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第十章:不安、戸惑い、それでも好き

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 ひとまず痛いくらいに押さえつけられている肩の自由が欲しくて、それを振り解こうと布団から手を出すと、事もあろうかそのまま両手を布団に抑え込まれてしまった。

 ………ん?

 長い、長いキス。俺の左サイドに居た日下さんは、俺の体を跨ぎ、馬乗り状態になると、俺の両手を押さえたまま、優しいキスを続けた。

 ん、んぅ? ちょ……っと、待て。

 日下さんの優しいキスは続く。こんな風にキスする人だったのかと、彼の二十九年間の性生活をちょっと垣間見た気がして、ぞくっと身震いする。けど、まぁそれはいい。キスが上手かろうが優しかろうが、これまで他の女とこうやってキスしていたことも、まぁいいんだ。

 問題は……立ち位置!!!!

 いやいや、違うだろ? 逆だよ、逆!! 俺が上に決まってるだろ! どう考えたってそうじゃん! こ……このままじゃ、俺が抱かれてしまうぞ!?

 そう思った瞬間、慌てて顔を背かせて日下さんの唇から逃げた。
 彼は俺の上に馬乗りになりながら、薄っすらと瞳を開けて俺を見下ろす。見たこともないような瞳だった。何か諦めたような、吹っ切ったような、どこか強い意志を持っているような、それでいて、間違いなく欲情しているエロい瞳。

 既に俺は興奮していた。
 だけど……待て。ちょっと待て……、色々待って欲しいっ!!

 まず、ひとつ。この体勢は俺が不利だ。
 ふたつ。明日はお互い朝が早いから睡眠重視のはずだ。
 みっつ。そもそも抱く準備も抱かれる準備も出来ていない!!

「……退いて」

 喉が乾くほど緊張している。混乱もしている。まじでちょっと待ってくれ!

 焦って焦って焦りまくって、ひとまず日下さんのスイッチをオフにする方法を探す。それなのに日下さんは俺の腹の上でおもむろにTシャツを脱いだ。

「ちょ……! 何してんだよ! やっめ、ろ!」

 ぎょっとし、俺は強引に起き上がると、突き飛ばすように日下さんを押しどけて布団から飛び出した。あまりに焦ってしまったせいで、綺麗に積み上げていた自分の服に躓き、その山はドサドサと雪崩を起こして崩れた。
 猫毛の日下さんの前髪からは、崩れた服を見つめる色艶あるタレ目が覗き見え、ゆっくりとその眼差しが俺に向けられる。

 か、勘弁してくれよ!

「な、なんだよ、どうしたんだよ! なんなんだよ……っ、やめろよ、そういうの!」

 完全に狼狽えた。
 経験値が少ないのは認めよう。彼とは七つも歳が違うわけだから、経験値だって七年分少ないってわけだ。けど……、けどこんな経験値、日下さんだってねぇよな? 男だぞ、俺? そんな簡単に迫るなよ! それとも何だ? 男と、け……経験有りだっていうのか?

 いやいやいや! だとしても! 待って、待って、待ってくれって!!

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