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第六章:七月の微熱

ーside 加藤ー 1

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 コンサートの打ち合わせが長引き、相当遅くなってしまった。メンバーやスタッフが誕生日プレゼントを準備してくれていて、俺は大きな紙袋を抱えながら家路を急いだ。

 今朝、出勤する時日下さんが言ったんだ。誕生日パーティーをしようって。
 それだと言うのに十二日はあと十五分で終わってしまう。電車を降りて改札を抜ける。お馴染みの駐輪場へ駆け出した時、駅前の花壇の縁に腰掛け、団扇を煽っている彼を見つけた。
 慌てている俺を面白そうに見つめ、くっくっと肩を揺らして笑った。

「く、日下さん!」
「おかえり」

 サングラス越しに見える日下さんの優しい笑顔と、おっとりした声。いつからここで待っていてくれたのだろう。

「ただいま」

 自転車を押しながら二人
 リビングのテーブルには大きなケーキが置いてあって、その横にはプレゼントまで置いてあった。「手渡しじゃないんだ」と思わず呟いてしまった俺に、日下さんは笑った。

「手渡しがいいの?」

 俺を追い越し、テーブルにあるプレゼントをむんずと掴むと、ずいっと差し出した。

「はい、おめでと」

 なんてこざっぱりしてるんだろう。知ってはいるけど、本当に何にも執着しない人だ。
 仕事を午後から休んでいたから、何か大層なサプライズでもあるのかと期待したが、まぁ……期待した俺がただのバカだったというわけだ。部屋だっていつもと変わらないし、ケーキだって明らかに手作りではなさそうだし、プレゼントだってそこにぽいっと置かれたままだったんだ。

 間違いなく ”ハッピーバースデー” なんて歌ってくれない。そもそも蝋燭やライターすら見当たらない。まぁ……そんなもんだ。知ってる、知ってたさ。日下さんがそういう男だってことくらい。だからたぶん、ご丁寧にサプライズとかされたら、俺はきっと戸惑っただろう。やっぱり、そうなのかなって。

 だからこれでいいんだ。これが日下さんらしいんだから、これが一番ベストなんだろう。

「ありがと」

 プレゼントを受け取って、俺は笑った。

「食べよ」

 すとんとラグの上に座ると、日下さんはケーキを手元に引き寄せた。

「え? 開けるの先じゃなくて?」
「あとでいいよ、そんなの。僕なんてずっと食べるの我慢してたんだから」

 テーブルの上にきっちり準備されている包丁と布巾を手に取り、早くもケーキをカットしようとするから、俺は大慌てでそれを止めた。

「ちょちょちょ! 待て待て待て!」
「なんだよ」

 少しムッとした様子で俺を見上げる。

 日下さんは無類の甘党だ。それだってもちろん知ってるよ? 一緒に暮らす前から知ってるさ。仕事帰りにココアを飲むような男なんだから。

 だけど、ちょっと待て!!

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