12 / 21
side 亮介
11
しおりを挟む
「いや、小さい頃に親に連れてきてもらいましたが、最近はめっきり。……へぇ、ビーフシチュー美味しいんですね!」
「はい、良かったら是非食べてみてください。常連の僕が保証しますよ」
「今入りません?」
だって、一人で入るには勇気いるし。
そんな理由。けど、何も考えず、それこそ友達を誘うみたいに提案した俺へ、日下さんは一瞬目を丸くした。それを見て漸く「やってしまった」と自分の発言の軽さに気付いたが、それ以上に日下さんの返答に驚いた。
「いいですよ。飯買いに行かなくて済むなら、こちらも好都合です。行きましょう、行きましょう」
え!? おい、まじか!!
くるりと傘の中で方向転換する日下さん。
うぉ、この人まじだ! 俺より軽いな! 他人のことを疑うとか警戒するとか、そういうのないのか!?
ビビってる俺に気付いているのかいないのか、日下さんがさっさと歩き出してしまうものだから、慌ててその後を追った。
カランカランっと軽い鈴の音を鳴らし開いた扉の先は、昔から変わらないダークブランの木造家屋。レトロ感しかないが、決してアンティークでオシャレとは到底言い難い。
窓辺のレースカーテンは黄ばんでるし、椅子のクッション部分もひび割れている。各テーブルの上にぶら下がっている照明の傘も色褪せ、カウンターの隅に置かれている置物も木彫りの熊ならぬ木彫りのウサギで、なんていうか……、可愛いとはいえない中途半端さだ。
テーブルクロスもすべて柄違いで、おばあちゃんちの食卓って感じ。ハッキリ言うけど、二十歳そこそこの若造には理解しにくいインテリアセンスな上、どうしたって一人では入りにくい店だ。
え、日下さんよくココに来るの? それはそれでスゲーな。
美形がこの店で普通に寛ぐとか、逆にカッコイイんですけど。
ビーフシチューがうまいというだけあってか、店内には数名の客がちゃんといて、地元くさいおじさんたちが夕刊を読みながら食事をしている。
店内入口に設置されている新聞紙棚から、日下さんも一冊それを手にした。
棚に雑誌はない。新聞紙のみだ。
キッチンから、「お好きな席どうぞ~」という声が聞こえ、日下さんは俺を一度振り返ってからタバコ吸います?と尋ねてきた。ふるふる首を振ると彼は少しばかり苦笑いして、人気の少ない席へ視線を移した。
「そういえばこの店、分煙されてないんですよね。大丈夫ですか?」
「全然構いません。日下さん、もしも吸われるなら遠慮なさらないでくださいね」
「いえ、僕も吸いません」
そう言って慣れた足取りでスタスタ奥の席へと歩き、黄色のギンガムチェックがきっと可愛いのであろうテーブルクロスの席へと腰を下ろした。
日下さんはメニューを引っ張りだし、スーツのジャケットボタンを外すと、「失礼」と一言断ってからネクタイを少しだけ緩めた。
絵になる人だ。散々事務所でイケメンを拝み続けてきているが、目の肥えた俺をも見蕩れさせるなんて、結構だと思うぞ。なんて柔らかで美しい人なんだろうか。
栗色の猫毛も、色白の肌も、その少したれた目も……、細く長い指先も。本当にどこぞやのモデルみたいだ。
「これですよ、ビーフシチュー。思ってるより量が多いんで注意してください。僕は今日は……シーフードドリアの番ですね」
番ってなに?
「はい、良かったら是非食べてみてください。常連の僕が保証しますよ」
「今入りません?」
だって、一人で入るには勇気いるし。
そんな理由。けど、何も考えず、それこそ友達を誘うみたいに提案した俺へ、日下さんは一瞬目を丸くした。それを見て漸く「やってしまった」と自分の発言の軽さに気付いたが、それ以上に日下さんの返答に驚いた。
「いいですよ。飯買いに行かなくて済むなら、こちらも好都合です。行きましょう、行きましょう」
え!? おい、まじか!!
くるりと傘の中で方向転換する日下さん。
うぉ、この人まじだ! 俺より軽いな! 他人のことを疑うとか警戒するとか、そういうのないのか!?
ビビってる俺に気付いているのかいないのか、日下さんがさっさと歩き出してしまうものだから、慌ててその後を追った。
カランカランっと軽い鈴の音を鳴らし開いた扉の先は、昔から変わらないダークブランの木造家屋。レトロ感しかないが、決してアンティークでオシャレとは到底言い難い。
窓辺のレースカーテンは黄ばんでるし、椅子のクッション部分もひび割れている。各テーブルの上にぶら下がっている照明の傘も色褪せ、カウンターの隅に置かれている置物も木彫りの熊ならぬ木彫りのウサギで、なんていうか……、可愛いとはいえない中途半端さだ。
テーブルクロスもすべて柄違いで、おばあちゃんちの食卓って感じ。ハッキリ言うけど、二十歳そこそこの若造には理解しにくいインテリアセンスな上、どうしたって一人では入りにくい店だ。
え、日下さんよくココに来るの? それはそれでスゲーな。
美形がこの店で普通に寛ぐとか、逆にカッコイイんですけど。
ビーフシチューがうまいというだけあってか、店内には数名の客がちゃんといて、地元くさいおじさんたちが夕刊を読みながら食事をしている。
店内入口に設置されている新聞紙棚から、日下さんも一冊それを手にした。
棚に雑誌はない。新聞紙のみだ。
キッチンから、「お好きな席どうぞ~」という声が聞こえ、日下さんは俺を一度振り返ってからタバコ吸います?と尋ねてきた。ふるふる首を振ると彼は少しばかり苦笑いして、人気の少ない席へ視線を移した。
「そういえばこの店、分煙されてないんですよね。大丈夫ですか?」
「全然構いません。日下さん、もしも吸われるなら遠慮なさらないでくださいね」
「いえ、僕も吸いません」
そう言って慣れた足取りでスタスタ奥の席へと歩き、黄色のギンガムチェックがきっと可愛いのであろうテーブルクロスの席へと腰を下ろした。
日下さんはメニューを引っ張りだし、スーツのジャケットボタンを外すと、「失礼」と一言断ってからネクタイを少しだけ緩めた。
絵になる人だ。散々事務所でイケメンを拝み続けてきているが、目の肥えた俺をも見蕩れさせるなんて、結構だと思うぞ。なんて柔らかで美しい人なんだろうか。
栗色の猫毛も、色白の肌も、その少したれた目も……、細く長い指先も。本当にどこぞやのモデルみたいだ。
「これですよ、ビーフシチュー。思ってるより量が多いんで注意してください。僕は今日は……シーフードドリアの番ですね」
番ってなに?
0
お気に入りに追加
14
あなたにおすすめの小説

