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第十四章:記憶
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涙が込み上げた。
いつか終わらせる恋と決めていた僕だからこそ、絶対忘れるものかと必死に記憶していた。亮介の大きな手も、滑らかな背中の感触も、僕を見つめる熱のこもった瞳も、息遣いも……そしてこの目も声も唇も。
もう僕の隣には居ない。もう触れることも囁いてくれることもない。もっと好きだと言って欲しかった。でもきっと聞き過ぎていたら、僕は亮介を手放せなかった。雁字搦めにしてしまっていたかもしれない。
「……亮介」
零れそうになる涙を堪えてページを捲る。
見開き一面。パノラマになって写っていたのは乱れたベッドの上で、亮介が男性の首に腕を回し、受け入れようとしている写真だった。
亮介は……先を行ったわけじゃないのか? まだ僕と同じ場所で立ち止まっている?
僕の呪縛が解けていない。ずっと、今もずっと後悔しているのかもしれない。
そう思ってしまったら、涙は結局こぼれて落ちた。
反省すべきは亮介じゃない。僕の方なんだよ。僕が悪いのに、亮介の方が僕なんかよりずっと苦しんでる。ずっと後悔してる。
写真一枚で……僕は、亮介の苦悩を思い知らされた。
僕に抱かれようと決心したあの日の亮介を思い出す。絶対に拒絶しないと心に決めた顔をしてベッドへ入った。
あの時彼が言った「いやだ」は「怖い」だった。そんなの分かっていた。分かっていたけど、僕はきっぱりと突き放した。
その一言ですべてを終わらせた。
どちらにしても別れるべきだという思いは強くて、未だにそれは間違いじゃなかったと思っている僕には、あの「いやだ」が好都合すぎるきっかけになってしまった。
けど……亮介は違う。
いやだと拒絶したことを、今も尚後悔しているのだろう。自分のせいで僕らが終わってしまったのだと思っているに違いない。
この写真で、亮介はあの時実現しなかった行為を成功させようとしているのかもしれない。
「……亮介」
あの日、ベッドから降りた僕に縋りつき、抱いてくれと叫んだ亮介。ごめんと何度も謝り、もう大丈夫だからと、もう一度抱いてくれとチャンスをくれと……泣いて、縋って……。
「……亮……っ」
思い出したくなかったあの日の記憶が、この写真一枚でいとも簡単に蘇る。
愛してるんだって……、そんなこと一度だって言ったことなかったのに、この日だけは僕にそんなことを言って……。比呂人じゃなきゃダメなんだって……ボロボロに泣いて……さ。
『もう……愛してくれないの?』
止まらない涙を拭いもせず、玄関に立った彼に……僕は涙ひとつ見せずに扉を閉めた。
これで良かったんだ、これが正しい道なんだと、……自分に言い聞かせて。
「愛してるよ……、亮介。今でも……ずっと……愛してる」
もう、決して届かない。
それでも、僕はまだ亮介を愛している。
溢れた涙は頬を伝って、ラグの上にポタポタと落ちては染みを作った。
「どういうこと……?」
突然声がして、初めて僕は恵子が帰って来ていたことに気付いた。今日は実家に帰ると言っていたから、僕は完全に油断していたんだ。
いつか終わらせる恋と決めていた僕だからこそ、絶対忘れるものかと必死に記憶していた。亮介の大きな手も、滑らかな背中の感触も、僕を見つめる熱のこもった瞳も、息遣いも……そしてこの目も声も唇も。
もう僕の隣には居ない。もう触れることも囁いてくれることもない。もっと好きだと言って欲しかった。でもきっと聞き過ぎていたら、僕は亮介を手放せなかった。雁字搦めにしてしまっていたかもしれない。
「……亮介」
零れそうになる涙を堪えてページを捲る。
見開き一面。パノラマになって写っていたのは乱れたベッドの上で、亮介が男性の首に腕を回し、受け入れようとしている写真だった。
亮介は……先を行ったわけじゃないのか? まだ僕と同じ場所で立ち止まっている?
僕の呪縛が解けていない。ずっと、今もずっと後悔しているのかもしれない。
そう思ってしまったら、涙は結局こぼれて落ちた。
反省すべきは亮介じゃない。僕の方なんだよ。僕が悪いのに、亮介の方が僕なんかよりずっと苦しんでる。ずっと後悔してる。
写真一枚で……僕は、亮介の苦悩を思い知らされた。
僕に抱かれようと決心したあの日の亮介を思い出す。絶対に拒絶しないと心に決めた顔をしてベッドへ入った。
あの時彼が言った「いやだ」は「怖い」だった。そんなの分かっていた。分かっていたけど、僕はきっぱりと突き放した。
その一言ですべてを終わらせた。
どちらにしても別れるべきだという思いは強くて、未だにそれは間違いじゃなかったと思っている僕には、あの「いやだ」が好都合すぎるきっかけになってしまった。
けど……亮介は違う。
いやだと拒絶したことを、今も尚後悔しているのだろう。自分のせいで僕らが終わってしまったのだと思っているに違いない。
この写真で、亮介はあの時実現しなかった行為を成功させようとしているのかもしれない。
「……亮介」
あの日、ベッドから降りた僕に縋りつき、抱いてくれと叫んだ亮介。ごめんと何度も謝り、もう大丈夫だからと、もう一度抱いてくれとチャンスをくれと……泣いて、縋って……。
「……亮……っ」
思い出したくなかったあの日の記憶が、この写真一枚でいとも簡単に蘇る。
愛してるんだって……、そんなこと一度だって言ったことなかったのに、この日だけは僕にそんなことを言って……。比呂人じゃなきゃダメなんだって……ボロボロに泣いて……さ。
『もう……愛してくれないの?』
止まらない涙を拭いもせず、玄関に立った彼に……僕は涙ひとつ見せずに扉を閉めた。
これで良かったんだ、これが正しい道なんだと、……自分に言い聞かせて。
「愛してるよ……、亮介。今でも……ずっと……愛してる」
もう、決して届かない。
それでも、僕はまだ亮介を愛している。
溢れた涙は頬を伝って、ラグの上にポタポタと落ちては染みを作った。
「どういうこと……?」
突然声がして、初めて僕は恵子が帰って来ていたことに気付いた。今日は実家に帰ると言っていたから、僕は完全に油断していたんだ。
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