その恋は密やかに ~貰ったのは第二ボタンじゃない~

2wei

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「な~と~り」

 体育の授業は背の順で並ぶ。四人一組の隊列で並ぶため、背の高い俺と名取は最後列で隣に並ぶ。

「……」
「ちょ、名取? おい、聞いてる!?」

 クラスの席も前後。背の順でも前後。長らくただのモブキャラだと思っていた名取だが、その宛転えんてんたる口調のおかげで、俺の中でサブキャラまで格上げされた。しかもこいつ、よく見ると案外オシャレなんだよ。フツメンがお洒落しちゃダメなんて法律はない、と言い切るだけあって、羽織っているコートが妙にお洒落だったり、鞄の中に詰め込まれているタオルハンカチが実はブランドものだったり、マフラーや靴、下着に至るまで、案外高級品が使われている。何者だよ、と最近ではちょっと疑わしく思えるほどだ。

 親の金なのか、はたまた何かしらの小遣い稼ぎをしているのか。こういうモブっぽいキャラほど怪しいアルバイトをしてたりするしな。体売ったりとか。……誰に? 男に? ……この大男がか? ないな。全然萌えない。もうちょっと小さい男子ならありえるかもしれないけど。

「まぁ、いいや。無視でも耳は聞こえてるだろうから」

 隣でつーんとしながら無視を決め込む名取に、俺もめげずに話しかける。

 席替えをして約1ヶ月。今までほとんど喋ったことのなかった名取だけど、話してみると結構サバサバしていて気持ちのいい男だった。滔々とうとうとした喋り口調なのだが、決してお喋り野郎というわけではなく、要点を抑えてズバリと切り込んでくる感じだ。

 だが今朝、俺の愛読書を見せてやると、名取は心底嫌そうな顔をした。

『その人のどこがいいのか、俺には理解できない』

 この1ヶ月、名取に布教するつもりで彼への愛を語り続けてきたのに、no name の写真を見るや否や、首を振られた。

 何故だ!と嘆く俺に、名取は「きもい」と心無い言葉を浴びせてくれた。
 で、いま。俺が名取に無視を決め込んでもいいくらいなのだが、何故かそれは名取が先取りしている。

「でさ、朝の話の続きなんだけど。クリスマスにヘアショーがあるんだよ! TSUKASAさんも出るみたいでさ~、俺絶対見に行こうと思って! 名取もどう?」
「結構です」

 無視を決め込んでいたはずの名取だが、若干食い気味に謝絶の言葉を述べた。

「断るの早っ! ちょっとは悩めって!」

 けどまた無視された。別にいいけどさ。

「ヘアモデルしないかってTSUKASAさんに誘われたんだよなぁ、俺」

 隊列の前で体育教師が「上の服脱げ~」と指示を出してくる。今日はマラソン大会前日。最後の練習だ。指示された通り、長袖の体操服に手をかけ脱ごうとしたら、驚くことに名取が俺に食い付いた。

「本当に!?」

 それは思ってもみない反応で、そして聞いたこともないくらい嬉しそうな声だった。
 名取に勢いよく掴まれた手首も驚いてるように思う。

「え……うん」
「するの!?  モデル! だったら俺見に行くよ!」

 信じられない好感触の反応だ。さっきまで無視されていたとは思えぬほどに。けど、ごめん。

「悪い……断ったんだ。俺が出たらno name のメンツが潰れると思ったから……」
「ぉっ……、そんなヤツの心配なんかしなくていいってば」

 口惜しそうに一人ごちり、聞き取れないほど小さな声で「役立たず」と言われた気がした。


 ……役……立たず?


 聞き間違いかと思うほどの小さな声。なんて?と聞き返したけど、名取は「つまらないって言ったの!」と、乱暴に返答を寄越した。

 ……つまらない? いや、俺には役立たずって聞こえたんだけど……な。

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