35 / 105
三時間目:泣きべそ雨空
2
しおりを挟む
「予定? 柄沢さん、井川くんと予定あるんですか?」
「あ~……あぁ、まぁ。大した予定でもないけど……」
なんでそこで、大した予定でもない、なんて言うんだよ! 僕からしたら大した予定だよ!
「私も家入れないし、良かったらご一緒させてもらっちゃダメですか?」
柄沢さんの表情が、一瞬で固まった。だけどすぐににっこりと微笑む。
「いいよ」
「いいの!?」
僕の方がびっくりした。
「え、今から家ですよね!? 女の子、しかも女子高生家に上げるつもりですか!? 犯罪者! 柄沢さん、犯罪者なんですか!?」
「人聞き悪い言い方すんなよ! 家上げても何もしねぇよ!」
「家に上げる気だ!」
「うるせぇな、じゃあ、外ならいいんだろ!?」
「外!?」
この風呂敷の料理はどうするつもりだよ!
僕はまだ温かい母の料理を抱きしめながら、腹の底から湧き上がってくる怒りに震えた。
「じゃあいいです! 二人でご飯でもホテルでも好きなところ行ってください! そもそも僕はこれだけ渡せば用事は済みますから! はい、どうぞ! サヨウナラ!」
窓を全開にしている柄沢さんに大きな風呂敷を強引に渡すと、そのまま走って家へと引き返す。
なんだよ! 外ってなんだよ! 外で三人で食事するって言うの!? せっかくお母さんがご飯作ってくれたのに、三人で外食しようってことなの!? さっき喜んでたじゃないかよ! やったって、欲しいって言ったくせに!
「ちょっと待てよ、梓!」
パシっと音がするほど勢いよく腕を掴まれ、僕は驚いて振り返り、柄沢さんの手を振り払った。
「なんだよ! 真山さんとご飯行けばいいだろ!」
「行かないよ!」
「なんでだよ! 困ってる彼女の時間つぶしに付き合ってあげればいいじゃん!」
「しないってば!」
「なんでだよ!」
「お前が居なきゃあんな子供と一緒に出掛けられるわけないだろ!」
子供……。
その言葉に絶句した。だって僕は、真山さんよりさらに子供だから……。
そうか……、やっぱり僕は“子供”で、柄沢さんは僕を“子供”だと思って接してる。どうしたってそれは……変わらないんだ。
大人しくなった僕に、柄沢さんはほっとしたように息を吐き出した。
「ありがたいことにまだ時間が早い。暗くなれば彼女のお母さんとも連絡が付くだろ。それまでの間だけでいいから、三人で時間つぶそう。連絡がつけば、二人で帰って、ごはん食べればいいじゃないか」
どんだけ……バカなんだよ。
「連絡なんて永遠につかないよ」
「……え?」
「だって真山さん、一度家に帰ってる! 可愛い洋服に着替えて柄沢さんを誘惑しに来てるんだよ! なんで気付かないんだよ、バカ! 女の子に恥かかせるなよ! 今すぐ引き返して彼女と美味しいご飯食べて来いよ!」
叫んだ僕に、柄沢さんは黙り込んだ。
本当は嫌だよ。二人で出かけて欲しくないし、真山さんが恥をかけばいいと思ってるし、邪魔されずに最初からずっと二人でいたい……。でも、そんなこと言えるわけないじゃないか。だって僕は男で……子供だから……。
そこに、ようやくヒールで追いかけてきた真山さんが息を切らしてやってきた。
「ど、どうしたの、井川くんっ! びっくりするじゃない。一緒に行きましょうよ」
白々しい演技はやめろよ……。
答えない僕に、柄沢さんは彼女の足元を見つめ、ヒールのパンプスを履いていることにようやく気付いたようだった。掴んでいた僕の手を一度ぎゅっと握った柄沢さんだけど、最終的にそっと……静かに離した。
そして──。
「気を付けて帰れよ」
そう言って背を向けた。
「あ~……あぁ、まぁ。大した予定でもないけど……」
なんでそこで、大した予定でもない、なんて言うんだよ! 僕からしたら大した予定だよ!
「私も家入れないし、良かったらご一緒させてもらっちゃダメですか?」
柄沢さんの表情が、一瞬で固まった。だけどすぐににっこりと微笑む。
「いいよ」
「いいの!?」
僕の方がびっくりした。
「え、今から家ですよね!? 女の子、しかも女子高生家に上げるつもりですか!? 犯罪者! 柄沢さん、犯罪者なんですか!?」
「人聞き悪い言い方すんなよ! 家上げても何もしねぇよ!」
「家に上げる気だ!」
「うるせぇな、じゃあ、外ならいいんだろ!?」
「外!?」
この風呂敷の料理はどうするつもりだよ!
僕はまだ温かい母の料理を抱きしめながら、腹の底から湧き上がってくる怒りに震えた。
「じゃあいいです! 二人でご飯でもホテルでも好きなところ行ってください! そもそも僕はこれだけ渡せば用事は済みますから! はい、どうぞ! サヨウナラ!」
窓を全開にしている柄沢さんに大きな風呂敷を強引に渡すと、そのまま走って家へと引き返す。
なんだよ! 外ってなんだよ! 外で三人で食事するって言うの!? せっかくお母さんがご飯作ってくれたのに、三人で外食しようってことなの!? さっき喜んでたじゃないかよ! やったって、欲しいって言ったくせに!
