とけてつぶれる

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 スタジオ兼ライブハウス『Soar』
 キャパ300人のライブハウスと、全五部屋の音楽スタジオが完備されているこの施設の代表取締役は、何を隠そう永井翔だ。そう、突然業界から抹消されたNIAのボーカル。
 彼は今、ライブハウスを経営していた。社員は八人。今のところ、経営が傾いている気配はない。

「社長」

 事務所の一角にある永井の小さな社長室。と言っても、特別ドアなどはない。一応壁で囲ってはいるが、ひょっこり覗かれればプライベートもクソもなかった。
 そこに、マイクケーブルを持ったアルバイトの庄野しょうの智之ともゆきが人懐こい笑顔を浮かべてやってきた。

「いつでもいんすけど、どっかでライブさせてもらえませんか?」

 庄野はそう言って、全然来月でもいいんですけど、なんて付け加える。
 アマチュアバンドのイベントなど、嫌という程ある。

「勝手にしろ。鵜飼うかいにでも相談してみたらいい。調整してくれるだろ」
「鵜飼さんが社長に聞けって言ったんすよ。社内のたらい回しはここでストップっすよ」

 永井はため息をつき席を立つと、およそ90センチばかり空いている社長室の出入り口から事務所へと顔を出した。事務所の壁には社員の机がL字に並び、部屋の中心には楕円形の会議机が置かれている。どの机も紙が散乱し、会議用の机には大量のROMが積まれていた。

 掃除しろよ、とは思わない。これが日常の事務所の風景だ。
 永井は、机に向かってパソコンを打ちまくっている鵜飼を呼んだ。

「鵜飼。庄野のバンドを来月のイベントで調整してやってくれ」

 永井の言葉に鵜飼は「うーす」と背中を向けたまま返事し、また猛烈なスピードでパソコンを打ち始める。他のスタッフ達も忙しそうに机に向かい、バタバタと事務所とライブハウスとを往復している。そんなスタッフ達を見つめたのち、永井は庄野を振り返った。

「あとは鵜飼と相談しろ。それよりそのマイクケーブルはなんだ」
「あ、接続部分の不良っす。使えないって目近めちかさんが俺に押し付けたんですよ」
「預かっておく。明日の準備に追われてるだろうし、目近を手伝って来てやってくれ」
「おぃっす」

 庄野はイタズラな笑顔で敬礼すると、跳ねるように走って事務所を出て行った。
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