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第四章:キミの名前は「加藤亮介」
ーside 日下ー 1
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加藤君は毎日忙しそうだった。
どんな事情かは知らないけど、「外泊禁止令が出てるから」なんて意味の分からないことを言って、基本寝泊まりをしなくなった。
アパートにすらあまり来ることがなくて、公園まで出てきてよ、なんて面倒な注文をされたりした。なんならバイクで実家まで送り届ける日もあった。
だけど確実に変わったのは、加藤君がマメに連絡をくれるようになったことだ。
お互い仕事が忙しいけど、加藤君は一緒に飯を食べようと僕を誘ってくれる。稀に僕の部屋にやって来て、金魚の水槽を洗う。
写真を撮って、飽きずにじっと金魚を眺めていたりする。
あの日、僕は吉住さんとの関係を終わらせる決意をした。
加藤君のことを好きな彼女をどうしても受け入れられなくて、僕としても泣く泣く諦めた。
彼女は泣いた。
何でだって言われて、正直に答えることも出来なくて。
加藤君に頼んで特別に書いてもらったサイン色紙と、彼の好意で貰った使用済みのピアスを吉住さんへプレゼントした。
バカにしないでと突き返されそうになったけど、僕は頼むから貰ってくれと頭を下げた。
彼女は、一体どれだけの金を積んでこの色紙とピアスを買ったんだと、泣きながら……悔しそうにそれを受け取った。
加藤君の話だと、サインというのは基本的に事務所からNGが出ているらしいのだ。サイン会以外でサインをすることはないから、このサイン色紙は絶対に手に入らない逸品。
吉住さんだってそれを分かっている。だからこそ、あんなことを言ったんだ。実際は一円も発生していないのだが……。
まぁ、とにかくこれで僕の婚期は更に先延ばしとなったわけで。両親への罪悪感は多少なり増した。
だけど後悔はしていない。自分の人生だから、自由に生きたい。シェフとあのレストランを立ち上げたのだってそういう理由。一緒にホテルを辞めて、一緒にレストランを始めた。あの時は大変なことばっかりだったけど、今は本当にそうして良かったと思っている。
そうやって自分の選んだ道を着実に ”成功” にさせて行きたいから、吉住さんじゃなくて加藤君を選んだことだって、絶対後悔しないつもりだ。
「ちょ、日下さん! やめてくださいよ!」
料理を作ってくれる加藤君の代わりに、僕はいつも洗い物を担当している。
鼻歌を歌いながら洗い物をしていると、急に加藤君が僕を止めた。
「え、何?」
「歌! 俺の歌、歌うのやめてくださいよ」
加藤君がアイドルだって分かってから、codeを片っ端から勉強した。僕のパソコンにはしっかり全曲揃っている。というか、加藤君に全部入れさせた。ブチブチ文句を言われたが、まぁ気にしない。携帯にも何曲か移し、通勤中にも勉強している。
「いいじゃん。いい曲だね」
「はずかしぃ。まじ無理」
加藤君は金魚の観察をやめると、ソファに腰を下ろし、テレビをつけた。僕の鼻歌を聞きたくないみたいだ。案外照れ屋。
自分はこの部屋で歌の練習をしたり、ダンスの振りをDVDを見ながら勉強したりするくせに……。
ちょっと前まではヤクザかと思っていたけど、今じゃすっかりアイドルにしか見えない。
加藤君がアイドルだって分かってから、テレビも良く見るようになった。現金なくらい今では加藤君のファンだ。
どんな事情かは知らないけど、「外泊禁止令が出てるから」なんて意味の分からないことを言って、基本寝泊まりをしなくなった。
アパートにすらあまり来ることがなくて、公園まで出てきてよ、なんて面倒な注文をされたりした。なんならバイクで実家まで送り届ける日もあった。
だけど確実に変わったのは、加藤君がマメに連絡をくれるようになったことだ。
お互い仕事が忙しいけど、加藤君は一緒に飯を食べようと僕を誘ってくれる。稀に僕の部屋にやって来て、金魚の水槽を洗う。
写真を撮って、飽きずにじっと金魚を眺めていたりする。
あの日、僕は吉住さんとの関係を終わらせる決意をした。
加藤君のことを好きな彼女をどうしても受け入れられなくて、僕としても泣く泣く諦めた。
彼女は泣いた。
何でだって言われて、正直に答えることも出来なくて。
加藤君に頼んで特別に書いてもらったサイン色紙と、彼の好意で貰った使用済みのピアスを吉住さんへプレゼントした。
バカにしないでと突き返されそうになったけど、僕は頼むから貰ってくれと頭を下げた。
彼女は、一体どれだけの金を積んでこの色紙とピアスを買ったんだと、泣きながら……悔しそうにそれを受け取った。
加藤君の話だと、サインというのは基本的に事務所からNGが出ているらしいのだ。サイン会以外でサインをすることはないから、このサイン色紙は絶対に手に入らない逸品。
吉住さんだってそれを分かっている。だからこそ、あんなことを言ったんだ。実際は一円も発生していないのだが……。
まぁ、とにかくこれで僕の婚期は更に先延ばしとなったわけで。両親への罪悪感は多少なり増した。
だけど後悔はしていない。自分の人生だから、自由に生きたい。シェフとあのレストランを立ち上げたのだってそういう理由。一緒にホテルを辞めて、一緒にレストランを始めた。あの時は大変なことばっかりだったけど、今は本当にそうして良かったと思っている。
そうやって自分の選んだ道を着実に ”成功” にさせて行きたいから、吉住さんじゃなくて加藤君を選んだことだって、絶対後悔しないつもりだ。
「ちょ、日下さん! やめてくださいよ!」
料理を作ってくれる加藤君の代わりに、僕はいつも洗い物を担当している。
鼻歌を歌いながら洗い物をしていると、急に加藤君が僕を止めた。
「え、何?」
「歌! 俺の歌、歌うのやめてくださいよ」
加藤君がアイドルだって分かってから、codeを片っ端から勉強した。僕のパソコンにはしっかり全曲揃っている。というか、加藤君に全部入れさせた。ブチブチ文句を言われたが、まぁ気にしない。携帯にも何曲か移し、通勤中にも勉強している。
「いいじゃん。いい曲だね」
「はずかしぃ。まじ無理」
加藤君は金魚の観察をやめると、ソファに腰を下ろし、テレビをつけた。僕の鼻歌を聞きたくないみたいだ。案外照れ屋。
自分はこの部屋で歌の練習をしたり、ダンスの振りをDVDを見ながら勉強したりするくせに……。
ちょっと前まではヤクザかと思っていたけど、今じゃすっかりアイドルにしか見えない。
加藤君がアイドルだって分かってから、テレビも良く見るようになった。現金なくらい今では加藤君のファンだ。
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