とけてつぶれる

とけてつぶれる

８

　機材庫に響くのは濡れた声と濡れた音。
　庄野が掴まっている棚はガタガタと音を立て、時折物が落ちてくる。それをいちいち受け止めているのは永井だ。備品を破損させるわけにはいかない。その辺はさすがの社長である。

「ぁ…あ……ッ、しゃ…ちょう…っ！」

　庄野は、もっと荒々しく抱かれるものだと思っていた。だから、丁寧で優しく、まるで労わる様に自分を抱く永井に意表を突かれ、とてつもなく恥ずかしかった。煽った落とし前をつけろ、なんて言われたから、もっと強引で荒々しく、ただ欲を吐き出されるだけだと思っていた。

　それなのに永井は、庄野の髪を優しく梳かし、頭を撫で、背中に柔らかなキスを落としてくる。あまりの丁寧さと優しさに、愛されてるじゃん、と勘違いしてしまいそうになる。
　いつもこんなセックスをするのかと、庄野は永井の意外性に衝撃を受け、そしてやっぱり、物凄く恥ずかしかった。

　痛いか、大丈夫かと、そんな言葉が掛けられるわけじゃ無い。けど、庄野の様子を伺いながら焦ることもなくじっくりとほぐされ、ゆっくりと時間をかけて彼のすべてが埋め込まれた。
　打ち付けられる腰の動きとて、そこまで激しいわけじゃ無い。それでも時間をかけて解したからなのか、的確に ”イイトコロ” を突き上げられ、体はその度しなやかなに飛び上がる。

（なんなんだ、変な抱き方しやがって）

　庄野が抱いた永井のセックスの印象はそんなものだった。
　ずっと狙っていた永井を己の体で受け止めていることへの喜びよりも、永井の言動と行動の差違に困惑し、彼のこれまでの性生活に疑問すら覚えた。

（この人、いつもこんな感じなのか？）

　静かすぎる性行為。一言も喋ってはくれない。キスもしない。けど、口にはしてくれないだけで、身体中に唇を這わされた。
　その彼の柔らかい唇の感覚に身体がいつもより火照っているのは確かで、チュ…とたまに吸い上げられてはすぐに解放される。
　それじゃキスマークすらできない。印、付けたいなら付けろよ、と喉元まで出掛かるのに、何故かどうしてもそれだけは言っちゃダメな気がした。庄野は焦れったい感覚と、緩やかながらも身体中に走る電気のような快感に、頭の中まで火照り始める。そして、”イキタイ” の四文字しか浮かばなくなった。

　どれだけの時間、緩やかな刺激を与え続けられているのか。それすら分からなくなり、自分で自分のものを扱きあげようとすると、それはすぐに永井に止められ、その手の甲にすらキスをされた。
　そんなことされたら、己自身を弄ることすら出来ない。ある意味、これは確かに……地獄だ。

　庄野はずっと、長く長く続く射精感に気が狂いそうになり、お願いだと何度も懇願した。イキタイ、と。
　だが、解放されたのはそのずっとずっと後だった。