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昼休み:僕専用ヘルメット
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「梓!」
「家出する!」
「だめだ!」
「柄沢さんの家に行くっ!」
「梓……っ!」
僕を呼び止めるけど、柄沢さんはこの手を振り払わなかった。立ち止まらなかった。引き返そうとはしなかった。
父が玄関を飛び出してきたけど、僕は柄沢さんの腕を引っ張って車が駐車されている近くの空き地まで走る。
「梓! 戻りなさい!」
叫ぶ父の声に僕は無心に走ったけど、柄沢さんは振り返りながら叫んだ。
「必ず連れて帰ります! なので落ち着くまで、少しだけ預からせてください! 必ずお返しすると約束するのでっ、すみません!!」
空き地まで猛ダッシュし、僕らは車に乗り込んだ。
怒りと、全力疾走で呼吸が苦しい。それでも叫んだ。
「出して! 早く!」
車はいい音を出して発進した。良く手入れされているんだろうなと素人でも分かるほどの綺麗なエンジン音。決して静かではないけど、すごくカッコイイ音。
上がった息を整えながら、僕は足元に置いてあるヘルメットを膝の上へと持ち上げた。
運転席の柄沢さんは眉を寄せたまま神妙な面持ちをしていたが、僕がヘルメットをもう一度袋から取り出したことに気付くと、片手で僕の頭をくしゃりと撫でた。
「……ありがとう、梓」
お礼を言われるなんて思ってもみなくて、はっとして柄沢さんを見た。彼は泣いてなんていなかったけど、どれだけ大人だろうと、どれだけ大丈夫だと言っていようと、傷つくものは傷つくよね……。うちの両親は……柄沢さんを傷つけた。酷い言葉を浴びせた……。あれは謝って許されるような態度ではなかった。僕は……両親を許さない。
「ごめんね……柄沢さん」
僕の方が泣きそうになる。本当に情けない……。
「ほんとに……ごめん……」
消えそうな声で謝る僕に、柄沢さんはもう一度こちらに手を伸ばすと、ヘルメットを持つ僕の手をそっと握った。
「ううん、怒ってない。むしろ嬉しい。すごく嬉しいよ、俺」
その横顔は確かに笑ってた。前をしっかり見ながら微笑む彼の横顔を見つめ、僕も柄沢さんの手を握り返した。大きくて、ごつごつしていて、僕よりほんの少し暖かい手。
手を握り合い、幾分かの沈黙の後、柄沢さんが思いついたように喋り出した。
「家出して、学校もサボるつもりなら、明日の夜から、弾丸旅行でもすっか?」
「えっ!?」
手を繋いだまま、柄沢さんはいたずらな目でこちらを見て、そんなありえない提案をしてきた。
旅行!?
「いや、でも……っ、仕事!」
「あ、バイトある?」
思い出したように聞かれ、明後日は休みだと思い出した。
「明日はあるけど……明後日は……ない」
「俺も!」
まさかの休み被り。
少年みたいに、無邪気に目をくりくりさせた柄沢さんに、「この人本気で言ってる」と分かると、急にワクワクしてきた。
「旅行……っ! 僕行きたい!」
心の底から思った。この人と一緒に、旅行……! 絶対に楽しい!
「じゃ、決定な!」
「うん!」
この人は僕の救世主だ。出会えてよかった。ホントにそう思う。この出会いは、奇跡だ……!
ありがとう、柄沢さん……っ!
「家出する!」
「だめだ!」
「柄沢さんの家に行くっ!」
「梓……っ!」
僕を呼び止めるけど、柄沢さんはこの手を振り払わなかった。立ち止まらなかった。引き返そうとはしなかった。
父が玄関を飛び出してきたけど、僕は柄沢さんの腕を引っ張って車が駐車されている近くの空き地まで走る。
「梓! 戻りなさい!」
叫ぶ父の声に僕は無心に走ったけど、柄沢さんは振り返りながら叫んだ。
「必ず連れて帰ります! なので落ち着くまで、少しだけ預からせてください! 必ずお返しすると約束するのでっ、すみません!!」
空き地まで猛ダッシュし、僕らは車に乗り込んだ。
怒りと、全力疾走で呼吸が苦しい。それでも叫んだ。
「出して! 早く!」
車はいい音を出して発進した。良く手入れされているんだろうなと素人でも分かるほどの綺麗なエンジン音。決して静かではないけど、すごくカッコイイ音。
上がった息を整えながら、僕は足元に置いてあるヘルメットを膝の上へと持ち上げた。
運転席の柄沢さんは眉を寄せたまま神妙な面持ちをしていたが、僕がヘルメットをもう一度袋から取り出したことに気付くと、片手で僕の頭をくしゃりと撫でた。
「……ありがとう、梓」
お礼を言われるなんて思ってもみなくて、はっとして柄沢さんを見た。彼は泣いてなんていなかったけど、どれだけ大人だろうと、どれだけ大丈夫だと言っていようと、傷つくものは傷つくよね……。うちの両親は……柄沢さんを傷つけた。酷い言葉を浴びせた……。あれは謝って許されるような態度ではなかった。僕は……両親を許さない。
「ごめんね……柄沢さん」
僕の方が泣きそうになる。本当に情けない……。
「ほんとに……ごめん……」
消えそうな声で謝る僕に、柄沢さんはもう一度こちらに手を伸ばすと、ヘルメットを持つ僕の手をそっと握った。
「ううん、怒ってない。むしろ嬉しい。すごく嬉しいよ、俺」
その横顔は確かに笑ってた。前をしっかり見ながら微笑む彼の横顔を見つめ、僕も柄沢さんの手を握り返した。大きくて、ごつごつしていて、僕よりほんの少し暖かい手。
手を握り合い、幾分かの沈黙の後、柄沢さんが思いついたように喋り出した。
「家出して、学校もサボるつもりなら、明日の夜から、弾丸旅行でもすっか?」
「えっ!?」
手を繋いだまま、柄沢さんはいたずらな目でこちらを見て、そんなありえない提案をしてきた。
旅行!?
「いや、でも……っ、仕事!」
「あ、バイトある?」
思い出したように聞かれ、明後日は休みだと思い出した。
「明日はあるけど……明後日は……ない」
「俺も!」
まさかの休み被り。
少年みたいに、無邪気に目をくりくりさせた柄沢さんに、「この人本気で言ってる」と分かると、急にワクワクしてきた。
「旅行……っ! 僕行きたい!」
心の底から思った。この人と一緒に、旅行……! 絶対に楽しい!
「じゃ、決定な!」
「うん!」
この人は僕の救世主だ。出会えてよかった。ホントにそう思う。この出会いは、奇跡だ……!
ありがとう、柄沢さん……っ!
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