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中休み:母のお節介
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一時間後。
コンビニのレジに立ち、向かいのガソリンスタンドをただただ眺めた。基本的にメンテナンスセンターに籠っている柄沢さんの姿は、じっと待っていてもなかなか見れない。ツチノコみたいな人だ。
今日の仕事は16時まで。まだまだ終わるのは先。ここ数日、色んなことが起きすぎて、これぞ「目まぐるしい」というやつだ。16時に仕事を終えたら、家に帰り、母の手料理を受け取って、再びここに戻ってくることになる。お家か、向かいのスタンドに行くことになるんだけど……。
あぁ……憂鬱だな。どう言って料理渡せばいいんだよ。絶対のぶさんに揶揄われるやつじゃん。布施さんに鼻で笑われたりするんだ……。もうホントやだ……。
それでも何とかお昼まで仕事を頑張ると、12時ちょっとすぎ、向かいのお兄さん達が買い物へやってきた。店もピークが続いている。流れるようにレジをこなし、僕はのぶさんの会計を担当した。昨日、柄沢さんちに泊まった話は全くされなかった。「サンキュー」とだけ礼を言われ、のぶさんはさっさと店を出た。一緒に来ていた布施さんも何事もなくレジを済ませて出ていくと、店のピークが落ち着き出した半時間後、グレーのツナギを着込んだ柄沢さんが一人、店へやってきた。
一人だ……。
妙にドキドキした。
夕方、料理を持って行かなきゃいけないから、その約束を今取り付けなければいけない。分かっているけど、レジに待機して柄沢さんを待つことが出来なかった。なんでかな……。ドキドキしちゃって、恥ずかしくて、逃げた。
そしたら、一緒に入っていた一つ年上の女の子にレジを奪われた。しかも楽しそうに喋っている。ちょっと暇だからってお喋りしすぎだ。
どこの学校なのとか、今何年生とか、部活してるのとか。しかも極めつけは「何時まで仕事なの」とか聞くから、それ聞いてどうするつもりだよ!って思った。
「4時です」
かわいらしい声で嬉しそうに返事する彼女に、柄沢さんは「あ、そうなの? 俺も~」と笑った。
よ……、え? 4時上がりなの⁉
驚いて彼を振り返ると、何故かこっちを見ていた柄沢さんと目が合った。
「やっほ~、梓」
目の合った僕にピラピラ手を振り、まるで興味がないようにレジの女の子から離れると、僕の隣にやってきた。そして、さっき彼女と話していたチャラい声色をぐっと抑え、えらく落ち着いた大人の声で静かにこう問いかけてきた。
「今日何時上がりだ?」
ドキーーーって、心臓が跳ねた。
「よ……4時です」
「一緒?」
と小声でレジの子を指す。
「はい……」
「そう。飯食いに行かね?」
誘われた……。
どっどっどっと、分かりやすく跳ね上がる心臓。なになになになに、なんだよこれ! それ、さっき、女の子に言うべき言葉だろ!?
「いや…、あの……っ」
赤面してしまいそうになる顔を隠して、僕はレジの子から逃げるように柄沢さんの腕を取った。
「ちょ、ちょっとこっち来てください」
恥ずかしくて死ぬ。女の子の前で、男にご飯誘われてるなんて……っやめてくれよ!
コンビニのレジに立ち、向かいのガソリンスタンドをただただ眺めた。基本的にメンテナンスセンターに籠っている柄沢さんの姿は、じっと待っていてもなかなか見れない。ツチノコみたいな人だ。
今日の仕事は16時まで。まだまだ終わるのは先。ここ数日、色んなことが起きすぎて、これぞ「目まぐるしい」というやつだ。16時に仕事を終えたら、家に帰り、母の手料理を受け取って、再びここに戻ってくることになる。お家か、向かいのスタンドに行くことになるんだけど……。
あぁ……憂鬱だな。どう言って料理渡せばいいんだよ。絶対のぶさんに揶揄われるやつじゃん。布施さんに鼻で笑われたりするんだ……。もうホントやだ……。
それでも何とかお昼まで仕事を頑張ると、12時ちょっとすぎ、向かいのお兄さん達が買い物へやってきた。店もピークが続いている。流れるようにレジをこなし、僕はのぶさんの会計を担当した。昨日、柄沢さんちに泊まった話は全くされなかった。「サンキュー」とだけ礼を言われ、のぶさんはさっさと店を出た。一緒に来ていた布施さんも何事もなくレジを済ませて出ていくと、店のピークが落ち着き出した半時間後、グレーのツナギを着込んだ柄沢さんが一人、店へやってきた。
一人だ……。
妙にドキドキした。
夕方、料理を持って行かなきゃいけないから、その約束を今取り付けなければいけない。分かっているけど、レジに待機して柄沢さんを待つことが出来なかった。なんでかな……。ドキドキしちゃって、恥ずかしくて、逃げた。
そしたら、一緒に入っていた一つ年上の女の子にレジを奪われた。しかも楽しそうに喋っている。ちょっと暇だからってお喋りしすぎだ。
どこの学校なのとか、今何年生とか、部活してるのとか。しかも極めつけは「何時まで仕事なの」とか聞くから、それ聞いてどうするつもりだよ!って思った。
「4時です」
かわいらしい声で嬉しそうに返事する彼女に、柄沢さんは「あ、そうなの? 俺も~」と笑った。
よ……、え? 4時上がりなの⁉
驚いて彼を振り返ると、何故かこっちを見ていた柄沢さんと目が合った。
「やっほ~、梓」
目の合った僕にピラピラ手を振り、まるで興味がないようにレジの女の子から離れると、僕の隣にやってきた。そして、さっき彼女と話していたチャラい声色をぐっと抑え、えらく落ち着いた大人の声で静かにこう問いかけてきた。
「今日何時上がりだ?」
ドキーーーって、心臓が跳ねた。
「よ……4時です」
「一緒?」
と小声でレジの子を指す。
「はい……」
「そう。飯食いに行かね?」
誘われた……。
どっどっどっと、分かりやすく跳ね上がる心臓。なになになになに、なんだよこれ! それ、さっき、女の子に言うべき言葉だろ!?
「いや…、あの……っ」
赤面してしまいそうになる顔を隠して、僕はレジの子から逃げるように柄沢さんの腕を取った。
「ちょ、ちょっとこっち来てください」
恥ずかしくて死ぬ。女の子の前で、男にご飯誘われてるなんて……っやめてくれよ!
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