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第五章:キミを意識してしまう

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「……まじかよ」

 それで30日も休むっていうのか?

 驚いた。いつの間に応募していたんだろう。来たいなら俺に直接言えば良いのに、わざわざ自分でチケット取って……バカじゃないか?

 疲れて眠ってしまっている彼の横顔が、急に愛おしく思えた。
 淡い茶色の髪をさらりと撫でて、前髪を払いのける。一瞬眉を顰めたけど、また整った寝息を立て始めた。

 日下さんは、俺と一緒に居ることをとても望んでいる。俺がアイドルだからか? 俺が芸能人だからか? ……って最初はちょっと疑った。だけどどうやら違う。
 俺の事をまるでアイドルだなんて思っていないみたいな態度をとるし、共演者の話をしてもあまり食いつきが良くない。よくよく考えれば、彼は芸能人に疎いんだった。話したって分かるはずがない。
 だから俺が芸能人であろうがなかろうが、日下さんにはあまり意味のないことなんだ。きっと俺が普通の社会人だったとしても、日下さんは今と変わらず俺に接してくれるんだろう。

 何でかなって、最近よく考えさせられる。

 こうやって俺の誕生日に仕事を休もうとしてくれたり、コンサート初日だからってチケットを取ったり。
 重いってほどでもないけど、なんかちょっと、どう応えていいか分からない。

 ……日下さんは、一体俺の事をどう思っているのだろう。

 考えた末に行きつく答えはいつもひとつしかなくて、それを考えると瞬間、思考回路は途切れてしまう。例外なく……今だって。

 俺は日下さんを揺すり起こし、寝ぼけている彼をおんぶして寝室に入った。
 どさっとベッドに下ろすと、彼は「…んがと」とたぶん礼を言って、のそのそ枕まで移動した。そして布団も被らず眠り出す。
 俺はリビングに戻ってテーブルの上に置き放した彼の携帯を持つと、部屋の電気を消して寝室に戻った。

 ベッドのコンセントに携帯を繋いだ後、紅い電球に照らされた彼の寝顔を見つめた。

 女子大生がキャアキャア言うのは何となく分かる。年のわりにはベビーフェイスだし、肌も綺麗だ。その癖、妙に大人の色気があって、タレ目がそれに拍車を掛ける。そして絶やさない笑顔には俺だっていつも癒されている。

 どれだけ疲れて帰って来ても「おかえり~」と彼が笑うだけで、愚痴や弱音よりも先に「今日も一日頑張りました」と自分を褒めてやりたくなる温もりがあるんだ。

 ギシっとベッドに腰掛けたけど、彼はぐっすり眠りに落ちている。

「日下さん」

 呼びかけたけど、彼は起きない。

「ねぇ……、寝てるの?」

 さっきよりもはっきりとした声で呼びかけたけど、やっぱり寝ている。
 一定のリズムで胸が上下する。
 狸寝入りしているんじゃないかと疑りながら、俺は仰向けに寝ている彼の頭の横にぐっと手をついた。
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