136 / 160
第十九章:運命は暗がり
ーside 比呂人ー 1
しおりを挟む
「お忘れ物ですよ」
そう言って手渡されたのは、見たことのない手袋だった。病院を出る時に看護婦が慌ててそれを持ってきた。首を傾げると、「搬送された時つけていらっしゃいましたよね」と逆に首を傾げられた。
だからそれが亮介の手袋なのだと分かった。礼を言って受け取り、僕は帰り道、それにそっと手を通した。
「あった……かい」
亮介に会いたくて仕方なかった。
会いたくて会いたくて、ダウンのポケットに入れたと思っていた住所録を取り出そうとしたけど、それはなくなっていた。ズボンのポケットにも、財布の中にもない。
もしかして亮介のマンションの前に落としてしまったのかもしれない。それか、看護婦がゴミだと思って捨ててしまったか。
けど、駅と部屋番号を覚えている。だから今すぐ会いに行こうと思えば行けたんだ
でも、昨日の今日。なんなら朝まで一緒に居たんだ。
日を改めた方がいい。そんな常識を優先させてしまった。そして──。
「嘘……だろ」
凍傷が完治した一週間後、意を決して亮介のマンションを訪ねたのに、そこは空室になっていた。間違うはずのない部屋番号。
七一二
亮介の誕生日だなってそんな風に思ったから、間違うはずがないんだ。
紙一重で……亮介が僕を躱していく。
あの後ろ姿はやはり捕まえられなかった。
なんて遠い人なんだろう。
もう、会えない。会う術をなくした。
僕は愕然と立ち尽くし、握ったこの手袋のみが、亮介が僕に残した唯一の置き土産となった。
そう言って手渡されたのは、見たことのない手袋だった。病院を出る時に看護婦が慌ててそれを持ってきた。首を傾げると、「搬送された時つけていらっしゃいましたよね」と逆に首を傾げられた。
だからそれが亮介の手袋なのだと分かった。礼を言って受け取り、僕は帰り道、それにそっと手を通した。
「あった……かい」
亮介に会いたくて仕方なかった。
会いたくて会いたくて、ダウンのポケットに入れたと思っていた住所録を取り出そうとしたけど、それはなくなっていた。ズボンのポケットにも、財布の中にもない。
もしかして亮介のマンションの前に落としてしまったのかもしれない。それか、看護婦がゴミだと思って捨ててしまったか。
けど、駅と部屋番号を覚えている。だから今すぐ会いに行こうと思えば行けたんだ
でも、昨日の今日。なんなら朝まで一緒に居たんだ。
日を改めた方がいい。そんな常識を優先させてしまった。そして──。
「嘘……だろ」
凍傷が完治した一週間後、意を決して亮介のマンションを訪ねたのに、そこは空室になっていた。間違うはずのない部屋番号。
七一二
亮介の誕生日だなってそんな風に思ったから、間違うはずがないんだ。
紙一重で……亮介が僕を躱していく。
あの後ろ姿はやはり捕まえられなかった。
なんて遠い人なんだろう。
もう、会えない。会う術をなくした。
僕は愕然と立ち尽くし、握ったこの手袋のみが、亮介が僕に残した唯一の置き土産となった。
1
お気に入りに追加
86
あなたにおすすめの小説
黄色い水仙を君に贈る
えんがわ
BL
──────────
「ねぇ、別れよっか……俺たち……。」
「ああ、そうだな」
「っ……ばいばい……」
俺は……ただっ……
「うわああああああああ!」
君に愛して欲しかっただけなのに……
早く惚れてよ、怖がりナツ
ぱんなこった。
BL
幼少期のトラウマのせいで男性が怖くて苦手な男子高校生1年の那月(なつ)16歳。女友達はいるものの、男子と上手く話す事すらできず、ずっと周りに煙たがられていた。
このままではダメだと、高校でこそ克服しようと思いつつも何度も玉砕してしまう。
そしてある日、そんな那月をからかってきた同級生達に襲われそうになった時、偶然3年生の彩世(いろせ)がやってくる。
一見、真面目で大人しそうな彩世は、那月を助けてくれて…
那月は初めて、男子…それも先輩とまともに言葉を交わす。
ツンデレ溺愛先輩×男が怖い年下後輩
《表紙はフリーイラスト@oekakimikasuke様のものをお借りしました》
いとしの生徒会長さま
もりひろ
BL
大好きな親友と楽しい高校生活を送るため、急きょアメリカから帰国した俺だけど、編入した学園は、とんでもなく変わっていた……!
しかも、生徒会長になれとか言われるし。冗談じゃねえっつの!
平凡な男子高校生が、素敵な、ある意味必然的な運命をつかむお話。
しゅ
BL
平凡な男子高校生が、非凡な男子高校生にベタベタで甘々に可愛がられて、ただただ幸せになる話です。
基本主人公目線で進行しますが、1部友人達の目線になることがあります。
一部ファンタジー。基本ありきたりな話です。
それでも宜しければどうぞ。
【完結】極貧イケメン学生は体を売らない。【番外編あります】
紫紺(紗子)
BL
貧乏学生をスパダリが救済!?代償は『恋人のフリ』だった。
相模原涼(さがみはらりょう)は法学部の大学2年生。
超がつく貧乏学生なのに、突然居酒屋のバイトをクビになってしまった。
失意に沈む涼の前に現れたのは、ブランドスーツに身を包んだイケメン、大手法律事務所の副所長 城南晄矢(じょうなんみつや)。
彼は涼にバイトしないかと誘うのだが……。
※番外編を公開しました(10/21)
生活に追われて恋とは無縁の極貧イケメンの涼と、何もかもに恵まれた晄矢のラブコメBL。二人の気持ちはどっちに向いていくのか。
※本作品中の公判、判例、事件等は全て架空のものです。完全なフィクションであり、参考にした事件等もございません。拙い表現や現実との乖離はどうぞご容赦ください。
※4月18日、完結しました。ありがとうございました。
春風の香
梅川 ノン
BL
名門西園寺家の庶子として生まれた蒼は、病弱なオメガ。
母を早くに亡くし、父に顧みられない蒼は孤独だった。
そんな蒼に手を差し伸べたのが、北畠総合病院の医師北畠雪哉だった。
雪哉もオメガであり自力で医師になり、今は院長子息の夫になっていた。
自身の昔の姿を重ねて蒼を可愛がる雪哉は、自宅にも蒼を誘う。
雪哉の息子彰久は、蒼に一心に懐いた。蒼もそんな彰久を心から可愛がった。
3歳と15歳で出会う、受が12歳年上の歳の差オメガバースです。
オメガバースですが、独自の設定があります。ご了承ください。
番外編は二人の結婚直後と、4年後の甘い生活の二話です。それぞれ短いお話ですがお楽しみいただけると嬉しいです!
イケメン俳優は万年モブ役者の鬼門です
はねビト
BL
演技力には自信があるけれど、地味な役者の羽月眞也は、2年前に共演して以来、大人気イケメン俳優になった東城湊斗に懐かれていた。
自分にはない『華』のある東城に対するコンプレックスを抱えるものの、どうにも東城からのお願いには弱くて……。
ワンコ系年下イケメン俳優×地味顔モブ俳優の芸能人BL。
外伝完結、続編連載中です。
45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる
よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です!
小説家になろうでも10位獲得しました!
そして、カクヨムでもランクイン中です!
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。
いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。
欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・
●●●●●●●●●●●●●●●
小説家になろうで執筆中の作品です。
アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。
現在見直し作業中です。
変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる