、毎月一度の逢瀬を楽しんでいたのだ。花束なんか買って、月一の特別な日を……その人と過ごしている。去年の八月の日記を思い出す。“一日音信不通”。ナニをしていたんだ……。僕ら付き合い始めだよ? 一か月目だったんだよ? どうしてそんなひどいことが出来るんだ……っ!
吐き気がした。
信じられない。嘘だと言って欲しい。こんな事実、絶対に認められない……!
だけど突然、ぼんやりと僕を見つめる柄沢さんの目が脳裏を過ぎり、あれは僕と浮気相手を重ねて見ている目なんじゃないだろうかって気付いてしまった……。
最低な男だ……。
僕はこのまま振られるのだろうか? 僕にはあんな花束贈ってくれたことないじゃないか。別に要らないけど、それでも……僕じゃない誰かには、そうやって花束を買うんだね。
こんなの裏切りだ……!
彼が花束を抱えて車で出かけるのを……僕は泣きながら見つめた。
何時に帰ってくるか、待っててやろうと思ったけど、母から電話がかかってきて、学校に行っていないのかと激怒されたから、仕方なく学校へ向かった。来月はこんなことにならないよう、事前に学校へ休みの連絡を入れておこう。
学校へ向かう道すがら考えた。必ず浮気現場を押さえてやると。あの花束はどこの女に贈り、一日何をして、どう過ごしているのか。決定的な現場を絶対に突き止めてやると己に誓った。
十一月。タクシーで追いかける準備を整えた。
だけど、まんまと撒かれた。あの男、スピード狂なんだった。タクシーの運転手は申し訳なかったと僕に謝ったが、仕方のないことだ。交通ルールは守るためにあるのだから。
「いや、むしろ……。あの車の男がすみませんでした」
柄沢さんの代わりに謝罪し、僕は来月に賭けた。だが路面の状態がいいと柄沢さんの車を追いかけるのは、とても困難を極めた。
だがチャンスは訪れる。それは雪が降りしきる二月のことだった。
僕はついに二十一日の柄沢さんの行動のすべてを……目の当たりにした。
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