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第二十章:引き換えチケット
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今となっては、あの時決断した別れが正しかったのか分からない。僕は亮介を忘れることに失敗して、亮介もまた苦しんだ。何が正しくて、何が間違っていたのだろう。
ツーショットで寄り添う僕らの写真を見つめながら、僕はあの時出した答えを深く後悔した。こんな風に後悔したのはきっと初めてだ。いつだって自分に正直で、自分の進むべき道を一本に絞り込んでよそ見しなかった僕の人生は、今初めて道に迷い、後ろを振り返り、あの時選んだ別れ道を後悔している。
すべては、僕のこの弱い心が悪かった。
亮介を縛り付けてはダメだと、彼はまだ若いし芸能人だし、ましてや男だからと……疑いもせず本当にそう思っていた。正直、今だってその考えは変わっていない。変わっていないけど、僕が強くあれば回避出来た未来だった気がする。
恋愛体質の亮介を支える強さと、逆境に耐える強さと、彼の仕事を理解する強さと、自分に自信を持つ……強さ。
「亮介……」
僕にピースして綺麗に笑う亮介の写真。優しい笑顔。
やっぱり、僕は亮介を愛している。
どれだけ時間が経とうと、どれだけ僕らに距離が出来ようと、好きなものは好きで、会いたいものは会いたい。独り占めできるならばそうしてしまいたいとあの頃と同じくらい強く思う。
この独占欲だって、あの頃も今も、僕を脅かす。僕自身が僕を脅かす。これに打ち勝つ強さすら、……僕にはないんだ。
写真を再びソムリエナイフと共に仕舞い込むと、いい香りを立て始めたコーヒーの様子を見にリビングへ舞い戻った。空腹だったけど、僕はコーヒーだけを飲んだ。それを飲み終え、コタツでうとうとし始めた頃、携帯電話がけたたましく鳴り響いた。
眠いし、面倒だし、出ないでおこうかと思ったけど、着信先を確認し、しぶしぶ電話に出た。
「はい?」
『あ、もしもし。店長』
店からだった。電話先の声は森本くんだろう。
「何? トラブル?」
寝ぼけ声で聞く僕に、森本くんはすぐに否定した。
『いや、ちょっと……どえらいお客さんがいらっしゃっていまして』
「え? ヤダよ、クレーマー? わざわざ出向くなんてまっぴらごめんだからね。そっちで解決してよ」
『あはは! ほんと貴方という人は! そうやってすぐクレーマーから逃げたがる! 店長失格ですよ!』
その返事を聞く限り、クレーマーというわけではなさそうだ。
『違いますよ。なんかどうしても店長に会わせろって聞かなくて、しかも店に居ないなら電話番号か住所を教えろって言ってきてましてね』
「……は?」
『教えてくれるまで帰らないって、ずっとレジの前にいるんですよ』
「なにそれ……」
誰だろうという疑問よりも、寝起きの僕にはただ「こわっ」というコメントしか浮かばなかった。男か女かなんて、疑うこともなく女だろう。吉住さんの時のように、また告白でもされるのかと思ったが、電話番号か住所を教えろなんてただのストーカーじゃないか。
決して女にモテないわけじゃないと自覚している分、森本くんの言葉に僅か、背筋が凍った。
しかし次の言葉に、僕は一気に目が覚める。
『それがcodeの小形裕也なんですよ』
ツーショットで寄り添う僕らの写真を見つめながら、僕はあの時出した答えを深く後悔した。こんな風に後悔したのはきっと初めてだ。いつだって自分に正直で、自分の進むべき道を一本に絞り込んでよそ見しなかった僕の人生は、今初めて道に迷い、後ろを振り返り、あの時選んだ別れ道を後悔している。
すべては、僕のこの弱い心が悪かった。
亮介を縛り付けてはダメだと、彼はまだ若いし芸能人だし、ましてや男だからと……疑いもせず本当にそう思っていた。正直、今だってその考えは変わっていない。変わっていないけど、僕が強くあれば回避出来た未来だった気がする。
恋愛体質の亮介を支える強さと、逆境に耐える強さと、彼の仕事を理解する強さと、自分に自信を持つ……強さ。
「亮介……」
僕にピースして綺麗に笑う亮介の写真。優しい笑顔。
やっぱり、僕は亮介を愛している。
どれだけ時間が経とうと、どれだけ僕らに距離が出来ようと、好きなものは好きで、会いたいものは会いたい。独り占めできるならばそうしてしまいたいとあの頃と同じくらい強く思う。
この独占欲だって、あの頃も今も、僕を脅かす。僕自身が僕を脅かす。これに打ち勝つ強さすら、……僕にはないんだ。
写真を再びソムリエナイフと共に仕舞い込むと、いい香りを立て始めたコーヒーの様子を見にリビングへ舞い戻った。空腹だったけど、僕はコーヒーだけを飲んだ。それを飲み終え、コタツでうとうとし始めた頃、携帯電話がけたたましく鳴り響いた。
眠いし、面倒だし、出ないでおこうかと思ったけど、着信先を確認し、しぶしぶ電話に出た。
「はい?」
『あ、もしもし。店長』
店からだった。電話先の声は森本くんだろう。
「何? トラブル?」
寝ぼけ声で聞く僕に、森本くんはすぐに否定した。
『いや、ちょっと……どえらいお客さんがいらっしゃっていまして』
「え? ヤダよ、クレーマー? わざわざ出向くなんてまっぴらごめんだからね。そっちで解決してよ」
『あはは! ほんと貴方という人は! そうやってすぐクレーマーから逃げたがる! 店長失格ですよ!』
その返事を聞く限り、クレーマーというわけではなさそうだ。
『違いますよ。なんかどうしても店長に会わせろって聞かなくて、しかも店に居ないなら電話番号か住所を教えろって言ってきてましてね』
「……は?」
『教えてくれるまで帰らないって、ずっとレジの前にいるんですよ』
「なにそれ……」
誰だろうという疑問よりも、寝起きの僕にはただ「こわっ」というコメントしか浮かばなかった。男か女かなんて、疑うこともなく女だろう。吉住さんの時のように、また告白でもされるのかと思ったが、電話番号か住所を教えろなんてただのストーカーじゃないか。
決して女にモテないわけじゃないと自覚している分、森本くんの言葉に僅か、背筋が凍った。
しかし次の言葉に、僕は一気に目が覚める。
『それがcodeの小形裕也なんですよ』
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