ココア ~僕の同居人はまさかのアイドルだった~

2wei

文字の大きさ
上 下
25 / 160
第三章:外泊禁止令と浜辺のデート

しおりを挟む
 大学の校門前で、吉住さんを待った。
 だけど彼女が来る前に、「あれ~、店長じゃん!」なんて、ギャルっぽい女生徒達に声を掛けられる。
 私服姿の僕がそんなに珍しいのか、店の常連客である女子大生達が、ワラワラと僕を囲った。

「やばー! 店長バイク乗るの? 超イメージと違うんだけど!」
「てか、誰待ってんの?」
「つぅか、髪型違くない?」

 五~六人に囲まれ、傍目に見たら完全に喝上げ現場だ。

「あぁ、ちょっと切りました。変ですか?」

 バイクに軽く座った状態で、僕は短くなった前髪に触れる。

 手紙を貰って一週間。チャラくに見えるらしい髪を午前中に切りに行った。折角の初デートだから、清潔感は大事にしたい。

「えー、全然問題ない!」
「それより何してんの、仕事もしないで」
「てか、半袖とか気ぃ早過ぎじゃね?」

 まくし立てるように、次々と質問される。もはや誰と会話を成立させればいいのか分からない。

「見た目より筋肉あるじゃん!」
「肉体美見せびらかしたいタイプ?」
「キモいー!」

 ……き、キモい!? キモイ? 僕の精一杯の清潔感、キモイですか?

「いや、あの。一応上着はあるんだけど……」

 バイクのハンドルに引っ掛けたカーディガンを見せる。
 ここで半時間ほど待ち惚けしている僕には、五月の陽射しが初夏並の暑さだった。

「汗染み対策で脱いだんだ」
「あはは! ウケるー!」

 そういう訳では……。
 いい加減面倒臭くなり出してはいたが、大切な常連客を粗末に扱うわけにもいかない。早く吉住さん来ないかなぁと、不意にギャル達から視線を外すと、そこにはジーンズ姿の吉住さんが気まずそうに立っていた。

「あ」

 声を出した僕にギャル達も吉住さんを見た。

「なに、店長あの子と付き合ってんの?」
「超清純派!」
「あはは、またね~!」

 ギャル達は笑いながらさっさと僕から離れていく。

「ねぇ、今度のcodeのシングルヤバすぎじゃん!?」
「こがちゃんの、ソロパートが神がかってる!」

 そんな話をしながら、ギャル達の声がどんどん遠くなる。
 吉住さんは、あの可愛い上目遣いで僕を見つめた。

「授業お疲れ様。走ってきたの?」

 僕はバイクから離れ、吉住さんの為に新調したヘルメットを渡した。
 彼女のミディアムボブが少しばかり乱れている。さっと直してあげると顔を真っ赤にして俯いた。

 可愛いなぁ。

「バイクに乗れる格好で来てくれたんだね。ありがと」

 きっともっとお洒落したかっただろうに、吉住さんはジーンズ姿だ。
 バイクに乗るのが趣味だと言った僕に、彼女は後ろに乗りたいってはしゃいだ。だったらズボンを穿いてこいって言った僕の言いつけを、彼女はちゃんと守っている。

 この一週間。僕は吉住さんとたくさんLINEをした。今まで僕と加藤君が端折ってきたプライベートでプライバシーなことを教えあった。本来はそうあるべきなんだ、人付き合いってのは。名前、年齢、誕生日、血液型……。吉住さんはたくさん聞いてくれた。僕に興味を示してくれた。

 加藤君がおかしすぎるんだ、やっぱり。どう考えたって怪しすぎる。

 こうなると”加藤”なんて名前も微妙じゃないか? ……いや、友達にカトゥンって呼ばれてたから、それはさすがに本名か。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

僕のために、忘れていて

ことわ子
BL
男子高校生のリュージは事故に遭い、最近の記憶を無くしてしまった。しかし、無くしたのは最近の記憶で家族や友人のことは覚えており、別段困ることは無いと思っていた。ある一点、全く記憶にない人物、黒咲アキが自分の恋人だと訪ねてくるまでは────

夏椿から秋桜へ

時貴みさご
BL
幼馴染の「晴秋」と「夏生」。晴秋は3年前、両親を一度に事故で亡くし、独りになった今もその家にとどまり続ける。 晴秋は毎年誕生月にあたる9月に咲く「コスモス」を家族で春に植えていた。まるで、それが「二つ目の誕生日」のように。その思いを胸に、独りになった今も毎年春にコスモスを植え、枯れていく秋を迎える。 夏生は晴秋の脆さや失意からくる「コスモスの呪縛」から救い出そうと寄り添い続け、ある決意をする……。 痛み、悲しさ、失意…そしてそれを乗り越える成長と癒やし……純愛系BLストーリー。

「誕生日前日に世界が始まる」

悠里
BL
真也×凌 大学生(中学からの親友です) 凌の誕生日前日23時過ぎからのお話です(^^ ほっこり読んでいただけたら♡ 幸せな誕生日を想像して頂けたらいいなと思います♡ →書きたくなって番外編に少し続けました。

忘れ物

うりぼう
BL
記憶喪失もの 事故で記憶を失った真樹。 恋人である律は一番傍にいながらも自分が恋人だと言い出せない。 そんな中、真樹が昔から好きだった女性と付き合い始め…… というお話です。

代わりでいいから

氷魚彰人
BL
親に裏切られ、一人で生きていこうと決めた青年『護』の隣に引っ越してきたのは強面のおっさん『岩間』だった。 不定期に岩間に晩御飯を誘われるようになり、何時からかそれが護の楽しみとなっていくが……。 ハピエンですがちょっと暗い内容ですので、苦手な方、コメディ系の明るいお話しをお求めの方はお気を付け下さいませ。 他サイトに投稿した「隣のお節介」をタイトルを変え、手直ししたものになります。

キミと2回目の恋をしよう

なの
BL
ある日、誤解から恋人とすれ違ってしまった。 彼は俺がいない間に荷物をまとめて出てってしまっていたが、俺はそれに気づかずにいつも通り家に帰ると彼はもうすでにいなかった。どこに行ったのか連絡をしたが連絡が取れなかった。 彼のお母さんから彼が病院に運ばれたと連絡があった。 「どこかに旅行だったの?」 傷だらけのスーツケースが彼の寝ている病室の隅に置いてあって俺はお母さんにその場しのぎの嘘をついた。 彼との誤解を解こうと思っていたのに目が覚めたら彼は今までの全ての記憶を失っていた。これは神さまがくれたチャンスだと思った。 彼の荷物を元通りにして共同生活を再開させたが… 彼の記憶は戻るのか?2人の共同生活の行方は?

林檎を並べても、

ロウバイ
BL
―――彼は思い出さない。 二人で過ごした日々を忘れてしまった攻めと、そんな彼の行く先を見守る受けです。 ソウが目を覚ますと、そこは消毒の香りが充満した病室だった。自分の記憶を辿ろうとして、はたり。その手がかりとなる記憶がまったくないことに気付く。そんな時、林檎を片手にカーテンを引いてとある人物が入ってきた。 彼―――トキと名乗るその黒髪の男は、ソウが事故で記憶喪失になったことと、自身がソウの親友であると告げるが…。

イケメンモデルと新人マネージャーが結ばれるまでの話

タタミ
BL
新坂真澄…27歳。トップモデル。端正な顔立ちと抜群のスタイルでブレイク中。瀬戸のことが好きだが、隠している。 瀬戸幸人…24歳。マネージャー。最近新坂の担当になった社会人2年目。新坂に仲良くしてもらって懐いているが、好意には気付いていない。 笹川尚也…27歳。チーフマネージャー。新坂とは学生時代からの友人関係。新坂のことは大抵なんでも分かる。

処理中です...