ココア ~僕の同居人はまさかのアイドルだった~

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第十九章:運命は暗がり

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「発見した時には意識がなくて、マンションの前に倒れてた。強引に救急車に乗り込んで、朝まで一緒に居たけど……、起きなかったんだ、あいつ」
「なんで起きるまで待たなかったんだよ」
「俺に会いに来たなんて思わなかった」

 もちろんそうだと思いたかった。俺に会いに来たのだと。けど自信なんてあるはずがなくて、たぶんあの時比呂人が起きていたら……俺は、今ここに居ないかもしれない。

 小形は小さなため息をついた後、気付かないほどの舌打ちをしたから、伏せていた目をふと小形に向けた。

「お前以外に誰がいるってんだよ」

 そんなボヤキが聞こえた気がした。言いたいことは分かるけど、自信なんてあるはずないだろ。二年も経ってるんだぞ?

「どっちにしたって第一発見者がお前って……、もうそれ奇跡通り越した運命なんだって」

 ― 運 命 ―

 そんな言葉に、俺は懐かしい感覚を思い出した。
 それは比呂人を好きになる前から、ずっと感じ続けていた淡い思い。

 比呂人は俺の運命の人。ココアを渡されたあの時あの瞬間、あの出会いを……俺はずっと……運命だと信じて疑わなかった。

 ココアは実際、比呂人が二つ買ったのかもしれない。それでも……、万が一そうだとしても、あのココアが俺には何物にも代え難かった。

 運命──。

 それを小形に言われるなんて、微塵も思わなかった。

「最初からそうじゃん。もっとも、まさか恋愛的な運命に発展するとは想像もしてなかったけど、それ取っ払ったとしても、やっぱり二人は運命的な出会いをして、また嘘みたいに出会えたんだろ」

 きっかけは小形のお節介だとしても、第一発見者が俺というのは紛れもない奇跡だ。それを運命と呼んでいいのなら、俺はこれから歩く道を慎重に選ばなくちゃいけない。
 運命だけに身を任せることなど、もう出来ない。

「お前が本気だって、よく分かった。認めるよ」

 長い前髪を掻き上げて、小形は諦めたようなため息をつくと、情けない微笑みを俺に向けた。

「取り返しがつかなくて引き返せないなら、もうそれでいいだろ。我慢すんなよ」

 ストッパーが……外れた瞬間だった。

「お前が感じてるみたいに、俺だって二人の相性はいいんだろうなってずっと思ってたよ」

 実際会って話したら、よく分からなかったけど……なんて、仮面を被るのが上手い比呂人の一面を見てしまった小形はまたそうボヤいた。比呂人が心を閉ざすと、近づけないくらい怖い。俺だってかつて二回しか見たことがない。正体がバレた時と、追い出された日。あの強烈に冷え切ったオーラは、人と認めたくないほどに……怖い……。
 小形がボヤくのも仕方ない。

「乱暴な言葉遣いしか出来ないお前のことちゃんと理解して、素直にさせることができるのは、並大抵の人じゃ無理だ」

 どこまで素直になれていたかは分からない。けど、比呂人の前では飾っていたつもりはなかった。
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