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第九章:ゼロ距離

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 僕だけじゃない。皆がぎょっとして赤坂さんを見た。

「朝の情報番組で今朝、それやってましたよ!」

 僕以上に他のスタッフ達が「えぇっ!?」と声を上げた。

「顔こそ見えないようにはされてましたけど、声も…… ”ヒロト” って名前も出てました。まさかとは思ってたんですけど」

 そうか。赤坂さんを一度コンサートに誘っていたんだった。まさかと思っても仕方がないだろう。

「まぁ……そういうことです。不本意ながらバレてしまいました。よって、ファンの女の子達のダンプが予想されます。皆様にはご迷惑を掛けることになるかと思いますが、ご協力お願いいたします」

 みんな、codeの加藤亮介と言えば、誰かすぐに分かるんだな。やっぱり加藤君は有名人なんだ。知ってるけど、……実感したくないな。

 しかも……あぁ。テレビで流れちゃったのか。パニックを起こしてる僕をテレビで放送したわけじゃないだろな。それはまじでありえないんだけど。だとしたらほんとヘコむ、恥ずかしすぎる!

 昨夜、西崎さん達とご飯を食べながら、四月の放送事故の話を詳しく聞いた。
 加藤君には非がなかった。でも加藤君ばっかり信用を失っていたんだ。僕が加藤君を助けられるのなら、結果的にあれで良かったのだと納得したけど、でも……改めて思ったんだ。

 僕は凄い人と一緒にいるんだなって。奇跡だって思う。なんで僕なんかと一緒にいるんだろう……ってさ。

 でも加藤君は僕を恩人だと、憧れだと言ってくれた。それが理由なのかなって、素直に嬉しかった。だけど、ファンを手前のリップサービスかなとも思えるんだ。
 ”比呂人” と呼んだことも、吉住さんへ ”奪ってごめん” なんて言ったのも、明らかにそうだろ。だって現に、加藤君は僕を比呂人と呼んでくれない。

 亮介と呼べば、比呂人とまた呼んでくれるかなって思ったけど、困った顔しか……しなかった。
 加藤君が僕と一緒に居るのは、僕が前に一緒に居てくれって頼んだからかな? 何も教えてくれなくていいから、家に帰ってこいって言ったこと、律儀に今も守っているのだろうか? 加藤君、口は悪いけどすごく優しいから……僕に気を遣っているのかもしれないな。

 もしそうだとしたら……僕はもう彼と一緒に居るべきじゃない。加藤君を独り占めするようなこと、絶対にしちゃいけない。西崎さんや、ほかの加藤君ファンに失礼だ。ましてや僕は……加藤君のこと……、加藤君のことやっぱり好きだと思うから、尚更一緒に居ちゃいけない。

 これ以上、加藤君を束縛してはいけないんだ。ファンの皆を欺いてはいけない。加藤君が一番大切にしているファンの子達を傷つけるのが僕だったら、きっと彼は傷つく。

 もっと僕が無神経な男なら良かったな。そしたらこんなこと感じない。独り占め出来る今の環境を楽しめたはずなのに。でも僕はやっぱり、普通の……男だから。
 そう、男だからこそ、後ろめたいんだよ。この好きだなんて馬鹿げた感情が……。

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