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放課後(バイト編):その靴で歩く先
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岡さんは泣いた。また泣いた。
帰るまででいいから手を繋いでとお願いされて……どうしようか困った。いいよって簡単に言えなくて……結局、断った。
「困った時は助けてあげる。だけど……手を繋ぐことは……出来ない。ごめん」
謝る僕に、彼女はぐすぐす泣きながら、真っ赤な目で僕を見上げた。
「じゃあ、連絡先交換して。助けてくれるんでしょ?」
いや……助けてあげるけど……。しょっちゅう連絡してこないだろうな。さすがにそれは困るんだけど……。
「恋人に……後ろめたくなったら、それも叶わなくなるかもしれないけど」
「そんなこと言わないで! お願いっ、工藤君みたいな人、たくさんいるの。こんなことになるなら、女子高に行けばよかった」
そう言って流れてくる涙を必死に拭う。相変わらずモテているようだ。さすがだよ、岡さん。可愛いし、きっとちょっとやんちゃそうな男子にぐいぐいアプローチかけられたりするんだろうな。
「そっか……。さすがだね、岡さん。変わらずモテモテだ」
「そんなの何の価値もないよ……。好きな人に好きになってもらえないんじゃ、意味ない」
その通りだね。だけど……。
「好きだったよ。岡さんのこと。手の届く人だとはまさか思ってなかったけど。当時は、ホント好きだった」
時間が止まったみたいに見つめ合って、結局岡さんはまたポロリと涙を落した。
「うぅ……、告白したら良かったぁぁぁ! 待ってるんじゃなくて。告白したら良かったぁ! うわぁぁん!!」
声を上げて泣く彼女の頭を撫で、僕は「行こう」って背中を押した。
泣きじゃくる岡さんを隣に、気持ちを伝えるって大事な事だなと、改めて思った。後悔は先には立たない。いつだって後から分かる。だけど選んだ道を後から後悔するのはやっぱり辛いから、いつだって何をするにしたって、ちゃんと“選ばなきゃいけない”んだろう。
岡さんを家まで送り届けると、連絡先を交換してくれとしつこく強請られ、仕方なく交換した。僕は再び駅前まで戻ってきたが、さすがにさっきのファミレスには戻れない。
九時までしか営業していない喫茶店に入り、一時間ほど時間をつぶすと、僕は歩いてガソリンスタンドへと向かった。
「梓?」
のぶさんと学生アルバイトが一人、そして柄沢さん。サービスセンターで三人くつろいでいた。暇か?
「どうした?」
「ちょっと色々あって居場所をなくしました」
「なんだそれ」
そう言って柄沢さんは笑い、カウンターから出てくると、室内に設置されている自販機の前に立った。
「寒かったろ。何がいい?」
カップドリンクだ。
「抹茶オレ」
コロンと百円を入れて、柄沢さんは抹茶オレを買ってくれた。紙コップが落ちてきて、ドリンクが注がれる。出来上がった抹茶オレを手に持つと、その温かさにほっと息をついた。
「それで?」
「え」
突然そう聞かれ、僕は隣の柄沢さんを見上げた。
「それで、とは? いやだから、行き場をなくしたから……」
「ほぉ。腕にファンデーションのあとつけてか?」
はっとして彼の立つ右側の腕を見ると、確かにファンデーションがついている! 最悪かよ!
「ちがっ!」
白いジャンバーなんか着てくるんじゃなかった!
