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第三章:外泊禁止令と浜辺のデート
ーside 日下ー 1
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加藤君から「帰れない」と連絡を受けてから、二週間が過ぎた。
僕はと言うと悪夢のようなゴールデンウィークを乗り切り、売り上げも過去最高を叩き出した。シェフや社員たちと夜中に店で祝杯を挙げ、派手に騒いだけど、家に帰ると誰も居ない部屋に寂しさを感じた。
紛らわすように金魚に餌をあげ、加藤君の帰りをじっと待つ日々だ。
一体いつ帰ってくるのだろう。
帰れないと連絡はくれたが、いつ帰れるとは言わなかった。元気にしてるかというLINEのやりとりひとつしていない。連絡先を知っていても、そう簡単に加藤君へ連絡は出来ない。
どうしてるの? 何してるの? どこにいるの? いつ帰ってくるの? こんなことを堂々と聞けるほど僕は女々しくなれない。恥ずかしげもなく聞けたのだとしたら、僕は加藤君の何なんだって話になる。すっかり恋人気分だろう。そうでないなら母親ないし父親気分じゃないか。
五月も十日を過ぎた頃、携帯を片手に僕はそんなくだらないことを思っていた。
どうやら僕の限界は二週間らしい。それ以上は彼の身に何かあったんじゃないかって心配になってしまう。なんといってもヤクザの世界だ。なんらかの事件に巻き込まれ、闇に葬られるなんてこと、きっとリアルにあるに違いない。
『お仕事忙しいですか? 体壊さず、元気にしてますか?』
まるで母親のような文面だ。だけどいつ帰ってくるのかなんて誤っても聞けない。まずは安否の確認から始めないと。
そう思って作成した文章だったけど、結局勇気が出せず送れなかった。
「はぁ……三十分も悩み続けるなんて。何してんだよ」
時計に目をやり、己の休憩時間が終わるのを確認する。ヘタレ、と呟き、僕は携帯を置いてホールへと戻った。
近所にある大学の新入生達が店内を賑わせている。ホールスタッフに休憩を済ませたことを伝え、次の休憩を指示してから、僕は厨房に顔を覗かせた。
「休憩あがりました」
はーいと次々返事が返ってくる。デシャップをしていた森本君が、僕を引き止め、仕上がったばかりの料理を渡した。トレイに料理を載せ、オーダースリップの控えと一緒にテーブルへ向かう。
立地条件のいいこのレストランは、自分でいうのもなんだけど本当に人気店だ。毎日忙しくてろくに定時で上がったことがない。たまにはみんなに任せてさっさと帰ろうって思うのだけど、気が付けば閉店作業をしていたりする。
というか、ほぼ毎日がそれだ。
どちらにせよ、さっさと帰ったところで、僕には特別な楽しみなんかない。バスケやゲームは加藤君がいなけりゃやっぱり楽しくないし、読書はいつの間にかうたた寝しちゃうし、強いて言うならバイクを走らせることくらいしか楽しみがない。
僕って、なんてつまらない人間だろう。
「お待たせしました。デコチョコパルフェでございます」
はーいと軽い返事の女子大生が手を上げる。
「完熟マンゴーパルフェでございます」
あ、私ぃ。とすぐ隣の女子大生が手を上げた。
すっとパフェを彼女の前に置いた時、僕は見てはいけないものを見てしまった。
残りひとつ……、フォンダンショコラをトレイの上に置き去りにしたまま、僕は固まってしまった。
「え?」
怪訝な顔をして、マンゴーパルフェの女子大生が僕を見上げたから、慌てて残りのフォンダンショコラをテーブルへ置く。
「し、失礼致しました。ごゆっくり……、どうぞ」
逃げるようにテーブルを後にする。
こんがらがった頭の中をただ必死に整理しようと思った。
さっきの彼女の携帯。
画面が………加藤君だった?
僕はと言うと悪夢のようなゴールデンウィークを乗り切り、売り上げも過去最高を叩き出した。シェフや社員たちと夜中に店で祝杯を挙げ、派手に騒いだけど、家に帰ると誰も居ない部屋に寂しさを感じた。
紛らわすように金魚に餌をあげ、加藤君の帰りをじっと待つ日々だ。
一体いつ帰ってくるのだろう。
帰れないと連絡はくれたが、いつ帰れるとは言わなかった。元気にしてるかというLINEのやりとりひとつしていない。連絡先を知っていても、そう簡単に加藤君へ連絡は出来ない。
どうしてるの? 何してるの? どこにいるの? いつ帰ってくるの? こんなことを堂々と聞けるほど僕は女々しくなれない。恥ずかしげもなく聞けたのだとしたら、僕は加藤君の何なんだって話になる。すっかり恋人気分だろう。そうでないなら母親ないし父親気分じゃないか。
五月も十日を過ぎた頃、携帯を片手に僕はそんなくだらないことを思っていた。
どうやら僕の限界は二週間らしい。それ以上は彼の身に何かあったんじゃないかって心配になってしまう。なんといってもヤクザの世界だ。なんらかの事件に巻き込まれ、闇に葬られるなんてこと、きっとリアルにあるに違いない。
『お仕事忙しいですか? 体壊さず、元気にしてますか?』
まるで母親のような文面だ。だけどいつ帰ってくるのかなんて誤っても聞けない。まずは安否の確認から始めないと。
そう思って作成した文章だったけど、結局勇気が出せず送れなかった。
「はぁ……三十分も悩み続けるなんて。何してんだよ」
時計に目をやり、己の休憩時間が終わるのを確認する。ヘタレ、と呟き、僕は携帯を置いてホールへと戻った。
近所にある大学の新入生達が店内を賑わせている。ホールスタッフに休憩を済ませたことを伝え、次の休憩を指示してから、僕は厨房に顔を覗かせた。
「休憩あがりました」
はーいと次々返事が返ってくる。デシャップをしていた森本君が、僕を引き止め、仕上がったばかりの料理を渡した。トレイに料理を載せ、オーダースリップの控えと一緒にテーブルへ向かう。
立地条件のいいこのレストランは、自分でいうのもなんだけど本当に人気店だ。毎日忙しくてろくに定時で上がったことがない。たまにはみんなに任せてさっさと帰ろうって思うのだけど、気が付けば閉店作業をしていたりする。
というか、ほぼ毎日がそれだ。
どちらにせよ、さっさと帰ったところで、僕には特別な楽しみなんかない。バスケやゲームは加藤君がいなけりゃやっぱり楽しくないし、読書はいつの間にかうたた寝しちゃうし、強いて言うならバイクを走らせることくらいしか楽しみがない。
僕って、なんてつまらない人間だろう。
「お待たせしました。デコチョコパルフェでございます」
はーいと軽い返事の女子大生が手を上げる。
「完熟マンゴーパルフェでございます」
あ、私ぃ。とすぐ隣の女子大生が手を上げた。
すっとパフェを彼女の前に置いた時、僕は見てはいけないものを見てしまった。
残りひとつ……、フォンダンショコラをトレイの上に置き去りにしたまま、僕は固まってしまった。
「え?」
怪訝な顔をして、マンゴーパルフェの女子大生が僕を見上げたから、慌てて残りのフォンダンショコラをテーブルへ置く。
「し、失礼致しました。ごゆっくり……、どうぞ」
逃げるようにテーブルを後にする。
こんがらがった頭の中をただ必死に整理しようと思った。
さっきの彼女の携帯。
画面が………加藤君だった?
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