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第十一章:繰り返しの日々

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「……比呂、帰ったよ……」

 けど、俺たちはまだキスだけの仲だ。それ以上は求められないし、俺も求めない。こうやって一緒にベッドに入るのだって、しょっちゅうってワケじゃない。
 俺が飲んで帰ってきた時か、比呂人が一緒に寝ようと申し出るか、俺からは恥ずかしくてあんまり言い出せないけど、せめて酒を飲んだ時くらいはこうやって比呂人に近づく。

 触れたくて仕方が無いなんて、その先を怖じ気付いてる俺が何様だという話だ。

 実際、確かに衝動はある。相変わらずキスの上手い比呂人と、息が漏れるほどの熱いキスを繰り返した時は嫌でも体は反応する。

 けど……、まだ怖い。踏み越えていい山なのか迷ってしまう。

 好きに違いはないのに、体まで愛せない自分がいる。
 それが情けない。

 比呂人はこんな俺のこと、どう思っているんだろうか。エッチしようとか触ってとか、比呂人は要求しないけど、本当にそれでいいんだろうか。この現状に満足してるわけは……ないよな。

 比呂人の腹の辺りにある自分の手。温かい比呂人の体温。整った寝息に上下する体。

「好きだよ」

 そんな言葉一つ、直接伝えられない。女相手だと簡単に言えるのに、比呂人にはなかなか言ってあげられない。
 たぶん、それは比呂人が男だからだ。比呂人は確かに恋愛対象なんだけど、男友達に雄の顔を見せたくない感覚に似てる。つまりはちっぽけなプライドだ。好きなんだけど……、好きすぎるんだけど。

 最近妙に年の差を感じるようになり出してる。
 比呂人の笑顔は、まるで弟に向けられているような優しい兄貴って感じに思えて来て、それが余計に癪で。甘い言葉ひとつ言えない。リードしたいって気持ちだけが、一人でエンジンをふかしてる状態だ。
 でも発進する勇気がないっていう……。ダサイよな。

 服の中に、そっと手を忍ばせる。こんなことをするのはどれほどぶりだろうか。いつかは勇気を振り絞らなきゃならない。比呂人が求めるなら、必ず応えたい。
 ひとつになりたいって、そりゃ俺だって嫌というほど毎日考えてる。時間があったら比呂人のことばっかりだ。頭の中まで火照ってる。バカなくらい……比呂人が好きなんだ。

 俺は、服に忍び込ませた手で比呂人の腹を撫でた。臍を見つけて指を入れてみる。腰から腹をまさぐるように撫で回す。
 こんなことすら初めてで、酒が回っているとは言え、ドキドキした。
 この硬い体に慣れてからは、イメージトレーニングも出来るようになった。比呂人を抱きたいと本気で思ってるし、夢の中じゃ簡単に抱けるんだ。妄想して体が反応する。けど、実際こうやって触ると……やっぱりちょっと怖いよな。

 でも、怖がってばかりじゃ絶対先には進めない。
 再び臍に指を入れると、比呂人は小さな声を出し、眠りを妨げるそれを振り払おうとTシャツの上から俺の手を引っ掻いた。

 しばらくじっとしていると、比呂人はまた順調に体を上下させ、眠り始める。

 ……可愛い。

 今なら勇気が出る気がした。
 腹に置いたままの手を胸へと滑らせる。小さな乳首を見つけて指の腹で撫でてみると、それは次第に硬くなった。もう片方の乳首も探す。撫でたり、つまんだりしてみる。女の胸とは圧倒的に色気が足りない。触っていても、特別楽しくはなかった。

 だけど、不意に比呂人の熱っぽい吐息が聞こえて、はっとする。

「……起きてる?」


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