私のバラ色ではない人生
野村にれ
恋愛
ララシャ・ロアンスラー公爵令嬢は、クロンデール王国の王太子殿下の婚約者だった。
だが、隣国であるピデム王国の第二王子に見初められて、婚約が解消になってしまった。
そして、後任にされたのが妹であるソアリス・ロアンスラーである。
ソアリスは王太子妃になりたくもなければ、王太子妃にも相応しくないと自負していた。
だが、ロアンスラー公爵家としても責任を取らなければならず、
既に高位貴族の令嬢たちは婚約者がいたり、結婚している。
ソアリスは不本意ながらも嫁ぐことになってしまう。

王命って何ですか?
まるまる⭐️
恋愛
その日、貴族裁判所前には多くの貴族達が傍聴券を求め、所狭しと行列を作っていた。
貴族達にとって注目すべき裁判が開かれるからだ。
現国王の妹王女の嫁ぎ先である建国以来の名門侯爵家が、新興貴族である伯爵家から訴えを起こされたこの裁判。
人々の関心を集めないはずがない。
裁判の冒頭、証言台に立った伯爵家長女は涙ながらに訴えた。
「私には婚約者がいました…。
彼を愛していました。でも、私とその方の婚約は破棄され、私は意に沿わぬ男性の元へと嫁ぎ、侯爵夫人となったのです。
そう…。誰も覆す事の出来ない王命と言う理不尽な制度によって…。
ですが、理不尽な制度には理不尽な扱いが待っていました…」
裁判開始早々、王命を理不尽だと公衆の面前で公言した彼女。裁判での証言でなければ不敬罪に問われても可笑しくはない発言だ。
だが、彼女はそんな事は全て承知の上であえてこの言葉を発した。
彼女はこれより少し前、嫁ぎ先の侯爵家から彼女の有責で離縁されている。原因は彼女の不貞行為だ。彼女はそれを否定し、この裁判に於いて自身の無実を証明しようとしているのだ。
次々に積み重ねられていく証言に次第に追い込まれていく侯爵家。明らかになっていく真実を傍聴席の貴族達は息を飲んで見守る。
裁判の最後、彼女は傍聴席に向かって訴えかけた。
「王命って何ですか?」と。
✳︎不定期更新、設定ゆるゆるです。
いずれ最強の錬金術師?
小狐丸
ファンタジー
テンプレのごとく勇者召喚に巻き込まれたアラフォーサラリーマン入間 巧。何の因果か、女神様に勇者とは別口で異世界へと送られる事になる。
女神様の過保護なサポートで若返り、外見も日本人とはかけ離れたイケメンとなって異世界へと降り立つ。
けれど男の希望は生産職を営みながらのスローライフ。それを許さない女神特性の身体と能力。
はたして巧は異世界で平穏な生活を送れるのか。
**************
本編終了しました。
只今、暇つぶしに蛇足をツラツラ書き殴っています。
お暇でしたらどうぞ。
書籍版一巻〜七巻発売中です。
コミック版一巻〜二巻発売中です。
よろしくお願いします。
**************