「ちょっと待てよ、梓!」
パシっと音がするほど勢いよく腕を掴まれ、僕は驚いて振り返り、柄沢さんの手を振り払った。
「なんだよ! 真山さんとご飯行けばいいだろ!」
「行かないよ!」
「なんでだよ! 困ってる彼女の時間つぶしに付き合ってあげればいいじゃん!」
「しないってば!」
「なんでだよ!」
「お前が居なきゃあんな子供と一緒に出掛けられるわけないだろ!」
子供……。
その言葉に絶句した。だって僕は、真山さんよりさらに子供だから……。
そうか……、やっぱり僕は“子供”で、柄沢さんは僕を“子供”だと思って接してる。どうしたってそれは……変わらないんだ。
大人しくなった僕に、柄沢さんはほっとしたように息を吐き出した。
「ありがたいことにまだ時間が早い。暗くなれば彼女のお母さんとも連絡が付くだろ。それまでの間だけでいいから、三人で時間つぶそう。連絡がつけば、二人で帰って、ごはん食べればいいじゃないか」
どんだけ……バカなんだよ。
「連絡なんて永遠につかないよ」
「……え?」
「だって真山さん、一度家に帰ってる! 可愛い洋服に着替えて柄沢さんを誘惑しに来てるんだよ! なんで気付かないんだよ、バカ! 女の子に恥かかせるなよ! 今すぐ引き返して彼女と美味しいご飯食べて来いよ!」
叫んだ僕に、柄沢さんは黙り込んだ。
本当は嫌だよ。二人で出かけて欲しくないし、真山さんが恥をかけばいいと思ってるし、邪魔されずに最初からずっと二人でいたい……。でも、そんなこと言えるわけないじゃないか。だって僕は男で……子供だから……。
そこに、ようやくヒールで追いかけてきた真山さんが息を切らしてやってきた。
「ど、どうしたの、井川くんっ! びっくりするじゃない。一緒に行きましょうよ」
白々しい演技はやめろよ……。
答えない僕に、柄沢さんは彼女の足元を見つめ、ヒールのパンプスを履いていることにようやく気付いたようだった。掴んでいた僕の手を一度ぎゅっと握った柄沢さんだけど、最終的にそっと……静かに離した。
そして──。
「気を付けて帰れよ」
そう言って背を向けた。
0
お気に入りに追加
72
あなたにおすすめの小説
ココア ~僕の同居人はまさかのアイドルだった~
2wei
BL
【ANNADOL シリーズ1】
アイドル・加藤亮介と、一般人・日下比呂人との甘く切ないラブストーリー
間違って二つ出てきた自動販売機のココア
運命はそのココアが握っている──
。.ꕤ……………………………………ꕤ.。
合わせてお楽しみください。
『セカンドココア』
https://www.alphapolis.co.jp/novel/76237087/435821408
『ココア 番外編』
The link is coming soon!
。.ꕤ……………………………………ꕤ.。
🚫無断転載、無断使用、無断加工、
トレス、イラスト自動作成サービス
での使用を禁止しています🚫
。.ꕤ……………………………………ꕤ.。
START:2023.7.11
END:2023.9.21
。.ꕤ……………………………………ꕤ.。
敵国軍人に惚れられたんだけど、女装がばれたらやばい。
水瀬かずか
BL
ルカは、革命軍を支援していた父親が軍に捕まったせいで、軍から逃亡・潜伏中だった。
どうやって潜伏するかって? 女装である。
そしたら女装が美人過ぎて、イケオジの大佐にめちゃくちゃ口説かれるはめになった。
これってさぁ……、女装がバレたら、ヤバくない……?
ムーンライトノベルズさまにて公開中の物の加筆修正版(ただし性行為抜き)です。
表紙にR18表記がされていますが、作品はR15です。
illustration 吉杜玖美さま
光る穴に落ちたら、そこは異世界でした。
みぃ
BL
自宅マンションへ帰る途中の道に淡い光を見つけ、なに? と確かめるために近づいてみると気付けば落ちていて、ぽん、と異世界に放り出された大学生が、年下の騎士に拾われる話。
生活脳力のある主人公が、生活能力のない年下騎士の抜けてるとこや、美しく格好いいのにかわいいってなんだ!? とギャップにもだえながら、ゆるく仲良く暮らしていきます。
何もかも、ふわふわゆるゆる。ですが、描写はなくても主人公は受け、騎士は攻めです。
キミの次に愛してる
Motoki
BL
社会人×高校生。
たった1人の家族である姉の由美を亡くした浩次は、姉の結婚相手、裕文と同居を続けている。
裕文の世話になり続ける事に遠慮する浩次は、大学受験を諦めて就職しようとするが……。
姉への愛と義兄への想いに悩む、ちょっぴり切ないほのぼのBL。
見ぃつけた。
茉莉花 香乃
BL
小学生の時、意地悪されて転校した。高校一年生の途中までは穏やかな生活だったのに、全寮制の学校に転入しなければならなくなった。そこで、出会ったのは…
他サイトにも公開しています
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる