上 下
151 / 160
第二十章:引き換えチケット

しおりを挟む
「本当に会いに行って下さるとは、正直期待していませんでした」

 素直な小形くんの言葉。けど、確かに期待薄で間違いなかった。僕の答えは未だ見つかっていない。抜け出せない迷路を彷徨ったままだ。
 実際、あの日だって亮介に ”会い” に行ったわけじゃない。そこまでの勇気もないし、そんな立場でもない。あの夜、もしも会っていたとしたら、一体何を話していたのだろうか。あの時はごめんと今更謝ったのか? 好きなだけ罵り、殴りたければ殴ってくれと許しを請うたのだろうか? その上でまだ好きでたまらないのだと、この気持ちを押し付けた?
 ……いや、そんなこと出来るわけがない。自分ですべてを終わらせておきながら、そんなこと出来るわけがないだろ。

 僕は亮介に会いに行ったわけじゃないんだよ、小形くん。
 結果、あんな形で発見されてしまったけど、別にそれを狙って眠りこけたわけでもない。

「会いに行ったわけではありません。小形さんが期待してくださるような話し合いの場を持つために、この住所を訪ねたわけではなかったんです」

 小形くんは眉ひとつ動かさず、僕の言葉を聞いた。

「ご飯もろくに食べていないという亮介が、それでもちゃんと毎日を過ごしているか確かめたかっただけなんです。コンサートの後はいつも機嫌が良かったから、そうやって少しずつでも笑顔を取り戻してくれていたらいいと、それを……ただ見たかっただけなんです」

 例えそこで見た亮介が笑っていなかろうが、生きている彼を見たかった。確かめたかった。……たったそれだけ。

「だから会って話すつもりはなくて、姿を見たら帰ろうと思っていたんです。……結果、凍えて倒れてしまいましたけど」

 笑えない事実だけど、僕には笑うしか出来なかった。

 小形くんは僕らのことを一体どこまで知っているのだろう。僕の言葉に笑うことも怒ることも呆れる素振りさえ見せず、無表情で頷く。少し不気味なくらいだった。
 あまりに真っ直ぐ僕を見つめるものだから、その強烈に整った顔から思わず目を逸らす。前回会った時とはまるで正反対な彼の態度に、戸惑ってしまうのは仕方ないだろう。
 今は、そんな風に大人しく僕の話を聞くんじゃなくて、たとえ僕を罵ってでも、現在亮介がどうしているのかを教えてほしいんだ。
 亮介が引っ越したのは、やっぱり僕のせいなの? 僕を見つけてしまったせいで、亮介はパニックになっていない? まだご飯を食べない生活は続いているの?

 聞きたいことなんて山ほどある。
 何を言われても、どれだけ責め立てられても構わない。だから亮介のことを教えて欲しい。だけど、これほど落ち着いている彼にそんなことを聞く勇気はなかった。

「まさか倒れた僕を発見したのが亮介だったとは、運がいいのか悪いのか……。良くも悪くも奇跡でかしかないですね」
「僕もそう思います」

 何気無く言った言葉に、彼が間髪入れずに返答したから、僕ははっと顔を上げた。これほど好感触な返事を貰えると思っていなかっただけに、正直驚いた。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】薄幸文官志望は嘘をつく

七咲陸
BL
サシャ=ジルヴァールは伯爵家の長男として産まれるが、紫の瞳のせいで両親に疎まれ、弟からも蔑まれる日々を送っていた。 忌々しい紫眼と言う両親に幼い頃からサシャに魔道具の眼鏡を強要する。認識阻害がかかったメガネをかけている間は、サシャの顔や瞳、髪色までまるで別人だった。 学園に入学しても、サシャはあらぬ噂をされてどこにも居場所がない毎日。そんな中でもサシャのことを好きだと言ってくれたクラークと言う茶色の瞳を持つ騎士学生に惹かれ、お付き合いをする事に。 しかし、クラークにキスをせがまれ恥ずかしくて逃げ出したサシャは、アーヴィン=イブリックという翠眼を持つ騎士学生にぶつかってしまい、メガネが外れてしまったーーー… 認識阻害魔道具メガネのせいで2人の騎士の間で別人を演じることになった文官学生の恋の話。 全17話 2/28 番外編を更新しました

家を追い出されたのでツバメをやろうとしたら強面の乳兄弟に反対されて困っている

香歌奈
BL
ある日、突然、セレンは生まれ育った伯爵家を追い出された。 異母兄の婚約者に乱暴を働こうとした罪らしいが、全く身に覚えがない。なのに伯爵家当主となっている異母兄は家から締め出したばかりか、ヴァーレン伯爵家の籍まで抹消したと言う。 途方に暮れたセレンは、年の離れた乳兄弟ギーズを頼ることにした。ギーズは顔に大きな傷跡が残る強面の騎士。悪人からは恐れられ、女子供からは怯えられているという。でもセレンにとっては子守をしてくれた優しいお兄さん。ギーズの家に置いてもらう日々は昔のようで居心地がいい。とはいえ、いつまでも養ってもらうわけにはいかない。しかしお坊ちゃん育ちで手に職があるわけでもなく……。 「僕は女性ウケがいい。この顔を生かしてツバメをしようかな」「おい、待て。ツバメの意味がわかっているのか!」美貌の天然青年に振り回される強面騎士は、ついに実力行使に出る?!

子悪党令息の息子として生まれました

菟圃(うさぎはたけ)
BL
悪役に好かれていますがどうやって逃げられますか!? ネヴィレントとラグザンドの間に生まれたホロとイディのお話。 「お父様とお母様本当に仲がいいね」 「良すぎて目の毒だ」 ーーーーーーーーーーー 「僕達の子ども達本当に可愛い!!」 「ゆっくりと見守って上げよう」 偶にネヴィレントとラグザンドも出てきます。

こっそりバウムクーヘンエンド小説を投稿したら相手に見つかって押し倒されてた件

神崎 ルナ
BL
バウムクーヘンエンド――片想いの相手の結婚式に招待されて引き出物のバウムクーヘンを手に失恋に浸るという、所謂アンハッピーエンド。 僕の幼なじみは天然が入ったぽんやりしたタイプでずっと目が離せなかった。 だけどその笑顔を見ていると自然と僕も口角が上がり。 子供の頃に勢いに任せて『光くん、好きっ!!』と言ってしまったのは黒歴史だが、そのすぐ後に白詰草の指輪を持って来て『うん、およめさんになってね』と来たのは反則だろう。   ぽやぽやした光のことだから、きっとよく意味が分かってなかったに違いない。 指輪も、僕の左手の中指に収めていたし。 あれから10年近く。 ずっと仲が良い幼なじみの範疇に留まる僕たちの関係は決して崩してはならない。 だけど想いを隠すのは苦しくて――。 こっそりとある小説サイトに想いを吐露してそれで何とか未練を断ち切ろうと思った。 なのにどうして――。 『ねぇ、この小説って海斗が書いたんだよね?』 えっ!?どうしてバレたっ!?というより何故この僕が押し倒されてるんだっ!?(※注 サブ垢にて公開済みの『バウムクーヘンエンド』をご覧になるとより一層楽しめるかもしれません)

婚約者に会いに行ったらば

龍の御寮さん
BL
王都で暮らす婚約者レオンのもとへと会いに行ったミシェル。 そこで見たのは、レオンをお父さんと呼ぶ子供と仲良さそうに並ぶ女性の姿。 ショックでその場を逃げ出したミシェルは―― 何とか弁解しようするレオンとなぜか記憶を失ったミシェル。 そこには何やら事件も絡んできて? 傷つけられたミシェルが幸せになるまでのお話です。

あと一度だけでもいいから君に会いたい

藤雪たすく
BL
異世界に転生し、冒険者ギルドの雑用係として働き始めてかれこれ10年ほど経つけれど……この世界のご飯は素材を生かしすぎている。 いまだ食事に馴染めず米が恋しすぎてしまった為、とある冒険者さんの事が気になって仕方がなくなってしまった。 もう一度あの人に会いたい。あと一度でもあの人と会いたい。 ※他サイト投稿済み作品を改題、修正したものになります

付き合って一年マンネリ化してたから振られたと思っていたがどうやら違うようなので猛烈に引き止めた話

雨宮里玖
BL
恋人の神尾が突然連絡を経って二週間。神尾のことが諦められない樋口は神尾との思い出のカフェに行く。そこで神尾と一緒にいた山本から「神尾はお前と別れたって言ってたぞ」と言われ——。 樋口(27)サラリーマン。 神尾裕二(27)サラリーマン。 佐上果穂(26)社長令嬢。会社幹部。 山本(27)樋口と神尾の大学時代の同級生。

平凡顔のΩですが、何かご用でしょうか。

無糸
BL
Ωなのに顔は平凡、しかも表情の変化が乏しい俺。 そんな俺に番などできるわけ無いとそうそう諦めていたのだが、なんと超絶美系でお優しい旦那様と結婚できる事になった。 でも愛しては貰えて無いようなので、俺はこの気持ちを心に閉じ込めて置こうと思います。 ___________________ 異世界オメガバース、受け視点では異世界感ほとんど出ません(多分) わりかし感想お待ちしてます。誰が好きとか 現在体調不良により休止中 2021/9月20日 最新話更新 2022/12月27日

処理中です...