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二時間目:大人のお兄さん
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その後は、隣に座り合い、それぞれがそれぞれを、それぞれしあって、それぞれそれで終わった。
ティッシュとゴミ箱をお互いの間に置いていたから、柄沢さんのそれを直視することはなかったけど、ビデオも見終わって、体も満足して、一口も食べていないカレーライスを二人で見つめた。
「……腹減ったわ俺」
ベッドに凭れながらそう言った柄沢さんに僕も頷いた。
「はい、僕もです」
「チンするか?」
「できれば」
時刻はすでに、帰るはずの22時半になっていた。
のそっと立ち上がってカレーを温めに行く柄沢さんの背中を見つめ、鞄から携帯電話を取り出した。そして帰りが少し遅くなることを母にLINEしようとしたのだが、柄沢さんがキッチンから声を掛けてきた。
「もう遅いし。今日泊ってくか?」
「え……」
「明日学校休みだろ?」
確かに……休みだけど。
「でも……」
「親に怒られるか?」
聞かれ、僕は首を傾げた。
「どうだろう……。一度聞いてみる」
母にその旨伝えると、電話が掛かってきて、親御さんに代われと言われてしまった。どうしようか困っていると、僕が嘘をついて家を出ていることを察した柄沢さんが僕にちょいちょいっと携帯を渡すように合図をくれた。
「わ……わかった。ちょっと待って」
携帯の通話口を手で押さえ、「大丈夫ですか?」と小声で聞くと、柄沢さんはこくこく頷いた。
「もしもし」
柄沢さんの声に、きっと母は驚いたはずだ。まさか男親が出てくるとは思っていなかっただろう。それでも母は電話先で「お泊りなんてとんでもない」と恐縮していたが、柄沢さんは軽快に笑い飛ばした。
「大丈夫ですよ、お母さん。うちは全然気にしていません。我が家は片親なのでろくな飯も出せませんが、息子たちが楽しくしているのが嬉しいので。……はい。明日も休みですし、井川さんさえ良ければ、ぜひ泊って行ってもらえたらと」
ちゃんと喋っている。しっかり嘘まで吐いて!
柄沢さんは母と話しながら僕にOKサインを見せると、携帯を僕に返した。
「じゃ、じゃあ……泊ってくね」
『ご迷惑だけはかけちゃだめよ!』
「分かってるよ」
『早く寝るのよ!』
「うるさいな、分かってる」
『帰りにきちんとお礼を言うのよ!』
「分かってる! 大丈夫だってば!」
なんとか携帯を切ると、柄沢さんは温め直したカレーにスプーンを添えてくれた。
「お前は今“先輩んちに遊びに来てる”のか?」
「……うるさいな」
どいつもこいつも。
だけど……。
「ありがとうございます。口裏合わせてくれて」
「いいえ。まぁ……”俺“、なんて……言えないよな、そりゃ」
そんな風に言って苦笑いをこぼす。
柄沢さんだと言って、親が承諾するかどうか……もちろん、絶対に許さないだろう。例え、僕がどれだけ信用できる人だと言っても、バイト先が近いだけの人間を、親が信用するはずがない。おまけにあのバイクだ。この見た目だって、きっと親は嫌悪感を示すだろう。柄沢さん本人は「昔に比べたら落ち着いてる」と思っているのかもしれないけど、普通にしていたら、そこそこ目立つ風貌だと思う。怖い人オーラが抜け切れていない。シャバの空気はおいしいですか?と聞きたくなる。もっとも、そんなこと口が裂けても言えないけど。
ティッシュとゴミ箱をお互いの間に置いていたから、柄沢さんのそれを直視することはなかったけど、ビデオも見終わって、体も満足して、一口も食べていないカレーライスを二人で見つめた。
「……腹減ったわ俺」
ベッドに凭れながらそう言った柄沢さんに僕も頷いた。
「はい、僕もです」
「チンするか?」
「できれば」
時刻はすでに、帰るはずの22時半になっていた。
のそっと立ち上がってカレーを温めに行く柄沢さんの背中を見つめ、鞄から携帯電話を取り出した。そして帰りが少し遅くなることを母にLINEしようとしたのだが、柄沢さんがキッチンから声を掛けてきた。
「もう遅いし。今日泊ってくか?」
「え……」
「明日学校休みだろ?」
確かに……休みだけど。
「でも……」
「親に怒られるか?」
聞かれ、僕は首を傾げた。
「どうだろう……。一度聞いてみる」
母にその旨伝えると、電話が掛かってきて、親御さんに代われと言われてしまった。どうしようか困っていると、僕が嘘をついて家を出ていることを察した柄沢さんが僕にちょいちょいっと携帯を渡すように合図をくれた。
「わ……わかった。ちょっと待って」
携帯の通話口を手で押さえ、「大丈夫ですか?」と小声で聞くと、柄沢さんはこくこく頷いた。
「もしもし」
柄沢さんの声に、きっと母は驚いたはずだ。まさか男親が出てくるとは思っていなかっただろう。それでも母は電話先で「お泊りなんてとんでもない」と恐縮していたが、柄沢さんは軽快に笑い飛ばした。
「大丈夫ですよ、お母さん。うちは全然気にしていません。我が家は片親なのでろくな飯も出せませんが、息子たちが楽しくしているのが嬉しいので。……はい。明日も休みですし、井川さんさえ良ければ、ぜひ泊って行ってもらえたらと」
ちゃんと喋っている。しっかり嘘まで吐いて!
柄沢さんは母と話しながら僕にOKサインを見せると、携帯を僕に返した。
「じゃ、じゃあ……泊ってくね」
『ご迷惑だけはかけちゃだめよ!』
「分かってるよ」
『早く寝るのよ!』
「うるさいな、分かってる」
『帰りにきちんとお礼を言うのよ!』
「分かってる! 大丈夫だってば!」
なんとか携帯を切ると、柄沢さんは温め直したカレーにスプーンを添えてくれた。
「お前は今“先輩んちに遊びに来てる”のか?」
「……うるさいな」
どいつもこいつも。
だけど……。
「ありがとうございます。口裏合わせてくれて」
「いいえ。まぁ……”俺“、なんて……言えないよな、そりゃ」
そんな風に言って苦笑いをこぼす。
柄沢さんだと言って、親が承諾するかどうか……もちろん、絶対に許さないだろう。例え、僕がどれだけ信用できる人だと言っても、バイト先が近いだけの人間を、親が信用するはずがない。おまけにあのバイクだ。この見た目だって、きっと親は嫌悪感を示すだろう。柄沢さん本人は「昔に比べたら落ち着いてる」と思っているのかもしれないけど、普通にしていたら、そこそこ目立つ風貌だと思う。怖い人オーラが抜け切れていない。シャバの空気はおいしいですか?と聞きたくなる。もっとも、そんなこと口が裂けても言えないけど。
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