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第六章:七月の微熱
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「見やす~い!」
西崎さんが叫んだ。席は思いのほか良席で、一階席の最前列。しかもかなり中央寄りだ。
「バクステすぐそこじゃん! ねぇ、店長さん! トロッコとかめっちゃ近く通ると思うし、カトゥンが近くなったら、コレ振って貰えますか?」
興奮気味に西崎さんはそう言うと、やたらめったデカイと思っていた鞄の中から手作りの団扇を取り出した。”介” の文字が丁寧に団扇に貼り付けられている。しかもどう見ても立体的だ。ストーンも散りばめられ、キラキラと眩しい。同時に取り出したもう一枚の団扇には ”亮” の字が見て取れる。西崎さんの分だろう。
「……どうやって作ったの?」
圧倒されてしまうほどの仕上がり具合に、思わず聞いてしまった。
まぁ聞いてしまったものだから、西崎さんが丁寧に色々説明してくれる。だが残念ながら何ひとつ覚えられない。覚える気もない。それでも彼女は説明をしながら、サイリウムをベキベキ折って発光させると、ブレスレットのように丸め、いくつも両手に付けた。
「準備いいね」
「店長さんの分もあるよ」
頼んでもいないのに、彼女は五色のサイリウムを僕の腕に付けてくれた。
……正直、やめて欲しい。けど、僕がcodeのコンサートに誘ったことを彼女はすごく喜んでくれていて、続いてグッズのキーボルダーを僕に手渡した。
「はい、これ! チケット譲ってくれたお礼です! こんなんじゃ安いけど」
タオルしか買わなかった僕のために、余分にコレを買い足してくれていたらしい。礼を言い、無くすわけにもいかないから、さっそく封を切って携帯に付けた。
加藤君……なんて言うだろうか? また恥ずかしそうに「バカじゃねぇの」って言うんだろうな。僕ですらバカだと思うよ。きっと明日には外されてるだろう。
まぁ、ここに加藤君のサインでも入れば話は別かもしれないけど。わりとシンプルなデザインだし、ぱっと見ただけじゃアイドルのコンサートグッズとは分からない。
キーホルダーを見つめる僕に、西崎さんは僕に何点か注意事項を話した。団扇は胸より上にあげて振っちゃダメだとか、MC中に叫んではいけないとか。そんなこと言われなくてもしない。サイリウムですら恥ずかしいのに、誰がMC中に叫ぶって? 何を叫ぶって言うんだよ。
そもそも手渡された団扇、振らなきゃダメかな? すごく恥ずかしいんだけど。
「あのさ、コレ振……」
「タイミングは言うから! 絶対振ってくださいね!」
屈託のない笑顔。
せっかく彼女が頑張って作った団扇だ。振りたくないとはやっぱり言えない。
「そう言えば~、店長さんって誰が一番好きなんですか?」
誰担とは言わなかった。ちょっと使って欲しかったのに、西崎さんはやっぱり気の遣える優しい子みたいだ。
西崎さんが叫んだ。席は思いのほか良席で、一階席の最前列。しかもかなり中央寄りだ。
「バクステすぐそこじゃん! ねぇ、店長さん! トロッコとかめっちゃ近く通ると思うし、カトゥンが近くなったら、コレ振って貰えますか?」
興奮気味に西崎さんはそう言うと、やたらめったデカイと思っていた鞄の中から手作りの団扇を取り出した。”介” の文字が丁寧に団扇に貼り付けられている。しかもどう見ても立体的だ。ストーンも散りばめられ、キラキラと眩しい。同時に取り出したもう一枚の団扇には ”亮” の字が見て取れる。西崎さんの分だろう。
「……どうやって作ったの?」
圧倒されてしまうほどの仕上がり具合に、思わず聞いてしまった。
まぁ聞いてしまったものだから、西崎さんが丁寧に色々説明してくれる。だが残念ながら何ひとつ覚えられない。覚える気もない。それでも彼女は説明をしながら、サイリウムをベキベキ折って発光させると、ブレスレットのように丸め、いくつも両手に付けた。
「準備いいね」
「店長さんの分もあるよ」
頼んでもいないのに、彼女は五色のサイリウムを僕の腕に付けてくれた。
……正直、やめて欲しい。けど、僕がcodeのコンサートに誘ったことを彼女はすごく喜んでくれていて、続いてグッズのキーボルダーを僕に手渡した。
「はい、これ! チケット譲ってくれたお礼です! こんなんじゃ安いけど」
タオルしか買わなかった僕のために、余分にコレを買い足してくれていたらしい。礼を言い、無くすわけにもいかないから、さっそく封を切って携帯に付けた。
加藤君……なんて言うだろうか? また恥ずかしそうに「バカじゃねぇの」って言うんだろうな。僕ですらバカだと思うよ。きっと明日には外されてるだろう。
まぁ、ここに加藤君のサインでも入れば話は別かもしれないけど。わりとシンプルなデザインだし、ぱっと見ただけじゃアイドルのコンサートグッズとは分からない。
キーホルダーを見つめる僕に、西崎さんは僕に何点か注意事項を話した。団扇は胸より上にあげて振っちゃダメだとか、MC中に叫んではいけないとか。そんなこと言われなくてもしない。サイリウムですら恥ずかしいのに、誰がMC中に叫ぶって? 何を叫ぶって言うんだよ。
そもそも手渡された団扇、振らなきゃダメかな? すごく恥ずかしいんだけど。
「あのさ、コレ振……」
「タイミングは言うから! 絶対振ってくださいね!」
屈託のない笑顔。
せっかく彼女が頑張って作った団扇だ。振りたくないとはやっぱり言えない。
「そう言えば~、店長さんって誰が一番好きなんですか?」
誰担とは言わなかった。ちょっと使って欲しかったのに、西崎さんはやっぱり気の遣える優しい子みたいだ。
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