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第二十章:引き換えチケット
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「本当に会いに行って下さるとは、正直期待していませんでした」
素直な小形くんの言葉。けど、確かに期待薄で間違いなかった。僕の答えは未だ見つかっていない。抜け出せない迷路を彷徨ったままだ。
実際、あの日だって亮介に ”会い” に行ったわけじゃない。そこまでの勇気もないし、そんな立場でもない。あの夜、もしも会っていたとしたら、一体何を話していたのだろうか。あの時はごめんと今更謝ったのか? 好きなだけ罵り、殴りたければ殴ってくれと許しを請うたのだろうか? その上でまだ好きでたまらないのだと、この気持ちを押し付けた?
……いや、そんなこと出来るわけがない。自分ですべてを終わらせておきながら、そんなこと出来るわけがないだろ。
僕は亮介に会いに行ったわけじゃないんだよ、小形くん。
結果、あんな形で発見されてしまったけど、別にそれを狙って眠りこけたわけでもない。
「会いに行ったわけではありません。小形さんが期待してくださるような話し合いの場を持つために、この住所を訪ねたわけではなかったんです」
小形くんは眉ひとつ動かさず、僕の言葉を聞いた。
「ご飯もろくに食べていないという亮介が、それでもちゃんと毎日を過ごしているか確かめたかっただけなんです。コンサートの後はいつも機嫌が良かったから、そうやって少しずつでも笑顔を取り戻してくれていたらいいと、それを……ただ見たかっただけなんです」
例えそこで見た亮介が笑っていなかろうが、生きている彼を見たかった。確かめたかった。……たったそれだけ。
「だから会って話すつもりはなくて、姿を見たら帰ろうと思っていたんです。……結果、凍えて倒れてしまいましたけど」
笑えない事実だけど、僕には笑うしか出来なかった。
小形くんは僕らのことを一体どこまで知っているのだろう。僕の言葉に笑うことも怒ることも呆れる素振りさえ見せず、無表情で頷く。少し不気味なくらいだった。
あまりに真っ直ぐ僕を見つめるものだから、その強烈に整った顔から思わず目を逸らす。前回会った時とはまるで正反対な彼の態度に、戸惑ってしまうのは仕方ないだろう。
今は、そんな風に大人しく僕の話を聞くんじゃなくて、たとえ僕を罵ってでも、現在亮介がどうしているのかを教えてほしいんだ。
亮介が引っ越したのは、やっぱり僕のせいなの? 僕を見つけてしまったせいで、亮介はパニックになっていない? まだご飯を食べない生活は続いているの?
聞きたいことなんて山ほどある。
何を言われても、どれだけ責め立てられても構わない。だから亮介のことを教えて欲しい。だけど、これほど落ち着いている彼にそんなことを聞く勇気はなかった。
「まさか倒れた僕を発見したのが亮介だったとは、運がいいのか悪いのか……。良くも悪くも奇跡でかしかないですね」
「僕もそう思います」
何気無く言った言葉に、彼が間髪入れずに返答したから、僕ははっと顔を上げた。これほど好感触な返事を貰えると思っていなかっただけに、正直驚いた。
素直な小形くんの言葉。けど、確かに期待薄で間違いなかった。僕の答えは未だ見つかっていない。抜け出せない迷路を彷徨ったままだ。
実際、あの日だって亮介に ”会い” に行ったわけじゃない。そこまでの勇気もないし、そんな立場でもない。あの夜、もしも会っていたとしたら、一体何を話していたのだろうか。あの時はごめんと今更謝ったのか? 好きなだけ罵り、殴りたければ殴ってくれと許しを請うたのだろうか? その上でまだ好きでたまらないのだと、この気持ちを押し付けた?
……いや、そんなこと出来るわけがない。自分ですべてを終わらせておきながら、そんなこと出来るわけがないだろ。
僕は亮介に会いに行ったわけじゃないんだよ、小形くん。
結果、あんな形で発見されてしまったけど、別にそれを狙って眠りこけたわけでもない。
「会いに行ったわけではありません。小形さんが期待してくださるような話し合いの場を持つために、この住所を訪ねたわけではなかったんです」
小形くんは眉ひとつ動かさず、僕の言葉を聞いた。
「ご飯もろくに食べていないという亮介が、それでもちゃんと毎日を過ごしているか確かめたかっただけなんです。コンサートの後はいつも機嫌が良かったから、そうやって少しずつでも笑顔を取り戻してくれていたらいいと、それを……ただ見たかっただけなんです」
例えそこで見た亮介が笑っていなかろうが、生きている彼を見たかった。確かめたかった。……たったそれだけ。
「だから会って話すつもりはなくて、姿を見たら帰ろうと思っていたんです。……結果、凍えて倒れてしまいましたけど」
笑えない事実だけど、僕には笑うしか出来なかった。
小形くんは僕らのことを一体どこまで知っているのだろう。僕の言葉に笑うことも怒ることも呆れる素振りさえ見せず、無表情で頷く。少し不気味なくらいだった。
あまりに真っ直ぐ僕を見つめるものだから、その強烈に整った顔から思わず目を逸らす。前回会った時とはまるで正反対な彼の態度に、戸惑ってしまうのは仕方ないだろう。
今は、そんな風に大人しく僕の話を聞くんじゃなくて、たとえ僕を罵ってでも、現在亮介がどうしているのかを教えてほしいんだ。
亮介が引っ越したのは、やっぱり僕のせいなの? 僕を見つけてしまったせいで、亮介はパニックになっていない? まだご飯を食べない生活は続いているの?
聞きたいことなんて山ほどある。
何を言われても、どれだけ責め立てられても構わない。だから亮介のことを教えて欲しい。だけど、これほど落ち着いている彼にそんなことを聞く勇気はなかった。
「まさか倒れた僕を発見したのが亮介だったとは、運がいいのか悪いのか……。良くも悪くも奇跡でかしかないですね」
「僕もそう思います」
何気無く言った言葉に、彼が間髪入れずに返答したから、僕ははっと顔を上げた。これほど好感触な返事を貰えると思っていなかっただけに、正直驚いた。
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