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第十四章:記憶

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 写真集を一ページずつ丁寧に捲る。時折、亮介のとても上手とは言えない字が言葉を綴っている。一字一句見落とさないように読んだ。
 そして、ページ半ばに差し掛かった時。カラー写真が白黒写真へと変わった。

 バスローブを纏い、髪もセットせず、それはまるで僕の知っている風呂上がりの亮介のようだった。

 見開きの片面には、後ろ姿の亮介。
 バスローブを半分脱いで、骨格のいい肩と綺麗な背中を露わにして、少しだけこちらを見ているその目は……あぁ……そうだ。知っている、これは亮介の目だ。僕の気持ちを、考えを見透かしているような、強烈な眼差し。この目に、僕は一体どれだけ気持ちを焦らせたっけ。
 シェフから言わせれば、僕は飄々としていて、亮介くらいなら簡単に騙せる。そう思っていたんだけど、時折亮介はこの目で僕をじっと見た。それは、大人しく騙されてやるよと言うような目なんだよな。

 別れよう、と早く切り出さなくちゃ。
 そんなことを考えている時は、決まってこの目で僕を見つめた。本当に見透かされているようだったんだ。

 もしかして今だって、この本の中から僕の気持ちを見透かそうとしているの?

 ページを捲る手が少しだけ躊躇ったけど、勢いに任せて捲る。そこにはバスローブを落とす亮介の大きな右手。反対のページには、裸足の足。パラパラ漫画みたいな展開に、僕は少しドキドキして……ゆっくりと、ページを送った。


「あれは反則だよね」

 亮介の写真集を持っていた店の客がそんなことを言っていた。

 あぁ……反則だ。僕もそう思う。


 そこには、筋肉質な男性と裸で抱き合う亮介が……いた。

 うまく顔の見えない男性に口付けしようとしている亮介。それは見覚えのある、色っぽい瞳。僕の体に触れる時、キスする時だけに見せる……特別な瞳。

 心臓が高鳴った。
 忘れそうになっていた亮介の全てを思い出す。好きとは簡単に言ってくれない亮介だったけど、嫌というほど僕の名前を呼んだ。

 ”比呂人” と呼べば、それは彼の中で ”好きだ” と言っている証。そうだと気付いたのは……わりと遅かった。

 その声を思い出そうと記憶を辿る。比呂人と呼ぶあの声、耳元で囁かれる恥ずかしい言葉。気持ちいい?と聞いてくる亮介の声は、もうそれだけで僕の体を熱くさせた。

 亮介の声は……僕の体に染み付いている。大好きだった。好き過ぎて、いい声だと本人に言うことすら出来なかった。けど本当はいくらでも囁いて欲しかった。この耳に、体に、亮介の声を響かせて欲しくて、返事をいつも焦らした。亮介が囁く ”答えろよ” の声が聞きたくて──。


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