【完結】正妃に裏切られて、どんな気持ちですか?
かとるり
恋愛
両国の繁栄のために嫁ぐことになった王女スカーレット。
しかし彼女を待ち受けていたのは王太子ディランからの信じられない言葉だった。
「スカーレット、俺はシェイラを正妃にすることに決めた」

離縁したいオメガの話
のらねことすていぬ
BL
オメガのリエトは、騎士団長の夫に愛されていない。
だったら他の男の妻になってしまえと、離縁を切り出すけれど……?
※文学フリマ東京で無料配布したペーパーの再掲です。

婚約破棄の現場に遭遇したので私から求婚することにしました!白豚と嘲笑った皆様には誠心誠意お返しさせていただきます!
ゆずこしょう
恋愛
父母に言われ、無理矢理夜会に参加することになったメロライン。
壁の花に徹していると…突然女性が誰かを糾弾し始めた。
「私、貴方のようなデブで吹き出物だらけの豚とは結婚できませんわ!」
「そ、そんな…そんなこと言わないでくれ…」
女性に縋り付く男性をもう1人の男が勢いよく蹴り上げる。
「残念だったな…オルラフィオ王太子殿下。お前とパルサティラの婚約は今日この日を持って破棄させてもらおう。」
一人の男が鼻血を出しながら膝から崩れ落ちた。
「フッ…なんだ。あんな性根の腐ったヤツらなんて放っておけ。オルラフィオ王太子殿下いいことを考えたぞ。私と婚約するのはどうだろうか。」
閃いたとばかりにメロラインはオルラフィオに求婚を迫ったのであった。
寵愛のいる旦那様との結婚生活が終わる。もし、次があるのなら緩やかに、優しい人と恋がしたい。
にのまえ
恋愛
リルガルド国。公爵令嬢リイーヤ・ロイアルは令嬢ながら、剣に明け暮れていた。
父に頼まれて参加をした王女のデビュタントの舞踏会で、伯爵家コール・デトロイトと知り合い恋に落ちる。
恋に浮かれて、剣を捨た。
コールと結婚をして初夜を迎えた。
リイーヤはナイトドレスを身に付け、鼓動を高鳴らせて旦那様を待っていた。しかし寝室に訪れた旦那から出た言葉は「私は君を抱くことはない」「私には心から愛する人がいる」だった。
ショックを受けて、旦那には愛してもられないと知る。しかし離縁したくてもリルガルド国では離縁は許されない。しかしリイーヤは二年待ち子供がいなければ離縁できると知る。
結婚二周年の食事の席で、旦那は義理両親にリイーヤに子供ができたと言い出した。それに反論して自分は生娘だと医師の診断書を見せる。
混乱した食堂を後にして、リイーヤは馬に乗り伯爵家から出て行き国境を越え違う国へと向かう。
もし、次があるのなら優しい人と恋がしたいと……
お読みいただき、ありがとうございます。
エブリスタで四月に『完結』した話に差し替えいたいと思っております。内容はさほど、変わっておりません。
それにあたり、栞を挟んでいただいている方、すみません。

余四郎さまの言うことにゃ
かずえ
BL
太平の世。国を治める将軍家の、初代様の孫にあたる香山藩の藩主には四人の息子がいた。ある日、藩主の座を狙う弟とのやり取りに疲れた藩主、玉乃川時成は宣言する。「これ以上の種はいらぬ。梅千代と余四郎は男を娶れ」と。
これは、そんなこんなで藩主の四男、余四郎の許婚となった伊之助の物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる