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帰りのHR:バターナイト
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たくさんのお菓子を抱え、柄沢さんの家に帰ってきた。
僕は柄沢さんの作ってくれるご飯を食べながら宿題を済ませると、突然彼が僕の携帯をトントンと叩いた。
「家に電話を入れろ。俺は風呂に入ってるから、一度、親に声聞かせてやれ」
素直に「嫌だな」と思った。なんでそんなことしなきゃいけないんだ、って。だけど柄沢さんが「必ずしろ」と念を押してからお風呂に行ってしまうから、僕は気乗りしないまま、自宅に電話を掛けることになった。
家電だ。コール音は三回。
『梓!?』
母の声が僕の耳に飛び込んできた。
『梓なの!?』
その必死な声に、僕は少し驚いた。
「……うん」
返事すると、母は泣き崩れ、「帰ってきてちょうだい」とわんわん電話口で泣いた。厳しい親だったけど、愛されていないわけではなかった。虐待を受けていたわけでもない。いつも一生懸命僕のために料理を作り、体にいいものをって栄養管理をしてくれていた。ダメなことはダメ、イイことはイイ、としっかりルールを決められて育てられた。僕にはそれがとても窮屈だった。親の決めたルールがどうしても自分には合わないと思っていた。
だけど、こんなに泣かれたら……心が揺らがないわけはない……。
『梓か』
泣き出す母の代わりに父が電話口に出ると、僕はもう一度頷いた。
『柄沢くんの言うことを、ちゃんときいているのか』
父から柄沢さんの名前を聞くことになるとは思わなかったけど、彼の事を信頼した上での発言であることだけは伺えた。でなければ……今すぐ帰って来いと唸っていただろう。
「……うん。柄沢さんに言われたから、電話した。声を聞かせてやれって……言われたから」
『そうか……』
父は静かに頷き、数秒開けてもう一つ尋ねてきた。
『今日は学校に行ったのか?』
「行ったよ。柄沢さんが送ってくれた」
『……そうか。彼には迷惑をかけているな』
そうだと思う。
『飯は食ってるか?』
言われ、頷く。
「柄沢さん、料理上手だから、大丈夫だよ」
『ん……そうか』
消えるような父の返事の後、母が受話器を奪ったのが分かった。
『梓! いつ帰ってくるの? 早く帰ってきて頂戴!』
必死な母の声の後ろで、父が「落ち着け」と母を宥めているのが分かる。
『梓は来週帰ってくる! 我慢なさい!』
そんな父の言葉に母はヒステリックに叫んだ。
『いやよ! 梓は私の子ですもの! あんな男のところに一週間も預けられない!』
『貴理子!!』
怒る父の声がして、僕は携帯を耳から離し、そのまま通話を切った。
僕は柄沢さんの作ってくれるご飯を食べながら宿題を済ませると、突然彼が僕の携帯をトントンと叩いた。
「家に電話を入れろ。俺は風呂に入ってるから、一度、親に声聞かせてやれ」
素直に「嫌だな」と思った。なんでそんなことしなきゃいけないんだ、って。だけど柄沢さんが「必ずしろ」と念を押してからお風呂に行ってしまうから、僕は気乗りしないまま、自宅に電話を掛けることになった。
家電だ。コール音は三回。
『梓!?』
母の声が僕の耳に飛び込んできた。
『梓なの!?』
その必死な声に、僕は少し驚いた。
「……うん」
返事すると、母は泣き崩れ、「帰ってきてちょうだい」とわんわん電話口で泣いた。厳しい親だったけど、愛されていないわけではなかった。虐待を受けていたわけでもない。いつも一生懸命僕のために料理を作り、体にいいものをって栄養管理をしてくれていた。ダメなことはダメ、イイことはイイ、としっかりルールを決められて育てられた。僕にはそれがとても窮屈だった。親の決めたルールがどうしても自分には合わないと思っていた。
だけど、こんなに泣かれたら……心が揺らがないわけはない……。
『梓か』
泣き出す母の代わりに父が電話口に出ると、僕はもう一度頷いた。
『柄沢くんの言うことを、ちゃんときいているのか』
父から柄沢さんの名前を聞くことになるとは思わなかったけど、彼の事を信頼した上での発言であることだけは伺えた。でなければ……今すぐ帰って来いと唸っていただろう。
「……うん。柄沢さんに言われたから、電話した。声を聞かせてやれって……言われたから」
『そうか……』
父は静かに頷き、数秒開けてもう一つ尋ねてきた。
『今日は学校に行ったのか?』
「行ったよ。柄沢さんが送ってくれた」
『……そうか。彼には迷惑をかけているな』
そうだと思う。
『飯は食ってるか?』
言われ、頷く。
「柄沢さん、料理上手だから、大丈夫だよ」
『ん……そうか』
消えるような父の返事の後、母が受話器を奪ったのが分かった。
『梓! いつ帰ってくるの? 早く帰ってきて頂戴!』
必死な母の声の後ろで、父が「落ち着け」と母を宥めているのが分かる。
『梓は来週帰ってくる! 我慢なさい!』
そんな父の言葉に母はヒステリックに叫んだ。
『いやよ! 梓は私の子ですもの! あんな男のところに一週間も預けられない!』
『貴理子!!』
怒る父の声がして、僕は携帯を耳から離し、そのまま通話を切った。
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