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第三章:外泊禁止令と浜辺のデート
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大学の校門前で、吉住さんを待った。
だけど彼女が来る前に、「あれ~、店長じゃん!」なんて、ギャルっぽい女生徒達に声を掛けられる。
私服姿の僕がそんなに珍しいのか、店の常連客である女子大生達が、ワラワラと僕を囲った。
「やばー! 店長バイク乗るの? 超イメージと違うんだけど!」
「てか、誰待ってんの?」
「つぅか、髪型違くない?」
五~六人に囲まれ、傍目に見たら完全に喝上げ現場だ。
「あぁ、ちょっと切りました。変ですか?」
バイクに軽く座った状態で、僕は短くなった前髪に触れる。
手紙を貰って一週間。チャラくに見えるらしい髪を午前中に切りに行った。折角の初デートだから、清潔感は大事にしたい。
「えー、全然問題ない!」
「それより何してんの、仕事もしないで」
「てか、半袖とか気ぃ早過ぎじゃね?」
まくし立てるように、次々と質問される。もはや誰と会話を成立させればいいのか分からない。
「見た目より筋肉あるじゃん!」
「肉体美見せびらかしたいタイプ?」
「キモいー!」
……き、キモい!? キモイ? 僕の精一杯の清潔感、キモイですか?
「いや、あの。一応上着はあるんだけど……」
バイクのハンドルに引っ掛けたカーディガンを見せる。
ここで半時間ほど待ち惚けしている僕には、五月の陽射しが初夏並の暑さだった。
「汗染み対策で脱いだんだ」
「あはは! ウケるー!」
そういう訳では……。
いい加減面倒臭くなり出してはいたが、大切な常連客を粗末に扱うわけにもいかない。早く吉住さん来ないかなぁと、不意にギャル達から視線を外すと、そこにはジーンズ姿の吉住さんが気まずそうに立っていた。
「あ」
声を出した僕にギャル達も吉住さんを見た。
「なに、店長あの子と付き合ってんの?」
「超清純派!」
「あはは、またね~!」
ギャル達は笑いながらさっさと僕から離れていく。
「ねぇ、今度のcodeのシングルヤバすぎじゃん!?」
「こがちゃんの、ソロパートが神がかってる!」
そんな話をしながら、ギャル達の声がどんどん遠くなる。
吉住さんは、あの可愛い上目遣いで僕を見つめた。
「授業お疲れ様。走ってきたの?」
僕はバイクから離れ、吉住さんの為に新調したヘルメットを渡した。
彼女のミディアムボブが少しばかり乱れている。さっと直してあげると顔を真っ赤にして俯いた。
可愛いなぁ。
「バイクに乗れる格好で来てくれたんだね。ありがと」
きっともっとお洒落したかっただろうに、吉住さんはジーンズ姿だ。
バイクに乗るのが趣味だと言った僕に、彼女は後ろに乗りたいってはしゃいだ。だったらズボンを穿いてこいって言った僕の言いつけを、彼女はちゃんと守っている。
この一週間。僕は吉住さんとたくさんLINEをした。今まで僕と加藤君が端折ってきたプライベートでプライバシーなことを教えあった。本来はそうあるべきなんだ、人付き合いってのは。名前、年齢、誕生日、血液型……。吉住さんはたくさん聞いてくれた。僕に興味を示してくれた。
加藤君がおかしすぎるんだ、やっぱり。どう考えたって怪しすぎる。
こうなると”加藤”なんて名前も微妙じゃないか? ……いや、友達にカトゥンって呼ばれてたから、それはさすがに本名か。
だけど彼女が来る前に、「あれ~、店長じゃん!」なんて、ギャルっぽい女生徒達に声を掛けられる。
私服姿の僕がそんなに珍しいのか、店の常連客である女子大生達が、ワラワラと僕を囲った。
「やばー! 店長バイク乗るの? 超イメージと違うんだけど!」
「てか、誰待ってんの?」
「つぅか、髪型違くない?」
五~六人に囲まれ、傍目に見たら完全に喝上げ現場だ。
「あぁ、ちょっと切りました。変ですか?」
バイクに軽く座った状態で、僕は短くなった前髪に触れる。
手紙を貰って一週間。チャラくに見えるらしい髪を午前中に切りに行った。折角の初デートだから、清潔感は大事にしたい。
「えー、全然問題ない!」
「それより何してんの、仕事もしないで」
「てか、半袖とか気ぃ早過ぎじゃね?」
まくし立てるように、次々と質問される。もはや誰と会話を成立させればいいのか分からない。
「見た目より筋肉あるじゃん!」
「肉体美見せびらかしたいタイプ?」
「キモいー!」
……き、キモい!? キモイ? 僕の精一杯の清潔感、キモイですか?
「いや、あの。一応上着はあるんだけど……」
バイクのハンドルに引っ掛けたカーディガンを見せる。
ここで半時間ほど待ち惚けしている僕には、五月の陽射しが初夏並の暑さだった。
「汗染み対策で脱いだんだ」
「あはは! ウケるー!」
そういう訳では……。
いい加減面倒臭くなり出してはいたが、大切な常連客を粗末に扱うわけにもいかない。早く吉住さん来ないかなぁと、不意にギャル達から視線を外すと、そこにはジーンズ姿の吉住さんが気まずそうに立っていた。
「あ」
声を出した僕にギャル達も吉住さんを見た。
「なに、店長あの子と付き合ってんの?」
「超清純派!」
「あはは、またね~!」
ギャル達は笑いながらさっさと僕から離れていく。
「ねぇ、今度のcodeのシングルヤバすぎじゃん!?」
「こがちゃんの、ソロパートが神がかってる!」
そんな話をしながら、ギャル達の声がどんどん遠くなる。
吉住さんは、あの可愛い上目遣いで僕を見つめた。
「授業お疲れ様。走ってきたの?」
僕はバイクから離れ、吉住さんの為に新調したヘルメットを渡した。
彼女のミディアムボブが少しばかり乱れている。さっと直してあげると顔を真っ赤にして俯いた。
可愛いなぁ。
「バイクに乗れる格好で来てくれたんだね。ありがと」
きっともっとお洒落したかっただろうに、吉住さんはジーンズ姿だ。
バイクに乗るのが趣味だと言った僕に、彼女は後ろに乗りたいってはしゃいだ。だったらズボンを穿いてこいって言った僕の言いつけを、彼女はちゃんと守っている。
この一週間。僕は吉住さんとたくさんLINEをした。今まで僕と加藤君が端折ってきたプライベートでプライバシーなことを教えあった。本来はそうあるべきなんだ、人付き合いってのは。名前、年齢、誕生日、血液型……。吉住さんはたくさん聞いてくれた。僕に興味を示してくれた。
加藤君がおかしすぎるんだ、やっぱり。どう考えたって怪しすぎる。
こうなると”加藤”なんて名前も微妙じゃないか? ……いや、友達にカトゥンって呼ばれてたから、それはさすがに本名か。
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