7 / 160
第一章:ミステリアスでスリリング
4
しおりを挟む
一人で鍋をつつきながら、テレビをつける。誕生日ということもあって、今日はみんなが気を遣ってくれたから早く仕事から帰ってこれた。彼がいると思い込んでいた自分は確かにバカだけど、誕生日だと浮かれて鍋なんかを用意している自分が一番バカだ。
もう二九歳。喜べる年じゃない。
……彼は、一体いくつなんだろう。
仕事をしているわけだから若くても高卒以上、十九歳ってことだ。いや、だけど高校にも通わず働いている、なんてこともあるかもしれない。
まったく年齢が分からない。顔が綺麗すぎて、年齢不詳に磨きがかかっている。
バラエティ番組でなんとなくチャンネルを止め、特に集中もしていなかったけど、ふいに耳に留まる言葉が聞こえた。
『先週、codeの加藤とUSJに行って来まして……』
どこかのアイドル事務所のアイドルがそんな話をして盛り上がっている。
アイドルには微塵の興味もないが、codeというアイドルグループがいることくらいはさすがに知っている。四~五年前にデビューして一躍有名になったが、それ以降は案外ひっそりしている気もする。ただ僕自身が芸能人にまったく興味がないから、実は超人気だったりするのかもしれないけど。
だがしかし、誓って言えるのは、今テレビで喋っているヤツがどこぞやのアイドルということだけだ。
「そういえば加藤くんもこの前大阪に行ってたな」
決してUSJではなかったけど、大阪土産としてたこ焼き味のお菓子を貰った。
加藤。
その名前に敏感に反応してしまった自分が、この上なく情けない。……まさか会いたいのだろうか? 誕生日くらい、一緒に居たいのだろうか。
未成年かもしれないなんて思いながら買ったワイン。口に合うかどうか心配しながら選び買ったが……、一緒に飲めなかった。
テレビを消して、さっさと風呂に入った。洗い物も片付け、早々に寝てしまおうと思ったけど、数ヶ月ぶりに母親から電話が鳴りひとしきり喋った。
寝室へ入る。
暗闇の中、加藤君が使う布団が否が応でも目に入り、ため息をついた。僕のベッド脇に乱雑に敷かれている布団。もうずっとここに敷きっぱなしだ。帰ってこないことは知っているけど、僕はそれを手直ししてその上に寝そべった。
彼のつけている香水の香りが僅かに薫る。お風呂にも入らず滑りこむことも多いこの布団は、香水の匂いがきっと取れないんだろう。
「加藤……君」
一緒に暮らして分かったことは、料理が得意ってこと。魚だって綺麗に三枚におろせるし、漬物も漬けられるって言っていた。さすがに糠床をこの部屋に持ってくることはないけど、実家では漬けていたことがあったって言っていた。
もう二九歳。喜べる年じゃない。
……彼は、一体いくつなんだろう。
仕事をしているわけだから若くても高卒以上、十九歳ってことだ。いや、だけど高校にも通わず働いている、なんてこともあるかもしれない。
まったく年齢が分からない。顔が綺麗すぎて、年齢不詳に磨きがかかっている。
バラエティ番組でなんとなくチャンネルを止め、特に集中もしていなかったけど、ふいに耳に留まる言葉が聞こえた。
『先週、codeの加藤とUSJに行って来まして……』
どこかのアイドル事務所のアイドルがそんな話をして盛り上がっている。
アイドルには微塵の興味もないが、codeというアイドルグループがいることくらいはさすがに知っている。四~五年前にデビューして一躍有名になったが、それ以降は案外ひっそりしている気もする。ただ僕自身が芸能人にまったく興味がないから、実は超人気だったりするのかもしれないけど。
だがしかし、誓って言えるのは、今テレビで喋っているヤツがどこぞやのアイドルということだけだ。
「そういえば加藤くんもこの前大阪に行ってたな」
決してUSJではなかったけど、大阪土産としてたこ焼き味のお菓子を貰った。
加藤。
その名前に敏感に反応してしまった自分が、この上なく情けない。……まさか会いたいのだろうか? 誕生日くらい、一緒に居たいのだろうか。
