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第二十一章:運命
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確かに比呂人を愛している。
けど、俺を絶対必要としてくれている人達を差し置いて、わずかな希望しかない比呂人を選ぶ賭けには……出られない。腐っても俺はアイドルなんだ。
「笑え、加藤。……笑えるだろ?」
俺の腕の中で玲くんは力強く言った。
笑う角には福来たる……なんて、あのやかましい母の口癖。いつしかそれは俺の一本柱になっていて、アイドルをする上で特別大事にしてきた言葉だった。
笑え、笑え、と奮起して、だけどいつからか ”笑っても比呂人は帰ってこない” 、そんなことを思うようになって、笑うことが辛くなった。
だったらアイドルなんて辞めればいい。なんでアイドルなんかしてるんだ。
そう本気で考えた。
何を選び、何を捨てるのか。
贅沢が許されるのならば、すべてを選び、何も捨てたくない。
「……あぁ、笑える。俺たちは、そういう風に出来てる」
そっと玲くんから体を離し、俺は情けない微笑みを浮かべた。
「荷物は置いてこい。俺たちの笑顔を邪魔するものは必要ない」
ドンと胸に拳を押し当てられ、玲くんはもうリーダーの顔に戻っていた。
……荷物。
それが何を指すのか、考えたくはなかった。
けどリーダーにとっては……、いや、グループにとって、それは荷物でしかない。
「……大丈夫だよ、俺は笑えるから」
そうだとしても、俺は荷物だなんて認めない。置いていくなんて、あり得ない。
比呂人は、俺の大事な人だから。
なんて……つまりはやはり、俺の前に……道はない。
「行こう。ファンが待ってる」
リーダーの背中を押し、俺は握手会の会場へと歩き出した。
目の前に広がるのは荒野なんて甘っちょろいもんじゃない。切り立った崖だ。飛び降りれば瀕死。だけど、崖の下にはきっと道があるだろう。瀕死覚悟で飛び降りるのか、はたまたこの崖の上に立ち尽くし、広い広い空をただ眺めるだけなのか。
俺は、どちらを選べばいい? 誰を……何を、信じればいい……?
俺の背中に……羽根はない。
けど、俺を絶対必要としてくれている人達を差し置いて、わずかな希望しかない比呂人を選ぶ賭けには……出られない。腐っても俺はアイドルなんだ。
「笑え、加藤。……笑えるだろ?」
俺の腕の中で玲くんは力強く言った。
笑う角には福来たる……なんて、あのやかましい母の口癖。いつしかそれは俺の一本柱になっていて、アイドルをする上で特別大事にしてきた言葉だった。
笑え、笑え、と奮起して、だけどいつからか ”笑っても比呂人は帰ってこない” 、そんなことを思うようになって、笑うことが辛くなった。
だったらアイドルなんて辞めればいい。なんでアイドルなんかしてるんだ。
そう本気で考えた。
何を選び、何を捨てるのか。
贅沢が許されるのならば、すべてを選び、何も捨てたくない。
「……あぁ、笑える。俺たちは、そういう風に出来てる」
そっと玲くんから体を離し、俺は情けない微笑みを浮かべた。
「荷物は置いてこい。俺たちの笑顔を邪魔するものは必要ない」
ドンと胸に拳を押し当てられ、玲くんはもうリーダーの顔に戻っていた。
……荷物。
それが何を指すのか、考えたくはなかった。
けどリーダーにとっては……、いや、グループにとって、それは荷物でしかない。
「……大丈夫だよ、俺は笑えるから」
そうだとしても、俺は荷物だなんて認めない。置いていくなんて、あり得ない。
比呂人は、俺の大事な人だから。
なんて……つまりはやはり、俺の前に……道はない。
「行こう。ファンが待ってる」
リーダーの背中を押し、俺は握手会の会場へと歩き出した。
目の前に広がるのは荒野なんて甘っちょろいもんじゃない。切り立った崖だ。飛び降りれば瀕死。だけど、崖の下にはきっと道があるだろう。瀕死覚悟で飛び降りるのか、はたまたこの崖の上に立ち尽くし、広い広い空をただ眺めるだけなのか。
俺は、どちらを選べばいい? 誰を……何を、信じればいい……?
俺の背中に……羽根はない。
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