「何が違うんだよ。クリスマスに女の子とデート?」
柄沢さんは冷めた目で僕を見つめ、そのままカウンターの中に戻ると、のぶさんと学生アルバイトくんが驚いたように僕を見た。
「いやいやいや! だから! 違うんだってば! デートなんかしてないよ!」
「じゃ、なんだよそのファンデは。思いっきり腕にしがみつかれてんじゃないかよ」
「しがみつかれたけど! 違うんだって! 巻き込み事故! 巻き込まれた事故だよ!」
柄沢さんはどかっと椅子に座ると。腕組をしながらギっと背もたれに深くもたれかかった。
「ほ~ぉ。話を聞かせてもらおうか」
帰るまででいいから手を繋いでとお願いされて……どうしようか困った。いいよって簡単に言えなくて……結局、断った。
「困った時は助けてあげる。だけど……手を繋ぐことは……出来ない。ごめん」
謝る僕に、彼女はぐすぐす泣きながら、真っ赤な目で僕を見上げた。
「じゃあ、連絡先交換して。助けてくれるんでしょ?」
いや……助けてあげるけど……。しょっちゅう連絡してこないだろうな。さすがにそれは困るんだけど……。
「恋人に……後ろめたくなったら、それも叶わなくなるかもしれないけど」
「そんなこと言わないで! お願いっ、工藤君みたいな人、たくさんいるの。こんなことになるなら、女子高に行けばよかった」
そう言って流れてくる涙を必死に拭う。相変わらずモテているようだ。さすがだよ、岡さん。可愛いし、きっとちょっとやんちゃそうな男子にぐいぐいアプローチかけられたりするんだろうな。
「そっか……。さすがだね、岡さん。変わらずモテモテだ」
「そんなの何の価値もないよ……。好きな人に好きになってもらえないんじゃ、意味ない」
その通りだね。だけど……。
「好きだったよ。岡さんのこと。手の届く人だとはまさか思ってなかったけど。当時は、ホント好きだった」
時間が止まったみたいに見つめ合って、結局岡さんはまたポロリと涙を落した。
「うぅ……、告白したら良かったぁぁぁ! 待ってるんじゃなくて。告白したら良かったぁ! うわぁぁん!!」
声を上げて泣く彼女の頭を撫で、僕は「行こう」って背中を押した。
泣きじゃくる岡さんを隣に、気持ちを伝えるって大事な事だなと、改めて思った。後悔は先には立たない。いつだって後から分かる。だけど選んだ道を後から後悔するのはやっぱり辛いから、いつだって何をするにしたって、ちゃんと“選ばなきゃいけない”んだろう。
岡さんを家まで送り届けると、連絡先を交換してくれとしつこく強請られ、仕方なく交換した。僕は再び駅前まで戻ってきたが、さすがにさっきのファミレスには戻れない。
九時までしか営業していない喫茶店に入り、一時間ほど時間をつぶすと、僕は歩いてガソリンスタンドへと向かった。
「梓?」
のぶさんと学生アルバイトが一人、そして柄沢さん。サービスセンターで三人くつろいでいた。暇か?
「どうした?」
「ちょっと色々あって居場所をなくしました」
「なんだそれ」
そう言って柄沢さんは笑い、カウンターから出てくると、室内に設置されている自販機の前に立った。
「寒かったろ。何がいい?」
カップドリンクだ。
「抹茶オレ」
コロンと百円を入れて、柄沢さんは抹茶オレを買ってくれた。紙コップが落ちてきて、ドリンクが注がれる。出来上がった抹茶オレを手に持つと、その温かさにほっと息をついた。
「それで?」
「え」
突然そう聞かれ、僕は隣の柄沢さんを見上げた。
「それで、とは? いやだから、行き場をなくしたから……」
「ほぉ。腕にファンデーションのあとつけてか?」
はっとして彼の立つ右側の腕を見ると、確かにファンデーションがついている! 最悪かよ!
「ちがっ!」
白いジャンバーなんか着てくるんじゃなかった!
「何が違うんだよ。クリスマスに女の子とデート?」
柄沢さんは冷めた目で僕を見つめ、そのままカウンターの中に戻ると、のぶさんと学生アルバイトくんが驚いたように僕を見た。
「いやいやいや! だから! 違うんだってば! デートなんかしてないよ!」
「じゃ、なんだよそのファンデは。思いっきり腕にしがみつかれてんじゃないかよ」
「しがみつかれたけど! 違うんだって! 巻き込み事故! 巻き込まれた事故だよ!」
柄沢さんはどかっと椅子に座ると。腕組をしながらギっと背もたれに深くもたれかかった。
「ほ~ぉ。話を聞かせてもらおうか」
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