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第二十章:引き換えチケット

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 この二ヶ月あまりで、彼にどんな心境の変化があったのかは分からないけど、前回とのギャップが激し過ぎて、僕の方がついていけない。

 で……ですよね、と小さく返事を返し、僕はそれ以上言葉が出てこなかった。

 小形くんがどれくらい僕らのことを知っているのか分からないから、どこまで掘り下げて話が出来るのか見当もつかない。そんなにはっきりと相槌を打たれたら、余計に亮介のことを聞きにくくなった。

 彼の出方を待つしかない。

 黙り込んだ僕の心中を察したのか、小形くんは僅かな沈黙の末、言葉を放った。

「奇跡は、そう何度も起こるものではありません」

 まるであの日がラストチャンスだったのだと言われたのような気がした。

 実際、そうだ。
 右手に持ったままの住所録。
 亮介は……もうそこにいない。

 でも。今この状況も ”奇跡” なんじゃないのか? 小形くんが再度訪ねてくれたことは、普通に考えてあり得ない。僕は期待さえ抱いていなかったんだ。これを奇跡とするならば、僕はやはり亮介のことを尋ねるべきなんじゃないだろうか。

 元気にしているのか、今はどうしているんだ、どこに引っ越したんだ?

 全部聞きたい。
 会いたい。今度こそ、きちんと会わせて欲しい。

 けど……、やはり自分が自分を抑制しにかかる。現住所を尋ねてどうするつもりだと。会って何を話すんだと。亮介はそれを望んでいないんじゃないだろうかって。
 そんな風に思ったら、この奇跡に頼る勇気さえなくなる。

 僕の罪に……時効はないんだ。

 泣きじゃくる亮介を無理やり追い出した。あんなに深く僕を愛してくれていたのに。あんなに、僕らの仲を保とうといつも努力してくれていたのに。

 突き放したのは……紛れもなくこの僕だ。

「でも、あなた達は例外です」

 はっきりした声が、俯いていた僕に投げかけられる。そして再び鞄の中から封筒を取り出した小形くんは、それをずいっと僕へ寄越した。

 細長い封筒。普通の封筒でないことは明らかだ。コンビニ名の書かれているその封筒に、僕は思わず小形くんへ視線を向けた。

「あの時……、足を骨折したあいつに何を言っても、どういう風に慰めても、自己嫌悪で全然立ち直らなかった加藤を、あなたはたった一言で元気付けた。ココアひとつで、加藤に笑顔を取り戻させた」

 その目は真剣で、掴まれた視線を外すことが出来なかった。

「もう、あの瞬間から奇跡は始まっていたんです」

 開けてください、そう言われ、僕は言われるがまま細長い封筒を開けた。

「……握手会」

 約一ヶ月後に開かれるcodeの握手会のチケットだった。

「今、コンビニのCMモデルをやらせてもらっていて、コンビニ限定CDを購入してくれた方の中から、抽選で握手会に参加出来るようになっているんです」

 そのCMを見たことはもちろんないけど、きっとこの握手会のチケットはかなり倍率が高いだろう。そうそう手に入る代物じゃないはずだ。

「来てください」

 もし良かったらという前置きは省かれ、”来てください” と言い切られた。
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