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第九章:ゼロ距離
ーside 加藤ー 1
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家に帰ると、珍しくテレビの音が聞こえてきた。基本的に日下さんはテレビを見ない。あれの電源が入る時はゲームをする時くらいだ。だからどうせゲームをしているものだと思った。
「ただいま」
短い廊下を抜けリビングに入ると、彼はソファに凭れながらラグの上に座り込み、テレビに釘付けだった。ゲームじゃなかったのかと、テレビ画面に視線を移すと、そこにはリーダーと小形の顔があった。
「……あ?」
状況を理解するまでに、僅か時間がかかる。
「おかえり」
柔らかな声。振り返り際に気付く。テーブルの上に積まれているDVDのケース。
……ちょ
「ちょっと待てーーーっ!」
俺は慌ててテレビの前に走りこみ、そのまま電源を落とした。
これ、よりによってコレ! 一昨年の冬コンじゃねぇかよ! いや、だけどまだ俺の恥ずかしい映像には辿り着いていない! ギリギリセーフだ。
「な……何っ、何見てんだよ!」
赤面したまま日下さんを振り返り叫ぶ。
「なんで消すんだよ、見てたのに」
「消すに決まってんだろ!」
「退いてよ、そして早く電源を付け直してよ」
「するか、バカ野郎!!」
早くもツン全開か! こちとら東京二日目を終えてクタクタだってのに、どうせなら日下さんとデレデレしてぇんだよ!
「何買って来てんだよ! 誰に教わったんだよ、DVDなんてセコイ真似!!」
「セコくない。本屋でちゃんとお金払って買ってきた」
そういう話をしてるんじゃない! っていうか、今出てるコンサートDVDを三本一気に大人買いか? ちょっとレストランの店長してるからって余裕な金使いを見せびらかしやがって!
日下さんは立ち上がり、テレビの前に立ちはだかる俺の前まで来ると、腕を組み仁王立ちした。ほとんど背は変わらないが、僅かに日下さんの方が背が高い。
負けじと睨み返す。俺は絶対にここから退かねぇ! 続きを見せてなるものか!
「もう既に一回見終わっている」
はい、アウトーーー!!
ガクっと膝から崩れ落ちた俺に、日下さんはケタケタ嬉しそうに笑った。そして四つん這いになって項垂れる俺の前にしゃがみ込み、笑いながら俺の肩に触れた。
そして、とんでもない言葉を言い放ったのだ。
「どうかな。もう、一緒に暮らすのやめようか」
少しの覚悟もしていない言葉だった。
「ただいま」
短い廊下を抜けリビングに入ると、彼はソファに凭れながらラグの上に座り込み、テレビに釘付けだった。ゲームじゃなかったのかと、テレビ画面に視線を移すと、そこにはリーダーと小形の顔があった。
「……あ?」
状況を理解するまでに、僅か時間がかかる。
「おかえり」
柔らかな声。振り返り際に気付く。テーブルの上に積まれているDVDのケース。
……ちょ
「ちょっと待てーーーっ!」
俺は慌ててテレビの前に走りこみ、そのまま電源を落とした。
これ、よりによってコレ! 一昨年の冬コンじゃねぇかよ! いや、だけどまだ俺の恥ずかしい映像には辿り着いていない! ギリギリセーフだ。
「な……何っ、何見てんだよ!」
赤面したまま日下さんを振り返り叫ぶ。
「なんで消すんだよ、見てたのに」
「消すに決まってんだろ!」
「退いてよ、そして早く電源を付け直してよ」
「するか、バカ野郎!!」
早くもツン全開か! こちとら東京二日目を終えてクタクタだってのに、どうせなら日下さんとデレデレしてぇんだよ!
「何買って来てんだよ! 誰に教わったんだよ、DVDなんてセコイ真似!!」
「セコくない。本屋でちゃんとお金払って買ってきた」
そういう話をしてるんじゃない! っていうか、今出てるコンサートDVDを三本一気に大人買いか? ちょっとレストランの店長してるからって余裕な金使いを見せびらかしやがって!
日下さんは立ち上がり、テレビの前に立ちはだかる俺の前まで来ると、腕を組み仁王立ちした。ほとんど背は変わらないが、僅かに日下さんの方が背が高い。
負けじと睨み返す。俺は絶対にここから退かねぇ! 続きを見せてなるものか!
「もう既に一回見終わっている」
はい、アウトーーー!!
ガクっと膝から崩れ落ちた俺に、日下さんはケタケタ嬉しそうに笑った。そして四つん這いになって項垂れる俺の前にしゃがみ込み、笑いながら俺の肩に触れた。
そして、とんでもない言葉を言い放ったのだ。
「どうかな。もう、一緒に暮らすのやめようか」
少しの覚悟もしていない言葉だった。
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