未成年かもしれないなんて思いながら買ったワイン。口に合うかどうか心配しながら選び買ったが……、一緒に飲めなかった。
テレビを消して、さっさと風呂に入った。洗い物も片付け、早々に寝てしまおうと思ったけど、数ヶ月ぶりに母親から電話が鳴りひとしきり喋った。
寝室へ入る。
暗闇の中、加藤君が使う布団が否が応でも目に入り、ため息をついた。僕のベッド脇に乱雑に敷かれている布団。もうずっとここに敷きっぱなしだ。帰ってこないことは知っているけど、僕はそれを手直ししてその上に寝そべった。
彼のつけている香水の香りが僅かに薫る。お風呂にも入らず滑りこむことも多いこの布団は、香水の匂いがきっと取れないんだろう。
「加藤……君」
一緒に暮らして分かったことは、料理が得意ってこと。魚だって綺麗に三枚におろせるし、漬物も漬けられるって言っていた。さすがに糠床をこの部屋に持ってくることはないけど、実家では漬けていたことがあったって言っていた。
0
お気に入りに追加
86
あなたにおすすめの小説
【完結】薄幸文官志望は嘘をつく
七咲陸
BL
サシャ=ジルヴァールは伯爵家の長男として産まれるが、紫の瞳のせいで両親に疎まれ、弟からも蔑まれる日々を送っていた。
忌々しい紫眼と言う両親に幼い頃からサシャに魔道具の眼鏡を強要する。認識阻害がかかったメガネをかけている間は、サシャの顔や瞳、髪色までまるで別人だった。
学園に入学しても、サシャはあらぬ噂をされてどこにも居場所がない毎日。そんな中でもサシャのことを好きだと言ってくれたクラークと言う茶色の瞳を持つ騎士学生に惹かれ、お付き合いをする事に。
しかし、クラークにキスをせがまれ恥ずかしくて逃げ出したサシャは、アーヴィン=イブリックという翠眼を持つ騎士学生にぶつかってしまい、メガネが外れてしまったーーー…
認識阻害魔道具メガネのせいで2人の騎士の間で別人を演じることになった文官学生の恋の話。
全17話
2/28 番外編を更新しました
家を追い出されたのでツバメをやろうとしたら強面の乳兄弟に反対されて困っている
香歌奈
BL
ある日、突然、セレンは生まれ育った伯爵家を追い出された。
異母兄の婚約者に乱暴を働こうとした罪らしいが、全く身に覚えがない。なのに伯爵家当主となっている異母兄は家から締め出したばかりか、ヴァーレン伯爵家の籍まで抹消したと言う。
途方に暮れたセレンは、年の離れた乳兄弟ギーズを頼ることにした。ギーズは顔に大きな傷跡が残る強面の騎士。悪人からは恐れられ、女子供からは怯えられているという。でもセレンにとっては子守をしてくれた優しいお兄さん。ギーズの家に置いてもらう日々は昔のようで居心地がいい。とはいえ、いつまでも養ってもらうわけにはいかない。しかしお坊ちゃん育ちで手に職があるわけでもなく……。
「僕は女性ウケがいい。この顔を生かしてツバメをしようかな」「おい、待て。ツバメの意味がわかっているのか!」美貌の天然青年に振り回される強面騎士は、ついに実力行使に出る?!
婚約者に会いに行ったらば
龍の御寮さん
BL
王都で暮らす婚約者レオンのもとへと会いに行ったミシェル。
そこで見たのは、レオンをお父さんと呼ぶ子供と仲良さそうに並ぶ女性の姿。
ショックでその場を逃げ出したミシェルは――
何とか弁解しようするレオンとなぜか記憶を失ったミシェル。
そこには何やら事件も絡んできて?
傷つけられたミシェルが幸せになるまでのお話です。
子悪党令息の息子として生まれました
菟圃(うさぎはたけ)
BL
悪役に好かれていますがどうやって逃げられますか!?
ネヴィレントとラグザンドの間に生まれたホロとイディのお話。
「お父様とお母様本当に仲がいいね」
「良すぎて目の毒だ」
ーーーーーーーーーーー
「僕達の子ども達本当に可愛い!!」
「ゆっくりと見守って上げよう」
偶にネヴィレントとラグザンドも出てきます。
こっそりバウムクーヘンエンド小説を投稿したら相手に見つかって押し倒されてた件
神崎 ルナ
BL
バウムクーヘンエンド――片想いの相手の結婚式に招待されて引き出物のバウムクーