7 / 9
とけてつぶれる
7
しおりを挟む
泣き声とも取れる声に、庄野はゆっくり唇を離すと、本当に永井が涙を流していることに驚愕した。
「ぁ……、す、すみません!」
後退り、僅かに距離をとる庄野へ、永井は手元にあった消しゴムを投げつける。
「いてっ!」
至近距離から消しゴム。避け切れるはずもない。
永井は涙を拭い、痛いほど掴まれていた手首が、ほんのり赤らんでいることにぎゅっと唇を噛み締めた。抵抗出来ないことの恐怖を、こんな形で知るなんて、不本意すぎて腹が立った。
成人になったばかりのクソガキに力負けするなんてと、永井のプライドが怒りに震える。だが、それを無駄に庄野にぶつけたりはしない。ぐっと怒りや悔しさを堪え、椅子ごとくるりと背を向けた。
「言っとくが、俺はネコじゃない。リバでもない。男が対象であることは認めるが、お前みたいなジャリを相手するつもりはない」
そうやって壁を作って、自分さえも本当の気持ちが見えなくなるほどの鉄壁を築いてゆく。永井は恐ろしく器用で、がっかりするほど不器用なのだ。
「ジャリ……っすか」
庄野は項垂れ、転がっている消しゴムを拾うと、パソコンと向き合っている永井の後ろから手を伸ばし、机にそれを置いた。そしてそっと永井を抱きしめる。頼りない背中に見えたから。
「……聞こえなかったのか。相手しないと言ってるんだ。離れろ」
「だったら、振りほどいてください」
振りほどくことなんて簡単だった。さっきのように力づくで抑え込まれているわけでもない。だけど例えば、こうやって抱きしめてくれる存在があいつならと思い、永井はゆるゆると頭を振った。
「振りほどかないんですか?」
耳元で聞こえる声。
永井は庄野の腕を振り解く様に立ち上がると、目を丸くしている彼を睨み、開け放したままの機材庫へ押しやる様に詰め寄った。
立ち上がるとよく分かる。身長差は歴然。永井は覆い被さるように庄野へ影を落とす。
バタンっと機材庫の扉を閉め、腕を掴んだ。
「しゃ……社長」
「もう一度言っておく。俺はタチだ。俺を煽った落とし前はてめえでつけろ。覚悟がないなら、今すぐ帰れ」
昔なら、こんな逃げ道作りもしなかった。なのに ”帰れ” なんて逃げ道を用意して、やはり有耶無耶にできる道を選んでしまう。
逃げろ、帰れ。ここから消えろ、と。
しかし、庄野は無抵抗のまま永井を見つめ、あの男にそっくりな哀愁に満ちた瞳を向けてきた。
同情されているような気がして、そんな目で見るなと、掴んでいた腕をそのまま突き飛ばした。
庄野は棚にぶつかって止まると、ぷくっと頬を膨らます。
「なんだよ、最初に煽ってきたの社長じゃん。そりゃないっすよ」
庄野はニットとインナーをおもむろに脱ぎ去ると、上半身裸のまま、今度は永井に詰め寄った。
「覚悟なんてつける必要ないっす。だって俺、ネコっすから」
「ぁ……、す、すみません!」
後退り、僅かに距離をとる庄野へ、永井は手元にあった消しゴムを投げつける。
「いてっ!」
至近距離から消しゴム。避け切れるはずもない。
永井は涙を拭い、痛いほど掴まれていた手首が、ほんのり赤らんでいることにぎゅっと唇を噛み締めた。抵抗出来ないことの恐怖を、こんな形で知るなんて、不本意すぎて腹が立った。
成人になったばかりのクソガキに力負けするなんてと、永井のプライドが怒りに震える。だが、それを無駄に庄野にぶつけたりはしない。ぐっと怒りや悔しさを堪え、椅子ごとくるりと背を向けた。
「言っとくが、俺はネコじゃない。リバでもない。男が対象であることは認めるが、お前みたいなジャリを相手するつもりはない」
そうやって壁を作って、自分さえも本当の気持ちが見えなくなるほどの鉄壁を築いてゆく。永井は恐ろしく器用で、がっかりするほど不器用なのだ。
「ジャリ……っすか」
庄野は項垂れ、転がっている消しゴムを拾うと、パソコンと向き合っている永井の後ろから手を伸ばし、机にそれを置いた。そしてそっと永井を抱きしめる。頼りない背中に見えたから。
「……聞こえなかったのか。相手しないと言ってるんだ。離れろ」
「だったら、振りほどいてください」
振りほどくことなんて簡単だった。さっきのように力づくで抑え込まれているわけでもない。だけど例えば、こうやって抱きしめてくれる存在があいつならと思い、永井はゆるゆると頭を振った。
「振りほどかないんですか?」
耳元で聞こえる声。
永井は庄野の腕を振り解く様に立ち上がると、目を丸くしている彼を睨み、開け放したままの機材庫へ押しやる様に詰め寄った。
立ち上がるとよく分かる。身長差は歴然。永井は覆い被さるように庄野へ影を落とす。
バタンっと機材庫の扉を閉め、腕を掴んだ。
「しゃ……社長」
「もう一度言っておく。俺はタチだ。俺を煽った落とし前はてめえでつけろ。覚悟がないなら、今すぐ帰れ」
昔なら、こんな逃げ道作りもしなかった。なのに ”帰れ” なんて逃げ道を用意して、やはり有耶無耶にできる道を選んでしまう。
逃げろ、帰れ。ここから消えろ、と。
しかし、庄野は無抵抗のまま永井を見つめ、あの男にそっくりな哀愁に満ちた瞳を向けてきた。
同情されているような気がして、そんな目で見るなと、掴んでいた腕をそのまま突き飛ばした。
庄野は棚にぶつかって止まると、ぷくっと頬を膨らます。
「なんだよ、最初に煽ってきたの社長じゃん。そりゃないっすよ」
庄野はニットとインナーをおもむろに脱ぎ去ると、上半身裸のまま、今度は永井に詰め寄った。
「覚悟なんてつける必要ないっす。だって俺、ネコっすから」
2
お気に入りに追加
6
あなたにおすすめの小説
お客様と商品
あかまロケ
BL
馬鹿で、不細工で、性格最悪…なオレが、衣食住提供と引き換えに体を売る相手は高校時代一度も面識の無かったエリートモテモテイケメン御曹司で。オレは商品で、相手はお客様。そう思って毎日せっせとお客様に尽くす涙ぐましい努力のオレの物語。(*ムーンライトノベルズ・pixivにも投稿してます。)
寮生活のイジメ【社会人版】
ポコたん
BL
田舎から出てきた真面目な社会人が先輩社員に性的イジメされそのあと仕返しをする創作BL小説
【この小説は性行為・同性愛・SM・イジメ的要素が含まれます。理解のある方のみこの先にお進みください。】
全四話
毎週日曜日の正午に一話ずつ公開
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる