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第十章:不安、戸惑い、それでも好き

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「ファンクラブを通したプレゼントしか本人は受け取れません。恐れ入りますが……」
「ケチ!!」

 中身は洋服だろうか。バシっとプレゼントで頭を殴られた。

「店長っ」

 森本くんが慌てて僕と客の間に割って入る。森本くんは僕よりずっとガッチリした体型で、例えるなら熊。女の子は森本くんに怯み、プレゼントをその場に投げ捨てると店を出て行った。

 賑わっている店内だったけど、多くの客がそれを目撃していた。

「大丈夫ですか?」

 森本くんはプレゼントを拾い上げ、俯く僕を覗き込んだ。

 泣きたいくらい……辛い。正直全然大丈夫ではない。

 ワックスで固めている髪が乱れ、僕はそれをさっと直すと、顔を上げて無理やり笑った。

「あぁ、ごめん。大丈夫だよ」

 ぐるりと店内を見渡すと、プレゼントを持った女の子達が気まずそうに僕から視線を外した。

「もらうよ」

 僕は森本くんから捨てられたプレゼントを受け取り、逃げるように裏へ引っ込んだ。黄色い不織布の袋に入ったプレゼント。厨房に戻る前に事務所に入ってプレゼントを自分のデスクに置いた。


 加藤君は ”みんなのもの” 。


 僕は……何をやってんだろ。

 昨日、本気で加藤君が怒った。ふざけるなって大声を出されて、正直ビビった。言わないはずの自分の気持ちを、圧倒的な強さで引き摺り出されて、結果キスされて、好きかもしれないと言われた。

 本当はダメなんだよ。そんなこと加藤君に言わせちゃいけない。キスも好きも全部ご法度なんだ。だって加藤君は ”みんなのもの” だから。僕だけが独占しちゃいけない。

 加藤君は独り占めしたらいいなんて言ったけど、この店の状態を見て、平然と独り占め出来るほど、僕は強かじゃない。全然強くない。優越の欠片も感じない。そこにあるのは、罪悪感だけだ。

 閉店後、スタッフ達を全員見送り、僕はこっそりダストストックからゴミ袋をひとつ取り出した。店の壁に凭れて座り込み、オレンジの外灯の下、硬く結ばれているゴミ袋を開ける。そして、あのプレゼントを押し込んだ。

 涙が出た。

 辛くて、申し訳なくて……殴られた感覚が妙に残っていて。
 これくらい……、このひとつくらい加藤君に渡してもいいんじゃないかってそう思いはするんだけど、やっぱり僕は……なんだかんだ言いながら加藤君を独占したいんだ。

 それが、怖い。それが……醜い。

「ごめん……っ」

 謝ったって許してもらえない。僕は最低だ。本当に……最低だ。


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