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第十四章:記憶

ーside 亮介ー 1

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「朝だよ、起きて」

 俺、今日午後出勤……。

「そ。ねぇ、今日は帰ってくるの?」

 ……わかんない。

「そ。鍵は掛けて出掛けてね」

 分かってる、そんなの常識だろ。


 そこまで答えて、はっといきなり目が覚めた。

 外はまだ暗く、部屋の中も真っ暗で、薄暗く光っている掛け時計は夜中の一時を指していた。眠りに就いてまだ二時間も経っていない。何故今、こんな夢を見たのか分からない。だけどどこか記憶に残る朝の風景だった。

 比呂人の声のはずなのに、比呂人の姿は見えなかった。
 そんな悲しい夢。

 季節はすっかり夏になっている。開け放している窓から緩やかな風が舞い込み、俺はそっとベッドを降りて窓を閉めた。

 今日は七月十二日。ベッド脇のサイドテーブルに置いている携帯を取り、バースデーLINEをひとつずつ確認する。きっと皆から連絡が来るだろうと思い、携帯は敢えてサイレントモードにしていた。もっともメールの受信音どころか、予想外すぎる夢に睡眠を妨げられる結果になってしまったのだが。

 こんな夢を見た後だ。比呂人から連絡が入っているのではないか、なんて淡い期待を抱くが、もちろんそんなものは入っていなかった。

 ソロ活動を始めた今年。芸能人オーラが出てきた、と色んな人から言われるようになり出した。
 思いのほかソロ活動の反響は大きく、三曲しか出していないのに、今年の冬にはミニアルバムを出そうという話が持ち上がっている。初となる個人写真集も、先日発売の運びとなり、順調に売り上げも伸びているらしい。逆にcodeとしての活動はあまり活発ではなく、今は個人活動に力を入れているといった具合。

 明日も仕事だ。だけど布団に入っても、なかなか寝付けなかった。朝だよ、と起こした比呂人の声がずっと耳の奥でこだまする。

 一体いつの会話だったか思い出せない。とても懐かしい気がしたから、実際に交わした会話なんだろうけど、どうしても思い出せなかった。

 ベッドを降り、寝室を出て、ヘルメットとキーを持ち、俺は部屋を出た。

 ボサボサ頭にジャージ姿のまま、バイクに跨り桜並木を走り抜ける。どこに向かうでもない。耳に残る比呂人の声をかき消したかった。

 夏の湿気が漂う生暖かい風を切る。

 忘れたい。早く忘れたくて仕方ない。がむしゃらに仕事へ熱中し、一人の時間をなるべく作らないように予定を詰め込む。こんな生活いつまで続けられる? いつまで続けるつもりだ……。どうかしてる。一昨年の十二月だぞ、別れたの。

 なんで今更夢に見る? なんで今更またこんなに苦しい? ……なんで今更……。
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