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第一章:ミステリアスでスリリング
ーside 加藤ー 1
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大学までメンバーの小形を迎えに行った。グループ内でもトップの人気を誇っている我がエース小形裕也、只今大学生。メンバー内ではこいつだけが大学進学を決めて、今年卒業だ。
「わぁ、まじで来てくれたの? やっさしいね、カトゥンは」
「おめぇが来いって喚いたんじゃんか」
「そだっけ?」
「んだよ」
小形が嬉しそうに笑いながら俺の肩を抱き「嘘、嘘」とじゃれついてくるから、それを払いのけて少しずれた帽子を被り直す。
「どうする? とりあえず飯行く?」
今日は夜からちょっとした撮影がある。ファンクラブの会報に載せる写真の撮影と、限定動画の撮影だ。取材もあるが、まぁそんなに遅くならないだろう。
「腹ごしらえだ、腹ごしらえ」
俺はぽんぽんとお腹を叩きながら歩き出す。しかし小形が「こっち」と俺を呼ぶから、右に曲がろうとしていたところを、慌てて左に方向転換した。
「こっちにうまいイタリアンがあるんだよ」
「お、いいね」
「大学内でも有名なんだよ」
「へぇ~」
人気のイタリアン。大学生が大勢いるんだろうけど、小形で免疫のついた学生達ばかりだ。特に人目を気にすることもないだろう。実際こうやって小形を大学まで迎えに来ることは初めてじゃないし、プライベートでも小形とは良く遊ぶから、このツーショットはそれほど珍しくもない。……たぶんね。
歩いて五分も掛からない内に例の ”うまいイタリアン” に到着した。
ランチでもディナーでもないこの時間帯は客が少ない。すぐに案内されて席に着く。
小形も俺も大きめのサングラスにマスクをしているから、外から見ればかなり怪しい二人組だ。
「渡り蟹とほうれん草の濃厚カルボナーラ」
「生ハムとルッコラのニョッキの入った斬新クリーム生パスタ」
「何それっ?」
小形が身を乗り出して俺のメニューを覗き込む。
「新メニューじゃね?」
ラミネートされた小さなメニューを立てて小形に見せると、「うわ、今日からじゃん!」と興奮している。「今度それにしよ」なんて言いながら、「ちょっと食べさせてね」とサングラスの奥から俺に笑って見せた。……全然顔は見えないけど。
女性店員は俺たちが俺たちと気付いているのかいないのか、しれっとした顔で奥に引っ込んで行った。しばらく料理を待ちながら何でもない会話を楽しんでいると、小形が突然「あ。アレアレ」と俺の後ろを指差した。
つられて振り返ったはいいが、何を指差しているのかも分からず、首を傾げる。特に変わった何かがあるわけではないように思う。だけど小形は言った。
「今、女子に人気なんだよ、あの店員さん」
「え、どこ? どれ?」
「ほら、今水汲んでる背の高い男性店員」
少し離れた場所で、確かに男性店員が一人、客のグラスに水を足し注いでいる。だが、残念なことに後ろ姿で顔が確認できない。
「男前なの?」
聞いた俺に小形はうんうんと二度も頷いた。
「めっちゃ爽やか。優しいんだよ、顔も口調も。俺も結構好き。飯は美味いし、店綺麗だし、店員も爽やかで、言うことなしだな」
「あら、そ。ベタ褒めじゃん。さっきの女性店員はあんまりイケ好かない感じだったけどな」
「そ? わりと綺麗な顔してたじゃん」
節穴だな。俺にはツンすぎて絶対相性最悪だ。
「わぁ、まじで来てくれたの? やっさしいね、カトゥンは」
「おめぇが来いって喚いたんじゃんか」
「そだっけ?」
「んだよ」
小形が嬉しそうに笑いながら俺の肩を抱き「嘘、嘘」とじゃれついてくるから、それを払いのけて少しずれた帽子を被り直す。
「どうする? とりあえず飯行く?」
今日は夜からちょっとした撮影がある。ファンクラブの会報に載せる写真の撮影と、限定動画の撮影だ。取材もあるが、まぁそんなに遅くならないだろう。
「腹ごしらえだ、腹ごしらえ」
俺はぽんぽんとお腹を叩きながら歩き出す。しかし小形が「こっち」と俺を呼ぶから、右に曲がろうとしていたところを、慌てて左に方向転換した。
「こっちにうまいイタリアンがあるんだよ」
「お、いいね」
「大学内でも有名なんだよ」
「へぇ~」
人気のイタリアン。大学生が大勢いるんだろうけど、小形で免疫のついた学生達ばかりだ。特に人目を気にすることもないだろう。実際こうやって小形を大学まで迎えに来ることは初めてじゃないし、プライベートでも小形とは良く遊ぶから、このツーショットはそれほど珍しくもない。……たぶんね。
歩いて五分も掛からない内に例の ”うまいイタリアン” に到着した。
ランチでもディナーでもないこの時間帯は客が少ない。すぐに案内されて席に着く。
小形も俺も大きめのサングラスにマスクをしているから、外から見ればかなり怪しい二人組だ。
「渡り蟹とほうれん草の濃厚カルボナーラ」
「生ハムとルッコラのニョッキの入った斬新クリーム生パスタ」
「何それっ?」
小形が身を乗り出して俺のメニューを覗き込む。
「新メニューじゃね?」
ラミネートされた小さなメニューを立てて小形に見せると、「うわ、今日からじゃん!」と興奮している。「今度それにしよ」なんて言いながら、「ちょっと食べさせてね」とサングラスの奥から俺に笑って見せた。……全然顔は見えないけど。
女性店員は俺たちが俺たちと気付いているのかいないのか、しれっとした顔で奥に引っ込んで行った。しばらく料理を待ちながら何でもない会話を楽しんでいると、小形が突然「あ。アレアレ」と俺の後ろを指差した。
つられて振り返ったはいいが、何を指差しているのかも分からず、首を傾げる。特に変わった何かがあるわけではないように思う。だけど小形は言った。
「今、女子に人気なんだよ、あの店員さん」
「え、どこ? どれ?」
「ほら、今水汲んでる背の高い男性店員」
少し離れた場所で、確かに男性店員が一人、客のグラスに水を足し注いでいる。だが、残念なことに後ろ姿で顔が確認できない。
「男前なの?」
聞いた俺に小形はうんうんと二度も頷いた。
「めっちゃ爽やか。優しいんだよ、顔も口調も。俺も結構好き。飯は美味いし、店綺麗だし、店員も爽やかで、言うことなしだな」
「あら、そ。ベタ褒めじゃん。さっきの女性店員はあんまりイケ好かない感じだったけどな」
「そ? わりと綺麗な顔してたじゃん」
節穴だな。俺にはツンすぎて絶対相性最悪だ。
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