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第十九章:運命は暗がり
ーside 比呂人ー 1
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「お忘れ物ですよ」
そう言って手渡されたのは、見たことのない手袋だった。病院を出る時に看護婦が慌ててそれを持ってきた。首を傾げると、「搬送された時つけていらっしゃいましたよね」と逆に首を傾げられた。
だからそれが亮介の手袋なのだと分かった。礼を言って受け取り、僕は帰り道、それにそっと手を通した。
「あった……かい」
亮介に会いたくて仕方なかった。
会いたくて会いたくて、ダウンのポケットに入れたと思っていた住所録を取り出そうとしたけど、それはなくなっていた。ズボンのポケットにも、財布の中にもない。
もしかして亮介のマンションの前に落としてしまったのかもしれない。それか、看護婦がゴミだと思って捨ててしまったか。
けど、駅と部屋番号を覚えている。だから今すぐ会いに行こうと思えば行けたんだ
でも、昨日の今日。なんなら朝まで一緒に居たんだ。
日を改めた方がいい。そんな常識を優先させてしまった。そして──。
「嘘……だろ」
凍傷が完治した一週間後、意を決して亮介のマンションを訪ねたのに、そこは空室になっていた。間違うはずのない部屋番号。
七一二
亮介の誕生日だなってそんな風に思ったから、間違うはずがないんだ。
紙一重で……亮介が僕を躱していく。
あの後ろ姿はやはり捕まえられなかった。
なんて遠い人なんだろう。
もう、会えない。会う術をなくした。
僕は愕然と立ち尽くし、握ったこの手袋のみが、亮介が僕に残した唯一の置き土産となった。
そう言って手渡されたのは、見たことのない手袋だった。病院を出る時に看護婦が慌ててそれを持ってきた。首を傾げると、「搬送された時つけていらっしゃいましたよね」と逆に首を傾げられた。
だからそれが亮介の手袋なのだと分かった。礼を言って受け取り、僕は帰り道、それにそっと手を通した。
「あった……かい」
亮介に会いたくて仕方なかった。
会いたくて会いたくて、ダウンのポケットに入れたと思っていた住所録を取り出そうとしたけど、それはなくなっていた。ズボンのポケットにも、財布の中にもない。
もしかして亮介のマンションの前に落としてしまったのかもしれない。それか、看護婦がゴミだと思って捨ててしまったか。
けど、駅と部屋番号を覚えている。だから今すぐ会いに行こうと思えば行けたんだ
でも、昨日の今日。なんなら朝まで一緒に居たんだ。
日を改めた方がいい。そんな常識を優先させてしまった。そして──。
「嘘……だろ」
凍傷が完治した一週間後、意を決して亮介のマンションを訪ねたのに、そこは空室になっていた。間違うはずのない部屋番号。
七一二
亮介の誕生日だなってそんな風に思ったから、間違うはずがないんだ。
紙一重で……亮介が僕を躱していく。
あの後ろ姿はやはり捕まえられなかった。
なんて遠い人なんだろう。
もう、会えない。会う術をなくした。
僕は愕然と立ち尽くし、握ったこの手袋のみが、亮介が僕に残した唯一の置き土産となった。
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