142 / 160
第十九章:運命は暗がり
6
しおりを挟む
涙が出そうだった。蘇る記憶は、忘れていたはずの愛おしい比呂人の姿ばかりだ。悪夢に魘された十二月十六日の記憶は、正月以来一度だって蘇らない。
大好きだった比呂人の記憶ばかりが、ポロポロと溢れて、毎日ひとつずつ幸せだった時間が記憶に蓄積されていって……。二年経って、ようやく俺は比呂人との思い出をファイリングしている。こんなの狂ってるだろ。
けど、そうやってひとつずつ整理していかなきゃ、俺はいつまで経っても十二月十六日の記憶に壊され続けて、前になんか進めない。比呂人との幸せな時間を思い出して、噛み締めて、忘れないように記憶して、そうやって少しずつ……少しずつ。
「でも、俺は良くも悪くもアイドルで、お前だって……、お前だって分かんだろ!? 取捨選択しなきゃなんねぇんだよ!!」
涙を堪えて俺は叫んでいた。
「俺があいつを選んでもいいって言うのか? 全部かなぐり捨ててあいつのトコに帰っていいって、お前そんな無責任なこと言えんのかよ!?」
そんなどうしようもないことを口走って、メンバーの不安を煽り……俺はどうしようって言うんだ。
案の定、メンバーは息を呑み……蒼白とした。
事の重大さに、小形以外も気付いている。俺が去年の十二月、飯すら食べなかった理由をなんとなく理解したかもしれない。
違う……違うんだよ。メンバーを不安にさせたいわけじゃない。codeを辞めたいわけじゃない。……だって──。
「あいつ……、アイドルの俺が好きだった……。目の前に居るのに、嫌ってほどテレビに釘付けだった」
俺の出演する番組を片っ端から録画予約して、ライブDVDも飽きるほど観て、テレビなんかまったく興味ないくせに、呆れるほど俺の出ている番組だけは見ていた。仕事をしている俺が好きなのかって聞くと、比呂人はこんな返事を寄越した。
『うん、喋り方が可愛いからね』
どんな理由だよって、あの時は理解出来なかった。けど、今なら分かる。たぶん、俺にもっと優しくして欲しかったんだ。平気でファンに好きだとか愛してるとか言う俺を、比呂人は……どんな気持ちで見てた?
『コンサートには二度と行かない』
どれどけ不安にさせていた? どれだけ我慢してた? どれだけ腹を立ててたんだよ。
なんで俺……、アイドルなんかしてんだよ。
だけど、歌番組で歌って踊る俺を見つめる比呂人の目は、間違いなく ”恋” してた。自惚れなんかじゃない。
『かっこいい』
たった一度だけ、聞こえないほどの呟きを、俺は聞いた。
だから俺は、比呂人の大好きだった ”アイドル加藤亮介” を守らなきゃいけない。喋り方が可愛いと言われたアイドルの俺を、比呂人が嫉妬するくらいフェミニストなアイドルの俺を、あの男にかっこいいと言わせるくらいのアイドルである俺を……守り通すことこそが、今の俺の務めで、比呂人への恩返しなんだ。
アイドルの俺を誰より応援してくれた。母親なんかより、よっぽど応援してくれていた。
『こんなとこで足踏みしてちゃダメだ。亮介は、もっと高見を目指して』
なんでアイドルなんてしてるんだろうなんて、もう自分の中で整理がつけられない。アイドルなんてしていなかったら、比呂人はきっとそんなこと言わなかった。けど、アイドルを今も続けているのは比呂人がこんな俺を好きだったからで……。
……もう、自分でも意味わかんねぇよ。
大好きだった比呂人の記憶ばかりが、ポロポロと溢れて、毎日ひとつずつ幸せだった時間が記憶に蓄積されていって……。二年経って、ようやく俺は比呂人との思い出をファイリングしている。こんなの狂ってるだろ。
けど、そうやってひとつずつ整理していかなきゃ、俺はいつまで経っても十二月十六日の記憶に壊され続けて、前になんか進めない。比呂人との幸せな時間を思い出して、噛み締めて、忘れないように記憶して、そうやって少しずつ……少しずつ。
「でも、俺は良くも悪くもアイドルで、お前だって……、お前だって分かんだろ!? 取捨選択しなきゃなんねぇんだよ!!」
涙を堪えて俺は叫んでいた。
「俺があいつを選んでもいいって言うのか? 全部かなぐり捨ててあいつのトコに帰っていいって、お前そんな無責任なこと言えんのかよ!?」
そんなどうしようもないことを口走って、メンバーの不安を煽り……俺はどうしようって言うんだ。
案の定、メンバーは息を呑み……蒼白とした。
事の重大さに、小形以外も気付いている。俺が去年の十二月、飯すら食べなかった理由をなんとなく理解したかもしれない。
違う……違うんだよ。メンバーを不安にさせたいわけじゃない。codeを辞めたいわけじゃない。……だって──。
「あいつ……、アイドルの俺が好きだった……。目の前に居るのに、嫌ってほどテレビに釘付けだった」
俺の出演する番組を片っ端から録画予約して、ライブDVDも飽きるほど観て、テレビなんかまったく興味ないくせに、呆れるほど俺の出ている番組だけは見ていた。仕事をしている俺が好きなのかって聞くと、比呂人はこんな返事を寄越した。
『うん、喋り方が可愛いからね』
どんな理由だよって、あの時は理解出来なかった。けど、今なら分かる。たぶん、俺にもっと優しくして欲しかったんだ。平気でファンに好きだとか愛してるとか言う俺を、比呂人は……どんな気持ちで見てた?
『コンサートには二度と行かない』
どれどけ不安にさせていた? どれだけ我慢してた? どれだけ腹を立ててたんだよ。
なんで俺……、アイドルなんかしてんだよ。
だけど、歌番組で歌って踊る俺を見つめる比呂人の目は、間違いなく ”恋” してた。自惚れなんかじゃない。
『かっこいい』
たった一度だけ、聞こえないほどの呟きを、俺は聞いた。
だから俺は、比呂人の大好きだった ”アイドル加藤亮介” を守らなきゃいけない。喋り方が可愛いと言われたアイドルの俺を、比呂人が嫉妬するくらいフェミニストなアイドルの俺を、あの男にかっこいいと言わせるくらいのアイドルである俺を……守り通すことこそが、今の俺の務めで、比呂人への恩返しなんだ。
アイドルの俺を誰より応援してくれた。母親なんかより、よっぽど応援してくれていた。
『こんなとこで足踏みしてちゃダメだ。亮介は、もっと高見を目指して』
なんでアイドルなんてしてるんだろうなんて、もう自分の中で整理がつけられない。アイドルなんてしていなかったら、比呂人はきっとそんなこと言わなかった。けど、アイドルを今も続けているのは比呂人がこんな俺を好きだったからで……。
……もう、自分でも意味わかんねぇよ。
10
お気に入りに追加
88
あなたにおすすめの小説
総受けルート確定のBLゲーの主人公に転生してしまったんだけど、ここからソロエンドを迎えるにはどうすればいい?
寺一(テライチ)
BL
──妹よ。にいちゃんは、これから五人の男に抱かれるかもしれません。
ユズイはシスコン気味なことを除けばごくふつうの男子高校生。
ある日、熱をだした妹にかわって彼女が予約したゲームを店まで取りにいくことに。
その帰り道、ユズイは階段から足を踏みはずして命を落としてしまう。
そこに現れた女神さまは「あなたはこんなにはやく死ぬはずではなかった、お詫びに好きな条件で転生させてあげます」と言う。
それに「チート転生がしてみたい」と答えるユズイ。
女神さまは喜んで願いを叶えてくれた……ただしBLゲーの世界で。
BLゲーでのチート。それはとにかく攻略対象の好感度がバグレベルで上がっていくということ。
このままではなにもしなくても総受けルートが確定してしまう!
男にモテても仕方ないとユズイはソロエンドを目指すが、チートを望んだ代償は大きくて……!?
溺愛&執着されまくりの学園ラブコメです。
イケメン俳優は万年モブ役者の鬼門です
はねビト
BL
演技力には自信があるけれど、地味な役者の羽月眞也は、2年前に共演して以来、大人気イケメン俳優になった東城湊斗に懐かれていた。
自分にはない『華』のある東城に対するコンプレックスを抱えるものの、どうにも東城からのお願いには弱くて……。
ワンコ系年下イケメン俳優×地味顔モブ俳優の芸能人BL。
外伝完結、続編連載中です。
旦那様と僕
三冬月マヨ
BL
旦那様と奉公人(の、つもり)の、のんびりとした話。
縁側で日向ぼっこしながらお茶を飲む感じで、のほほんとして頂けたら幸いです。
本編完結済。
『向日葵の庭で』は、残酷と云うか、覚悟が必要かな? と思いまして注意喚起の為『※』を付けています。
春風の香
梅川 ノン
BL
名門西園寺家の庶子として生まれた蒼は、病弱なオメガ。
母を早くに亡くし、父に顧みられない蒼は孤独だった。
そんな蒼に手を差し伸べたのが、北畠総合病院の医師北畠雪哉だった。
雪哉もオメガであり自力で医師になり、今は院長子息の夫になっていた。
自身の昔の姿を重ねて蒼を可愛がる雪哉は、自宅にも蒼を誘う。
雪哉の息子彰久は、蒼に一心に懐いた。蒼もそんな彰久を心から可愛がった。
3歳と15歳で出会う、受が12歳年上の歳の差オメガバースです。
オメガバースですが、独自の設定があります。ご了承ください。
番外編は二人の結婚直後と、4年後の甘い生活の二話です。それぞれ短いお話ですがお楽しみいただけると嬉しいです!
君のことなんてもう知らない
ぽぽ
BL
早乙女琥珀は幼馴染の佐伯慶也に毎日のように告白しては振られてしまう。
告白をOKする素振りも見せず、軽く琥珀をあしらう慶也に憤りを覚えていた。
だがある日、琥珀は記憶喪失になってしまい、慶也の記憶を失ってしまう。
今まで自分のことをあしらってきた慶也のことを忘れて、他の人と恋を始めようとするが…
「お前なんて知らないから」
学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語
紅林
BL
『桜田門学院高等学校』
日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する野球ドーム五個分の土地が学院としてなる巨大学園だ
しかし生徒数は300人程の少人数の学院だ
そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語である
この噛み痕は、無効。
ことわ子
BL
執着強めのαで高校一年生の茜トキ×αアレルギーのβで高校三年生の品野千秋
α、β、Ωの三つの性が存在する現代で、品野千秋(しなのちあき)は一番人口が多いとされる平凡なβで、これまた平凡な高校三年生として暮らしていた。
いや、正しくは"平凡に暮らしたい"高校生として、自らを『αアレルギー』と自称するほど日々αを憎みながら生活していた。
千秋がαアレルギーになったのは幼少期のトラウマが原因だった。その時から千秋はαに対し強い拒否反応を示すようになり、わざわざαのいない高校へ進学するなど、徹底してαを避け続けた。
そんなある日、千秋は体育の授業中に熱中症で倒れてしまう。保健室で目を覚ますと、そこには親友の向田翔(むこうだかける)ともう一人、初めて見る下級生の男がいた。
その男と、トラウマの原因となった人物の顔が重なり千秋は混乱するが、男は千秋の混乱をよそに急に距離を詰めてくる。
「やっと見つけた」
男は誰もが見惚れる顔でそう言った。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる