ココア ~僕の同居人はまさかのアイドルだった~

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第二十一章:運命

ーside 亮介ー 1

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 比呂人に会いたかった。

 ストッパーだった小形が俺を認めた。我慢するなと、比呂人を信じてみろと、会って話し合うべきだと言った。けど、codeも守れと言われた。頭の中も、心の中も、体中が軋むほど……たくさん考えた。だけど、プカプカと浮かんで絶対に沈まなかった言葉が、俺の中に本当の意味で浮上してきた。

― 亮介は若いし、アイドルだから、僕なんかと一緒にいちゃダメだ ―

 これなんだと……今になって理解する。
 別れる一番の原因になったのは、体の壁なんかじゃない。きっと……俺に愛想尽かしたわけでもない。

 ”比呂人を信じろ”

 そんな無神経な言葉を信じて、ようやくこんな答えが見つかる。だからこそ会うべきではない気がした。たぶん比呂人は、アイドルの俺が一番好きで、一番嫌いだったんだ。きっとすごく不安にさせていた。
 どれだけ一緒に居ても、どれだけアイドルという仮面を捨てても、比呂人はアイドルの俺という存在に苦悩し不安を募らせ、また性懲りも無くファンに遠慮していた。不安にさせたくなくてあの時は俺だって必死だった。俺なりに必死だった。けど、依存気味な俺の態度も、もしかすると比呂人には重荷だったのかもしれない。
 彼自身があれだけさっぱりしているんだ。のめり込むような態度の俺に、少なからず変なプレッシャーを感じていたのかもしれない。

 codeを守る。

 それは、比呂人を捨てるという意味だ。
 だって、比呂人はどうしたってアイドルの俺に不安を募らせる。依存するように愛しても尚、比呂人はアイドルの俺に追いかけ回され別れを選んだ。

 そんなの……俺にどうしろっていうんだ。codeを辞める他、比呂人を安心させてやる方法なんてないじゃないか。

 イベント会場の一角にある自販機の前に立ち尽くし、俺はぼんやりとココア缶を見つめた。

 会いたい。
 ……会いたい。

 けど、結局俺はコーヒーを買った。codeも比呂人も守ることなんて不可能だ。欲をかいて二つとも手に入れるなんて、きっと不可能なんだよ。

 だから会わない。会わない方がいいんだ。こんなに心は比呂人を求めているけど、アイドルを辞めて会いに行っても、比呂人はまた心を痛める。受け入れてくれる可能性だって100%じゃない。

「カトゥン」

 三月末。
 四月を目前にするこの季節は、まだ少し空気が冷たい。曇り空を見上げていた俺の背中に、聞き慣れた声がした。
 振り返ると、やはりそこにはリーダーが立っている。

「あ、時間ヤバイ?」

 しかし、リーダーは首を振ってのんびり俺に歩み寄ると、少し躊躇いがちに俺の腕を取った。

 頼りない手。
 ぎゅっと俺の服を握り、俺より二十センチほど背の低い彼は、伏せ目がちだった瞳を俺に向けた。その上目遣いに、俺はリーダーまでも不安にさせているのだと理解する。

「カトゥン」

 消え入りそうな声。
 そのままぎゅっと抱きしめられたけど、俺はリーダーを抱きしめ返すことが出来なかった。
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