134 / 160
第十八章:追いかけっこ
3
しおりを挟む
翌朝七時。俺は目を覚まし、熱の引いている比呂人の額に触れて安堵の息をついた。顔色も、昨夜より随分よくなっているように見える。このまま問題がなければ今日中に退院できるだろう。
ベッドに頭を預けたまま、俺はぼんやりと比呂人の寝顔を見つめた。彼の奥にあるテレビ台の上には小さな鏡餅が置いてある。
正月だな……と思い、ふと仕事に行かなくていいのかと疑問に思った。俺は十日ほどの休みがあるから構わないが、比呂人は店長だ。休みだと連絡を入れなければいけないのではないかと思い、ガバッと上体を起こしたが、すぐに思い直した。
そういえば、比呂人の店は三が日きっちり休むんだったと。そして同時に思い出す。正月休みが比呂人の唯一の楽しみだったな、なんて。土日休みなんてあるわけないし、ゴールデンウイークも盆休みもない比呂人は、正月休みだけが年間を通して唯一世間と休みが被る日だった。あまつさえ、直前のクリスマスは一年中で一番忙しい。イライラしていたことを、今になって思い出した。
……そうか。だから三年前のクリスマスが思い出せなかったんだ。
『クリスマス? どうでもいいよ、そんなの。僕の誕生日じゃないし』
色も素っ気もないことを言って、比呂人は洗濯物を干していたな。
『プレゼントもいらないからね。ちなみに僕も用意しないよ。忙しくて買いに行く暇もないしね』
あっけらかんと言われたことを、今やっと思い出す。
特別な夜じゃなかった。プレゼントなんて受け取らないとまで言った比呂人のせいで、ロマンチックの欠片もない一日だったけど、甘党の比呂人のためにケーキだけは買って帰ったんだった。
すやすやと穏やかな寝息を立てている比呂人の髪を撫でる。
「おつかれさま……」
きっと今年も忙しかったんだろう。
ほら、比呂人の大好きな正月休みだぞ……? こんなトコで寝てる場合じゃねぇだろ。起きろよ、早く。お前一体誰に会いに来たんだ? もしも俺なら、早く目を覚ませ。俺はここにいる。……なぁ、比呂人。
握ったまま、一晩中離さなかった手。比呂人の手は大きい。それは細く長い指のせいだろう。そっと指を絡めて握る。
覚えておこうと思った。きっともう会うことはない。本当は目を覚ますまで一緒にいたい。俺の名前を呼び、優しく微笑む顔を見たい。
ベッドに頭を預けたまま、俺はぼんやりと比呂人の寝顔を見つめた。彼の奥にあるテレビ台の上には小さな鏡餅が置いてある。
正月だな……と思い、ふと仕事に行かなくていいのかと疑問に思った。俺は十日ほどの休みがあるから構わないが、比呂人は店長だ。休みだと連絡を入れなければいけないのではないかと思い、ガバッと上体を起こしたが、すぐに思い直した。
そういえば、比呂人の店は三が日きっちり休むんだったと。そして同時に思い出す。正月休みが比呂人の唯一の楽しみだったな、なんて。土日休みなんてあるわけないし、ゴールデンウイークも盆休みもない比呂人は、正月休みだけが年間を通して唯一世間と休みが被る日だった。あまつさえ、直前のクリスマスは一年中で一番忙しい。イライラしていたことを、今になって思い出した。
……そうか。だから三年前のクリスマスが思い出せなかったんだ。
『クリスマス? どうでもいいよ、そんなの。僕の誕生日じゃないし』
色も素っ気もないことを言って、比呂人は洗濯物を干していたな。
『プレゼントもいらないからね。ちなみに僕も用意しないよ。忙しくて買いに行く暇もないしね』
あっけらかんと言われたことを、今やっと思い出す。
特別な夜じゃなかった。プレゼントなんて受け取らないとまで言った比呂人のせいで、ロマンチックの欠片もない一日だったけど、甘党の比呂人のためにケーキだけは買って帰ったんだった。
すやすやと穏やかな寝息を立てている比呂人の髪を撫でる。
「おつかれさま……」
きっと今年も忙しかったんだろう。
ほら、比呂人の大好きな正月休みだぞ……? こんなトコで寝てる場合じゃねぇだろ。起きろよ、早く。お前一体誰に会いに来たんだ? もしも俺なら、早く目を覚ませ。俺はここにいる。……なぁ、比呂人。
握ったまま、一晩中離さなかった手。比呂人の手は大きい。それは細く長い指のせいだろう。そっと指を絡めて握る。
覚えておこうと思った。きっともう会うことはない。本当は目を覚ますまで一緒にいたい。俺の名前を呼び、優しく微笑む顔を見たい。
13
お気に入りに追加
88
あなたにおすすめの小説
総受けルート確定のBLゲーの主人公に転生してしまったんだけど、ここからソロエンドを迎えるにはどうすればいい?
寺一(テライチ)
BL
──妹よ。にいちゃんは、これから五人の男に抱かれるかもしれません。
ユズイはシスコン気味なことを除けばごくふつうの男子高校生。
ある日、熱をだした妹にかわって彼女が予約したゲームを店まで取りにいくことに。
その帰り道、ユズイは階段から足を踏みはずして命を落としてしまう。
そこに現れた女神さまは「あなたはこんなにはやく死ぬはずではなかった、お詫びに好きな条件で転生させてあげます」と言う。
それに「チート転生がしてみたい」と答えるユズイ。
女神さまは喜んで願いを叶えてくれた……ただしBLゲーの世界で。
BLゲーでのチート。それはとにかく攻略対象の好感度がバグレベルで上がっていくということ。
このままではなにもしなくても総受けルートが確定してしまう!
男にモテても仕方ないとユズイはソロエンドを目指すが、チートを望んだ代償は大きくて……!?
溺愛&執着されまくりの学園ラブコメです。
イケメン俳優は万年モブ役者の鬼門です
はねビト
BL
演技力には自信があるけれど、地味な役者の羽月眞也は、2年前に共演して以来、大人気イケメン俳優になった東城湊斗に懐かれていた。
自分にはない『華』のある東城に対するコンプレックスを抱えるものの、どうにも東城からのお願いには弱くて……。
ワンコ系年下イケメン俳優×地味顔モブ俳優の芸能人BL。
外伝完結、続編連載中です。
旦那様と僕
三冬月マヨ
BL
旦那様と奉公人(の、つもり)の、のんびりとした話。
縁側で日向ぼっこしながらお茶を飲む感じで、のほほんとして頂けたら幸いです。
本編完結済。
『向日葵の庭で』は、残酷と云うか、覚悟が必要かな? と思いまして注意喚起の為『※』を付けています。
春風の香
梅川 ノン
BL
名門西園寺家の庶子として生まれた蒼は、病弱なオメガ。
母を早くに亡くし、父に顧みられない蒼は孤独だった。
そんな蒼に手を差し伸べたのが、北畠総合病院の医師北畠雪哉だった。
雪哉もオメガであり自力で医師になり、今は院長子息の夫になっていた。
自身の昔の姿を重ねて蒼を可愛がる雪哉は、自宅にも蒼を誘う。
雪哉の息子彰久は、蒼に一心に懐いた。蒼もそんな彰久を心から可愛がった。
3歳と15歳で出会う、受が12歳年上の歳の差オメガバースです。
オメガバースですが、独自の設定があります。ご了承ください。
番外編は二人の結婚直後と、4年後の甘い生活の二話です。それぞれ短いお話ですがお楽しみいただけると嬉しいです!
君のことなんてもう知らない
ぽぽ
BL
早乙女琥珀は幼馴染の佐伯慶也に毎日のように告白しては振られてしまう。
告白をOKする素振りも見せず、軽く琥珀をあしらう慶也に憤りを覚えていた。
だがある日、琥珀は記憶喪失になってしまい、慶也の記憶を失ってしまう。
今まで自分のことをあしらってきた慶也のことを忘れて、他の人と恋を始めようとするが…
「お前なんて知らないから」
学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語
紅林
BL
『桜田門学院高等学校』
日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する野球ドーム五個分の土地が学院としてなる巨大学園だ
しかし生徒数は300人程の少人数の学院だ
そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語である
この噛み痕は、無効。
ことわ子
BL
執着強めのαで高校一年生の茜トキ×αアレルギーのβで高校三年生の品野千秋
α、β、Ωの三つの性が存在する現代で、品野千秋(しなのちあき)は一番人口が多いとされる平凡なβで、これまた平凡な高校三年生として暮らしていた。
いや、正しくは"平凡に暮らしたい"高校生として、自らを『αアレルギー』と自称するほど日々αを憎みながら生活していた。
千秋がαアレルギーになったのは幼少期のトラウマが原因だった。その時から千秋はαに対し強い拒否反応を示すようになり、わざわざαのいない高校へ進学するなど、徹底してαを避け続けた。
そんなある日、千秋は体育の授業中に熱中症で倒れてしまう。保健室で目を覚ますと、そこには親友の向田翔(むこうだかける)ともう一人、初めて見る下級生の男がいた。
その男と、トラウマの原因となった人物の顔が重なり千秋は混乱するが、男は千秋の混乱をよそに急に距離を詰めてくる。
「やっと見つけた」
男は誰もが見惚れる顔でそう言った。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる