38 / 160
第五章:キミを意識してしまう
2
しおりを挟む
十七時前。アルバイトの女の子が一人出勤してきた。今日は彼女を待っていた。
「あ、赤坂さん」
「おはようございます」
彼女は僕にペコリと頭を下げてタイムカードを切った。
「ねぇ、七月三十日って何してる?」
彼女は一瞬考え「別に」とそっけない返事を返した。その後に続けて聞いてくる。
「人、足りないんですか?」
出勤依頼だと勘違いしている。
「いや、違うんだ。あの……その、一緒にコンサート、行かない?」
彼女は分かりやすく顔を顰めた。ま、そうなっちゃうよね。店長からコンサートに誘われるなんて嫌ですよねぇ。
「あ、いや。用事があるならいいんだ、別に」
本当は小学三年生になる姪っ子と行こうと思っていたのだが、姉に連絡を取ってみると、生憎その日は家族旅行に行くのだと言われてしまった。
せっかくの当選チケットは一枚、持ち主を見失っている。
こんなことになるなら、最初からきっちり一緒に行く人を決めてから応募するんだったと、今更後悔している。
だけど、だけどさ……正直三十路のオヤジがアイドルのコンサートに行きたいから付き合ってくれないかなんて……、しかも女性アイドルじゃなくて男性アイドルって……、そんなぶっちゃけた話、誰に言えるって言うんだ。
でも、かと言って一人で行く勇気もない。
姪っ子が行きたがってたけど、どうしても行けなくなったという口実で、誰かをお誘いする他、僕には道がないのだ。
「誰のコンサートですか?」
赤坂さんが僕を疑いながら聞いてくる。僕には完璧な口実が用意されている。だけど……、
「あぁ……いや、ごめん。やっぱりいいや!」
code、たった二音のこの言葉がどうしても言えなかった。
恥ずかしすぎる。
赤坂さんの目が、僕を臆病にさせた。
赤坂さんは「何よ~」と笑いながら髪をひとつにまとめあげると、僕の腕にするりと腕を絡ませた。
「いいですよ? これってデートのお誘いですよね?」
「ごめん、違うんだ」
きっぱり言い切ると、赤坂さんは大笑いした。
「そんなだからなかなか彼女出来ないんですよ」
彼女は女性アルバイトの中でも群を抜いてサバサバしている。滑るように僕から腕を引き抜くと「ミーティング始まりますよ」とさっさと事務所を出て行った。
予約台帳と電話の子機を持って、僕も彼女の後をついて厨房へ向かう。
さて……どうしようか。
本当は吉住さんと行けたらそれが最良なんだろうけど、まさかそんなわけにも行かないし、それにもう彼女は彼女でチケットを確保しているだろう。
厨房とホールのディナーミーティングを済ませ、十七時半、店内はランチメニューからディナーメニューへと差し替えられた。
大学生は相変わらず多いけど、OLも負けじと店内を賑わせている。
この店は本当に女性客が多い。一応ターゲットのつもりだから狙い通りなんだけど、赤坂さんには「だから彼女が出来ない」なんて言われてしまった。女性のハートをがっちり掴んだ店作りをちゃんとプロデュース出来てるはずなんだけど、女性を口説き落とすのとはまた話が違うんだろう。
ま、赤坂さんを口説き落とすつもりなど微塵もないのだけど……。
「あ、赤坂さん」
「おはようございます」
彼女は僕にペコリと頭を下げてタイムカードを切った。
「ねぇ、七月三十日って何してる?」
彼女は一瞬考え「別に」とそっけない返事を返した。その後に続けて聞いてくる。
「人、足りないんですか?」
出勤依頼だと勘違いしている。
「いや、違うんだ。あの……その、一緒にコンサート、行かない?」
彼女は分かりやすく顔を顰めた。ま、そうなっちゃうよね。店長からコンサートに誘われるなんて嫌ですよねぇ。
「あ、いや。用事があるならいいんだ、別に」
本当は小学三年生になる姪っ子と行こうと思っていたのだが、姉に連絡を取ってみると、生憎その日は家族旅行に行くのだと言われてしまった。
せっかくの当選チケットは一枚、持ち主を見失っている。
こんなことになるなら、最初からきっちり一緒に行く人を決めてから応募するんだったと、今更後悔している。
だけど、だけどさ……正直三十路のオヤジがアイドルのコンサートに行きたいから付き合ってくれないかなんて……、しかも女性アイドルじゃなくて男性アイドルって……、そんなぶっちゃけた話、誰に言えるって言うんだ。
でも、かと言って一人で行く勇気もない。
姪っ子が行きたがってたけど、どうしても行けなくなったという口実で、誰かをお誘いする他、僕には道がないのだ。
「誰のコンサートですか?」
赤坂さんが僕を疑いながら聞いてくる。僕には完璧な口実が用意されている。だけど……、
「あぁ……いや、ごめん。やっぱりいいや!」
code、たった二音のこの言葉がどうしても言えなかった。
恥ずかしすぎる。
赤坂さんの目が、僕を臆病にさせた。
赤坂さんは「何よ~」と笑いながら髪をひとつにまとめあげると、僕の腕にするりと腕を絡ませた。
「いいですよ? これってデートのお誘いですよね?」
「ごめん、違うんだ」
きっぱり言い切ると、赤坂さんは大笑いした。
「そんなだからなかなか彼女出来ないんですよ」
彼女は女性アルバイトの中でも群を抜いてサバサバしている。滑るように僕から腕を引き抜くと「ミーティング始まりますよ」とさっさと事務所を出て行った。
予約台帳と電話の子機を持って、僕も彼女の後をついて厨房へ向かう。
さて……どうしようか。
本当は吉住さんと行けたらそれが最良なんだろうけど、まさかそんなわけにも行かないし、それにもう彼女は彼女でチケットを確保しているだろう。
厨房とホールのディナーミーティングを済ませ、十七時半、店内はランチメニューからディナーメニューへと差し替えられた。
大学生は相変わらず多いけど、OLも負けじと店内を賑わせている。
この店は本当に女性客が多い。一応ターゲットのつもりだから狙い通りなんだけど、赤坂さんには「だから彼女が出来ない」なんて言われてしまった。女性のハートをがっちり掴んだ店作りをちゃんとプロデュース出来てるはずなんだけど、女性を口説き落とすのとはまた話が違うんだろう。
ま、赤坂さんを口説き落とすつもりなど微塵もないのだけど……。
0
お気に入りに追加
86
あなたにおすすめの小説
イケメン俳優は万年モブ役者の鬼門です
はねビト
BL
演技力には自信があるけれど、地味な役者の羽月眞也は、2年前に共演して以来、大人気イケメン俳優になった東城湊斗に懐かれていた。
自分にはない『華』のある東城に対するコンプレックスを抱えるものの、どうにも東城からのお願いには弱くて……。
ワンコ系年下イケメン俳優×地味顔モブ俳優の芸能人BL。
外伝完結、続編連載中です。
45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる
よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です!
小説家になろうでも10位獲得しました!
そして、カクヨムでもランクイン中です!
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。
いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。
欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・
●●●●●●●●●●●●●●●
小説家になろうで執筆中の作品です。
アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。
現在見直し作業中です。
変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。
この道を歩む~転生先で真剣に生きていたら、第二王子に真剣に愛された~
乃ぞみ
BL
※ムーンライトの方で500ブクマしたお礼で書いた物をこちらでも追加いたします。(全6話)BL要素少なめですが、よければよろしくお願いします。
【腹黒い他国の第二王子×負けず嫌いの転生者】
エドマンドは13歳の誕生日に日本人だったことを静かに思い出した。
転生先は【エドマンド・フィッツパトリック】で、二年後に死亡フラグが立っていた。
エドマンドに不満を持った隣国の第二王子である【ブライトル・ モルダー・ヴァルマ】と険悪な関係になるものの、いつの間にか友人や悪友のような関係に落ち着く二人。
死亡フラグを折ることで国が負けるのが怖いエドマンドと、必死に生かそうとするブライトル。
「僕は、生きなきゃ、いけないのか……?」
「当たり前だ。俺を残して逝く気だったのか? 恨むぞ」
全体的に結構シリアスですが、明確な死亡表現や主要キャラの退場は予定しておりません。
闘ったり、負傷したり、国同士の戦争描写があったります。
本編ド健全です。すみません。
※ 恋愛までが長いです。バトル小説にBLを添えて。
※ 攻めがまともに出てくるのは五話からです。
※ タイトル変更しております。旧【転生先がバトル漫画の死亡フラグが立っているライバルキャラだった件 ~本筋大幅改変なしでフラグを折りたいけど、何であんたがそこにいる~】
※ ムーンライトノベルズにも投稿しております。
早く惚れてよ、怖がりナツ
ぱんなこった。
BL
幼少期のトラウマのせいで男性が怖くて苦手な男子高校生1年の那月(なつ)16歳。女友達はいるものの、男子と上手く話す事すらできず、ずっと周りに煙たがられていた。
このままではダメだと、高校でこそ克服しようと思いつつも何度も玉砕してしまう。
そしてある日、そんな那月をからかってきた同級生達に襲われそうになった時、偶然3年生の彩世(いろせ)がやってくる。
一見、真面目で大人しそうな彩世は、那月を助けてくれて…
那月は初めて、男子…それも先輩とまともに言葉を交わす。
ツンデレ溺愛先輩×男が怖い年下後輩
《表紙はフリーイラスト@oekakimikasuke様のものをお借りしました》
僕の王子様
くるむ
BL
鹿倉歩(かぐらあゆむ)は、クリスマスイブに出合った礼人のことが忘れられずに彼と同じ高校を受けることを決意。
無事に受かり礼人と同じ高校に通うことが出来たのだが、校内での礼人の人気があまりにもすさまじいことを知り、自分から近づけずにいた。
そんな中、やたらイケメンばかりがそろっている『読書同好会』の存在を知り、そこに礼人が在籍していることを聞きつけて……。
見た目が派手で性格も明るく、反面人の心の機微にも敏感で一目置かれる存在でもあるくせに、実は騒がれることが嫌いで他人が傍にいるだけで眠ることも出来ない神経質な礼人と、大人しくて素直なワンコのお話。
元々は、神経質なイケメンがただ一人のワンコに甘える話が書きたくて考えたお話です。
※『近くにいるのに君が遠い』のスピンオフになっています。未読の方は読んでいただけたらより礼人のことが分かるかと思います。
【完結】極貧イケメン学生は体を売らない。【番外編あります】
紫紺(紗子)
BL
貧乏学生をスパダリが救済!?代償は『恋人のフリ』だった。
相模原涼(さがみはらりょう)は法学部の大学2年生。
超がつく貧乏学生なのに、突然居酒屋のバイトをクビになってしまった。
失意に沈む涼の前に現れたのは、ブランドスーツに身を包んだイケメン、大手法律事務所の副所長 城南晄矢(じょうなんみつや)。
彼は涼にバイトしないかと誘うのだが……。
※番外編を公開しました(10/21)
生活に追われて恋とは無縁の極貧イケメンの涼と、何もかもに恵まれた晄矢のラブコメBL。二人の気持ちはどっちに向いていくのか。
※本作品中の公判、判例、事件等は全て架空のものです。完全なフィクションであり、参考にした事件等もございません。拙い表現や現実との乖離はどうぞご容赦ください。
※4月18日、完結しました。ありがとうございました。
春風の香
梅川 ノン
BL
名門西園寺家の庶子として生まれた蒼は、病弱なオメガ。
母を早くに亡くし、父に顧みられない蒼は孤独だった。
そんな蒼に手を差し伸べたのが、北畠総合病院の医師北畠雪哉だった。
雪哉もオメガであり自力で医師になり、今は院長子息の夫になっていた。
自身の昔の姿を重ねて蒼を可愛がる雪哉は、自宅にも蒼を誘う。
雪哉の息子彰久は、蒼に一心に懐いた。蒼もそんな彰久を心から可愛がった。
3歳と15歳で出会う、受が12歳年上の歳の差オメガバースです。
オメガバースですが、独自の設定があります。ご了承ください。
番外編は二人の結婚直後と、4年後の甘い生活の二話です。それぞれ短いお話ですがお楽しみいただけると嬉しいです!
【完結】遍く、歪んだ花たちに。
古都まとい
BL
職場の部下 和泉周(いずみしゅう)は、はっきり言って根暗でオタクっぽい。目にかかる長い前髪に、覇気のない視線を隠す黒縁眼鏡。仕事ぶりは可もなく不可もなく。そう、凡人の中の凡人である。
和泉の直属の上司である村谷(むらや)はある日、ひょんなことから繁華街のホストクラブへと連れて行かれてしまう。そこで出会ったNo.1ホスト天音(あまね)には、どこか和泉の面影があって――。
「先輩、僕のこと何も知っちゃいないくせに」
No.1ホスト部下×堅物上司の現代BL。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる