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第三章:外泊禁止令と浜辺のデート

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「ら、ラブレター?」
「やる~、店長! 十歳くらい年離れてますけどね!」

 主婦さんが肘で僕をつつきじゃれついてくるから、顔から火が出るかと思った。

「いや、人生で初めて……貰いました」
「またまたぁ。その容姿でそんなつまんないジョークやめてください」

 ケラケラ笑われ、主婦さんはさっさと仕事に戻ってしまった。

 いや、嘘じゃないんだけど……てか、僕の容姿ってどんな印象なんだよ。そんなに女遊びしてそうなの? これでもかなり真面目なお付き合いしかして来なかったつもりなんだけど。

 手紙を持ったまま、僕は主婦さんの背中を呆然と見送った。
 でも、チャラそうに見えるんだろうか。よく女子大生に「彼女いるのー?」とか、「結婚してるのー?」とか聞かれる。それってつまりそういうこと?

「やば……。髪型でも変えてみようかな?」

 少し伸びてきた前髪を掴んで、僕はホールを後にした。


 帰宅したのはいつもの様に遅かった。結局閉店作業をやりきっての帰宅。分かってはいるが加藤君はいない。今頃あの子とベッドインだ。テレビ横の金魚に餌をやることすらバカらしい。

「なにやってんだか……」

 金魚は一匹だけ餌を食べにやってきたけど、あとはどうやら眠っているようだった。スーツのジャケットをダイニングチェアに無造作に引っ掛けると、鞄の中からピンク色の封筒を取り出した。
 小さい字で書かれた「日下店長」の文字。あの劇的に可愛かった上目遣いを思い出しながら、僕はネクタイを緩めてソファに座り込んだ。いつもは滅多に使用しないソファ。今座っている位置は正に加藤君の特等席だ。

 きっと、少しばかり僕はやけになっている。

 封を綺麗に剥がし、中から手紙を取り出した。花柄の綺麗な便箋だ。細く繊細な字で丁寧に言葉が綴られている。二年間見つめていたこと、僕の接客が嬉しかったこと、優しい笑顔と声が好きだということ……、付き合って欲しいということ。

「……本物だ」

 冷やかしの手紙ではなさそうだ。
 彼女は近所の大学に通う三回生の女性で、今は二十歳。吉住淳子というらしい。顔は、正直好みだ。でも二十歳だろ? 若すぎないか? それに、僕は彼女のことを何も知らない。

 手紙の最後に書かれている連絡先を見つめ、僕はメールすべきか迷った。客に手を出すってどうなの? おまけに大学生だ。……森本くんにめちゃくちゃ罵られそうだな。それに、学生特有の行き過ぎた罰ゲームなんてことも考えられる。

 僕はしばらく手紙を見つめ、そのまま放心してしまいそうだった。
 こんな風に愛だの恋だのといったピンク色の世界から、僕は何年も遠のきすぎていたせいか、てんで脳みそがついていかない。最後にお付き合いしていたのは、一体何年前だ? 思い出そうとしたけど、やめておいた。切なくなるだけだから。どうせ僕は長らく独り身だ。

「……可愛かったしなぁ」

 ソファに寝そべり、手紙を顔に被せた。部屋の電気が煌々と僕を睨んでいる。加藤君も女の子とイチャイチャしてるんだ。

 それなら、僕だって──。



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