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side 亮介
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きっと顔面に書いてしまったのだろう。日下さんが笑いながら補足する。
「あ、僕メニュー全制覇目指してるんで、順番に進んでるんですよ」
何この人! 日常を楽しみすぎだろ! やっぱすげぇ興味深い人だ! そんなことしようと思ったこともねぇわ、俺! 好き嫌いがあるわけじゃないけど、欲しいものしか食いたくないし、その日の気分とかもあるじゃん!? この人そういうの全無視!? 魚食いたい気分でも、パスタ食べちゃう系なの!? すげー! こだわりとかないのかな? なさそうだなぁ、なさそうに見えてきた!!
「どうされます? オススメはビーフシチューですが、カツレツ定食もすごく美味しいですよ」
えー、迷わすねぇ! ……というか改めて思うけど、この人喋るの絶対にうまい。女口説き落とすのも一瞬な気がする。
なんだろう……なんか、俺決して女ではないけど、この人になら女のように誑かされたり、転がされたとしても嫌な気がしないと思う。なんというか、本当にすごく不思議な人だ。
「いや、カツレツは今度にします。今日はオススメのビーフシチューで」
「ならば、このバゲットにバターを追加することをお勧めします」
ビーフシチューとセットになっているバゲットに、50円プラスでバターを付けてもらえるらしい。そんなことメニュー表には書いていないが、日下さんが自慢げにそれを勧めて来たから、言われた通りに注文することにした。
自分で飯を作れないかわりに、きっとたくさんのうまい飯屋を知っているのだろう。グルメっぽいもんな。
すみません、と日下さんが店員を呼ぶと、厨房からお冷を持ったおばさんがパタパタとこちらへ駆けてきた。そして俺を発見して目を丸くする。
「あらまぁ」
やべ、バレるか?
とりあえずペコリと頭を下げると、おばさんはニコニコしながら、「ご注文は?」と訪ねてきた。良かったよ、空気読める人で!
日下さんは俺の分の注文もスマートに済ませてくれると、飲み物はどうするかと尋ねてくれた。昔飲んだクリームソーダが思い出されたが、流石にそれはやめておいた。
結果的に烏龍茶というひねり一つない注文になったが、日下さんが満面の笑みで「クリームソーダ♪」と注文したのには、少しばかり驚いた。
この人そんなの注文するのかよ! どんだけ面白いんだよ! ツッコんで欲しいの? 俺に突っ込んで欲しいのか!?
お店のおばちゃんは「お決まりのドリンクね」と言わんばかりに頷き、厨房に引っ込んだ。
やべー。くそ面白い。
「今年は梅雨明けいつ頃ですかねぇ」
降りしきる雨を恨めしそうに見つめながら日下さんが呟いた。
「どうでしょうか。お仕事は天気に影響されるんですか?」
営業さんだとしたら外回りも多いだろう。梅雨の時期は憂鬱になるのかもしれない。
「雨……あぁ。休日に雨だと忙しいんですよ。平日の雨降りは暇ですけど」
なんだそれ。よく意味はわからないが、あまりツッコんだ話は避けようと瞬時に思った。
だって詳しく聞けば、俺も自分の話をしなくちゃいけなくなるだろ? それはちょっとな。「俺、芸能人だしぃ」みたいなアピールしたくないから。
「休日出勤もあるんですね。大変だ。あ、今日は平日で雨降りだから定時で帰れたんですか?」
平日の雨降りは暇だと言っていたから。
「はは、そうですね」
そう言って「あなたは?」という目をしたが、僅かに考え、彼は決心したように口を開いた。
「失礼ですが、お名前を……伺っても宜しいですか?」
ま、普通はね。一緒に食事するのに名乗らないとか、さすがにおかしいもんな。名乗るつもりもなかったのだが、こればっかりは仕方が無い。
「あ、僕メニュー全制覇目指してるんで、順番に進んでるんですよ」
何この人! 日常を楽しみすぎだろ! やっぱすげぇ興味深い人だ! そんなことしようと思ったこともねぇわ、俺! 好き嫌いがあるわけじゃないけど、欲しいものしか食いたくないし、その日の気分とかもあるじゃん!? この人そういうの全無視!? 魚食いたい気分でも、パスタ食べちゃう系なの!? すげー! こだわりとかないのかな? なさそうだなぁ、なさそうに見えてきた!!
「どうされます? オススメはビーフシチューですが、カツレツ定食もすごく美味しいですよ」
えー、迷わすねぇ! ……というか改めて思うけど、この人喋るの絶対にうまい。女口説き落とすのも一瞬な気がする。
なんだろう……なんか、俺決して女ではないけど、この人になら女のように誑かされたり、転がされたとしても嫌な気がしないと思う。なんというか、本当にすごく不思議な人だ。
「いや、カツレツは今度にします。今日はオススメのビーフシチューで」
「ならば、このバゲットにバターを追加することをお勧めします」
ビーフシチューとセットになっているバゲットに、50円プラスでバターを付けてもらえるらしい。そんなことメニュー表には書いていないが、日下さんが自慢げにそれを勧めて来たから、言われた通りに注文することにした。
自分で飯を作れないかわりに、きっとたくさんのうまい飯屋を知っているのだろう。グルメっぽいもんな。
すみません、と日下さんが店員を呼ぶと、厨房からお冷を持ったおばさんがパタパタとこちらへ駆けてきた。そして俺を発見して目を丸くする。
「あらまぁ」
やべ、バレるか?
とりあえずペコリと頭を下げると、おばさんはニコニコしながら、「ご注文は?」と訪ねてきた。良かったよ、空気読める人で!
日下さんは俺の分の注文もスマートに済ませてくれると、飲み物はどうするかと尋ねてくれた。昔飲んだクリームソーダが思い出されたが、流石にそれはやめておいた。
結果的に烏龍茶というひねり一つない注文になったが、日下さんが満面の笑みで「クリームソーダ♪」と注文したのには、少しばかり驚いた。
この人そんなの注文するのかよ! どんだけ面白いんだよ! ツッコんで欲しいの? 俺に突っ込んで欲しいのか!?
お店のおばちゃんは「お決まりのドリンクね」と言わんばかりに頷き、厨房に引っ込んだ。
やべー。くそ面白い。
「今年は梅雨明けいつ頃ですかねぇ」
降りしきる雨を恨めしそうに見つめながら日下さんが呟いた。
「どうでしょうか。お仕事は天気に影響されるんですか?」
営業さんだとしたら外回りも多いだろう。梅雨の時期は憂鬱になるのかもしれない。
「雨……あぁ。休日に雨だと忙しいんですよ。平日の雨降りは暇ですけど」
なんだそれ。よく意味はわからないが、あまりツッコんだ話は避けようと瞬時に思った。
だって詳しく聞けば、俺も自分の話をしなくちゃいけなくなるだろ? それはちょっとな。「俺、芸能人だしぃ」みたいなアピールしたくないから。
「休日出勤もあるんですね。大変だ。あ、今日は平日で雨降りだから定時で帰れたんですか?」
平日の雨降りは暇だと言っていたから。
「はは、そうですね」
そう言って「あなたは?」という目をしたが、僅かに考え、彼は決心したように口を開いた。
「失礼ですが、お名前を……伺っても宜しいですか?」
ま、普通はね。一緒に食事するのに名乗らないとか、さすがにおかしいもんな。名乗るつもりもなかったのだが、こればっかりは仕方が無い。
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