セカンドココア

2wei

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side 比呂人

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 深夜二時まで、目が充血するほど加藤さんとゲームをした。時間大丈夫?と何度も確認したけど、彼はチラチラと時計を見ながら「大丈夫」とまるで自分に言い聞かせるみたいにゲームを楽しんでいた。
 途中、本当は全然大丈夫じゃないのかもと思ったけど、家に帰りたくない理由があったりして……なんて考え出してしまうと、一晩くらい泊めてあげてもいいかと僕の警戒心は完全に奪われてしまった。

 そして深夜二時、彼は「眠……」と大あくびして、「帰ります」と立ち上がった。
 けど、僕は気付いていたんだ。

「加藤くん。外は雨だ。今日はもう泊まっていきなよ」
「うそ!」

 テレビの電源を消すと、加藤くんの耳にも雨音が聞き取れたのか、「うーゎ」と声を出し、座っている僕を見下ろすと、エヘッと可愛らしくはにかんだ。

「え、ホントに泊ってって……いいですか?」
「いいですよ。布団出しましょう」
「うっそ! 布団なんかあるの!?」
「あるある。昔、母親が置いていったんですよ。自分用にって。もう何年もこっちに顔見せませんけど」

 捨てていいものか困っていたんだけど、まさか活躍する時がくるとは。

 加藤くんと二人で押し入れの下に方で押しつぶされている布団を引っ張り出し、僕のベッドの横にそれを敷いた。

「加藤さん、明日何時起きですか?」

 ベッドに潜り込み、暫くしてから明日の自分の出勤時間を伝えなければいけないことを思い出しそう聞いたのだが、既に彼は夢の中だった。

「寝るの……早」

 ベッドの上から眠る彼を見下ろし、枕を抱えるようにうつ伏せで寝ているその顔に、堪らず笑ってしまった。

「ほんと綺麗な顔……。また遊びに来てくれるかな」

 楽しかった。
 家に自分以外の人がいることってこんなに楽しかっただろうか。高校を卒業してからずっと東京で一人暮らしだから、この感じ……すっかり忘れていた。
 近くに誰かがいることって、こんなにワクワクすることなんだね。修学旅行みたい。相手が男だからこそそう感じるんだろうな。

 これが女性だったらワクワクじゃなくて、ドキドキだもん。"楽しい" の種類も違ってくる。

 加藤くんとこのままサヨウナラするのは少し惜しいな。明日の朝、勇気出して誘ってみようかな。また、ご飯でも食べに行きませんかって。

 勇気だすぞと決心決めて、そのまま僕もいつの間にか眠ってしまっていた。
 そして目が覚めたのは目覚ましの音ではなく、加藤くんの叫び声だった。

「やべーっ! 寝すぎた!」

 心臓が止まるかと思うほどの大声に、そういえば加藤くんと寝ていたことを目覚めと共に思い出した。

「な、なに!? 何時!?」

 ビックリして尋ねたけど、加藤くんは「遅刻っ」と叫び、布団を簡単に畳みはじめた。目覚まし時計を確認するとまだ六時半過ぎだ。六時半で遅刻というのは相当早い気がした。

 けど、どうやら遅刻は本当らしくて、加藤くんはヤベーヤベーと叫びながら「間に合わない!」と泣きそうな声を上げた。
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