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第五章:キミを意識してしまう

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 十七時前。アルバイトの女の子が一人出勤してきた。今日は彼女を待っていた。

「あ、赤坂さん」
「おはようございます」

 彼女は僕にペコリと頭を下げてタイムカードを切った。

「ねぇ、七月三十日って何してる?」

 彼女は一瞬考え「別に」とそっけない返事を返した。その後に続けて聞いてくる。

「人、足りないんですか?」

 出勤依頼だと勘違いしている。

「いや、違うんだ。あの……その、一緒にコンサート、行かない?」

 彼女は分かりやすく顔を顰めた。ま、そうなっちゃうよね。店長からコンサートに誘われるなんて嫌ですよねぇ。

「あ、いや。用事があるならいいんだ、別に」

 本当は小学三年生になる姪っ子と行こうと思っていたのだが、姉に連絡を取ってみると、生憎その日は家族旅行に行くのだと言われてしまった。
 せっかくの当選チケットは一枚、持ち主を見失っている。

 こんなことになるなら、最初からきっちり一緒に行く人を決めてから応募するんだったと、今更後悔している。 

 だけど、だけどさ……正直三十路のオヤジがアイドルのコンサートに行きたいから付き合ってくれないかなんて……、しかも女性アイドルじゃなくて男性アイドルって……、そんなぶっちゃけた話、誰に言えるって言うんだ。

 でも、かと言って一人で行く勇気もない。
 姪っ子が行きたがってたけど、どうしても行けなくなったという口実で、誰かをお誘いする他、僕には道がないのだ。

「誰のコンサートですか?」

 赤坂さんが僕を疑いながら聞いてくる。僕には完璧な口実が用意されている。だけど……、

「あぁ……いや、ごめん。やっぱりいいや!」

 code、たった二音のこの言葉がどうしても言えなかった。
 恥ずかしすぎる。

 赤坂さんの目が、僕を臆病にさせた。
 赤坂さんは「何よ~」と笑いながら髪をひとつにまとめあげると、僕の腕にするりと腕を絡ませた。

「いいですよ? これってデートのお誘いですよね?」
「ごめん、違うんだ」

 きっぱり言い切ると、赤坂さんは大笑いした。

「そんなだからなかなか彼女出来ないんですよ」

 彼女は女性アルバイトの中でも群を抜いてサバサバしている。滑るように僕から腕を引き抜くと「ミーティング始まりますよ」とさっさと事務所を出て行った。
 予約台帳と電話の子機を持って、僕も彼女の後をついて厨房へ向かう。


 さて……どうしようか。


 本当は吉住さんと行けたらそれが最良なんだろうけど、まさかそんなわけにも行かないし、それにもう彼女は彼女でチケットを確保しているだろう。

 厨房とホールのディナーミーティングを済ませ、十七時半、店内はランチメニューからディナーメニューへと差し替えられた。

 大学生は相変わらず多いけど、OLも負けじと店内を賑わせている。
 この店は本当に女性客が多い。一応ターゲットのつもりだから狙い通りなんだけど、赤坂さんには「だから彼女が出来ない」なんて言われてしまった。女性のハートをがっちり掴んだ店作りをちゃんとプロデュース出来てるはずなんだけど、女性を口説き落とすのとはまた話が違うんだろう。
 ま、赤坂さんを口説き落とすつもりなど微塵もないのだけど……。
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