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第四章:キミの名前は「加藤亮介」
ーside 加藤ー 1
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CDが発売されてプロモーションのためにあちこちの番組や雑誌に出まくった。歌番組、情報番組、バラエティ、ラジオ、雑誌の表紙も四誌くらい飾った。けど今月末にはアルバムの発売も控えている。怒涛のワークスケジュールに目眩さえ覚えそうだ。
あの生放送事件からほぼ一ヶ月。尾けられている感じはない……が、ファンの間では実しやかに女と同棲しているのだという噂が囁かれるようになっていた。正直なところ、やっぱり誤解を解きたい。会社にもファンにもちゃんと信用して欲しい。だけどその術がない。今は真面目に仕事をこなし、マネージャーの言い付けを守ることしか出来ない。
それはそうと分かっているのだが、さすがに今日は疲れて、夜も遅くて、迷いに迷って……、俺は日下さんの部屋まで来てしまった。
日下さんだけは、無条件で俺を信用してくれる。おかえりって、笑って欲しかった。
エレベーターホールに自転車を置き、ずっと持ち歩いていた合鍵で施錠を外した。だが、一歩玄関に足を踏み入れた瞬間、はたと立ち止まる。女性の靴があったからだ。
「ぱ……パンプス? しかも赤い!」
そろりと玄関から奥を覗き見たけど、リビングダイニングには気配がない。
「う、嘘でしょ? 営み中?」
事態は安易に予想できた。あの日下さんが女を連れ込んでる。しかも寝室にいるんだ! ぱっと腕時計を見ると〇時を回る寸前。さすがに今夜は厄介になれないな。
そろ~っと玄関を出ようと後ろ手でドアノブを掴んだ時、すぐそこのトイレのドアが開いた。
若くて清楚な女性。
「うわぁぁぁ!!」
「きゃ、きゃぁぁぁぁ!!」
俺が叫んでしまったから、彼女も思わず叫んでしまったのだろう。俺は慌てて彼女に背を向ける。
ヤバイ、顔見られたかもしれない!! 何よりも先に自分の顔を触ると、サングラスをちゃんとかけていた。
つけてる! まだ大丈夫だ! 逃げろっっ!!
ドアノブを回して部屋を出て行こうとしたのに、羽織っていたシャツのポケットが傘立てに引っかかってまごついてしまい、彼女が「ど、ドロボー!」と叫んで部屋の奥へ逃げ込んで行くから、俺はあえなく日下さんに御用となった。
しかし日下さんは俺を捕まえるや否や、驚いたような顔をして「早く逃げて!」と、俺を玄関から押し出した。
バタン!と一緒に外に出て玄関を閉めた日下さんは真剣な瞳を見せ、「コンビニで待ってて」と強引に俺をエレベーターへと押し込んだ。
「すぐ電話するから」
俺は何がなんだかよく分からないままアパートを出ると、言われた通りコンビニで彼からの連絡を待った。
およそ十分が経った頃、LINEが入る。
『もう部屋入っていいよ』と言う句読点すらない簡潔な文面。よくよく考えれば、彼から初めてもらったLINEだった。
本当に大丈夫なのかと思いながらも、日下さんと少し話もしたいし、あの笑顔に癒されたいなんて勝手な理由で、俺はまんまと部屋まで戻ってきた。
しかし部屋は真っ暗で、日下さんの姿も女性の姿も見当たらなかった。
「やっべ。わざわざ部屋空けてくれたの?」
申し訳ないことをした。
『ごめん。もう帰ってこないの?』
日下さんに思わずそう送ったが、返事はなかなか返ってこなかった。
仕方が無いから風呂に入り、小腹が減ったから勝手にカップ麺も頂戴した。それでもまだ返信はなく、俺はそっと寝室の扉を開けた。
日下さんのベッド脇にあるはずの俺の布団が……ない。
「……だよな」
あの生放送事件からほぼ一ヶ月。尾けられている感じはない……が、ファンの間では実しやかに女と同棲しているのだという噂が囁かれるようになっていた。正直なところ、やっぱり誤解を解きたい。会社にもファンにもちゃんと信用して欲しい。だけどその術がない。今は真面目に仕事をこなし、マネージャーの言い付けを守ることしか出来ない。
それはそうと分かっているのだが、さすがに今日は疲れて、夜も遅くて、迷いに迷って……、俺は日下さんの部屋まで来てしまった。
日下さんだけは、無条件で俺を信用してくれる。おかえりって、笑って欲しかった。
エレベーターホールに自転車を置き、ずっと持ち歩いていた合鍵で施錠を外した。だが、一歩玄関に足を踏み入れた瞬間、はたと立ち止まる。女性の靴があったからだ。
「ぱ……パンプス? しかも赤い!」
そろりと玄関から奥を覗き見たけど、リビングダイニングには気配がない。
「う、嘘でしょ? 営み中?」
事態は安易に予想できた。あの日下さんが女を連れ込んでる。しかも寝室にいるんだ! ぱっと腕時計を見ると〇時を回る寸前。さすがに今夜は厄介になれないな。
そろ~っと玄関を出ようと後ろ手でドアノブを掴んだ時、すぐそこのトイレのドアが開いた。
若くて清楚な女性。
「うわぁぁぁ!!」
「きゃ、きゃぁぁぁぁ!!」
俺が叫んでしまったから、彼女も思わず叫んでしまったのだろう。俺は慌てて彼女に背を向ける。
ヤバイ、顔見られたかもしれない!! 何よりも先に自分の顔を触ると、サングラスをちゃんとかけていた。
つけてる! まだ大丈夫だ! 逃げろっっ!!
ドアノブを回して部屋を出て行こうとしたのに、羽織っていたシャツのポケットが傘立てに引っかかってまごついてしまい、彼女が「ど、ドロボー!」と叫んで部屋の奥へ逃げ込んで行くから、俺はあえなく日下さんに御用となった。
しかし日下さんは俺を捕まえるや否や、驚いたような顔をして「早く逃げて!」と、俺を玄関から押し出した。
バタン!と一緒に外に出て玄関を閉めた日下さんは真剣な瞳を見せ、「コンビニで待ってて」と強引に俺をエレベーターへと押し込んだ。
「すぐ電話するから」
俺は何がなんだかよく分からないままアパートを出ると、言われた通りコンビニで彼からの連絡を待った。
およそ十分が経った頃、LINEが入る。
『もう部屋入っていいよ』と言う句読点すらない簡潔な文面。よくよく考えれば、彼から初めてもらったLINEだった。
本当に大丈夫なのかと思いながらも、日下さんと少し話もしたいし、あの笑顔に癒されたいなんて勝手な理由で、俺はまんまと部屋まで戻ってきた。
しかし部屋は真っ暗で、日下さんの姿も女性の姿も見当たらなかった。
「やっべ。わざわざ部屋空けてくれたの?」
申し訳ないことをした。
『ごめん。もう帰ってこないの?』
日下さんに思わずそう送ったが、返事はなかなか返ってこなかった。
仕方が無いから風呂に入り、小腹が減ったから勝手にカップ麺も頂戴した。それでもまだ返信はなく、俺はそっと寝室の扉を開けた。
日下さんのベッド脇にあるはずの俺の布団が……ない。
「……だよな」
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