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第十一章:繰り返しの日々

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「大丈夫だよ。印だけ……」

 微笑みかけて、服を捲る。比呂人が小さく深呼吸して目を閉じたから、俺は硬い胸板に顔を埋めた。
 キスマークだけとは言え、もちろん俺は比呂人の胸を口で愛撫する。ドキドキしている比呂人の心臓がよく分かった。それが可愛くて、こちらまで心臓が跳ね上がる。

 乳首を舌で転がし、指を滑らせてボディラインをなぞる。比呂人が俺の髪に指を通し、鼻から抜けるような息を吐き出した。
 鎖骨の下辺り、心臓の上、左の脇下……、そうやっていくつかの印を残す。


 俺のもの。

 俺だけの比呂人。


 愛してる。


 突然、ギュッと比呂人が俺の頭を抱きしめたから、俺はふと比呂人へ視線を移した。すると、恥ずかしそうに顔を赤らめている彼が俺をじっと見ている。
 少し驚いて、俺は比呂人から僅かに体を離した。彼の両サイドに手をつき、上から見下ろす。

「……どうした?」

 聞くと比呂人はより一層照れたように視線を泳がせると、結局両手で顔を隠してしまった。

「なんだよ、恥ずかしいの?」

 比呂人は顔を隠したまま、コクっと頷く。


 なんだこれ……ヤバイくらいに可愛い。


 さっきまで、腹を弄ることすらビビってたくせに、今なら何だって出来る気がして来る。可愛すぎて、好きすぎて、虐めたいなんて思ってしまって、俺は比呂人の腹の上で上体を起こすと、着ていた服を脱いだ。
 指の間から比呂人が俺をチラリと確認し、小さく唸る。

「むり……やめて……っ」

 まだ寝ぼけ声のままだった。

「コンサート終わったんだ、俺」

 言った俺に、比呂人は顔を隠していた手をゆっくり退けると、小さく首を傾げた。

「もうしばらく、人前で脱いだりしない」

 比呂人の目がじっと俺を見つめる。

「アイドルに……つけてみる? あんたの印」

 もう二度とさせないかもしれないぜ。そう付け加えると、比呂人は肘をついて起き上がり、俺の胸に手を当てた。

「好きなとこにつけろよ」

 けど、比呂人は優しく俺を抱きしめ、キスをし、額を突き合わせながら目を合わせると、悲しげな微笑みを浮かべた。

「出来ないよ……」

 そう言って、また優しく俺を抱きしめた。

「責任とれないから」
「取る必要ねぇよ。俺の自己責任だ」

 ファンに申し訳ないなんて、この後に及んで遠慮しているのだろうか?

「気にすんなよ。しばらくは仕事もそんなにない。脱ぐような仕事もないから」

 背中をさするように撫でると、比呂人は俺の首に唇を当てた。そして、腰に当てられていた彼の右腕に力が入り、気付いた時にはさっきとまるで態勢が逆転していた。
 華奢そうに見えるけど、比呂人はかなり力が強い。伊達に背が高いわけではないらしい。布団に埋もれそうな俺の体に比呂人がキスをする。手を取り、指を絡め、嵐のようなキスは首から肩、二の腕、胸、そして腹まで下りて……俺はそれ以上下は勘弁してくれと絡めている手を強く握った。
 それを察したのか、はたまたそれ以上するつもりが元よりなかったのか、比呂人は俺の脇腹に薄いキスマークを残した。


 体が、心が……ヤバイくらい騒いだ。


 三日もすればすぐに消えてしまいそうな淡いキスマーク。
 それでもバカみたいに嬉しかった。

 やっちゃった、と顔に書いてある比呂人を押し倒し、俺は嬉しくて、飼いならされた犬みたいに尻尾を振って、何度もキスをした。

 この人は、無頓着で無執着なんだ。だからこれは……奇跡の印。

「比呂人……!」

 もっと俺に興味を持って。もっと俺に甘えて。もっと俺に依存しろ。俺しか見えなくて、俺しか要らなくなって、俺だけの比呂人になればいい。
 あんたの鉄壁を俺だけが壊せるなら、こんな幸せなことはないだろ。

 頼むから、俺にだけに執着してくれ。

 もう、我慢出来なかった。


「エッチ……してみない?」


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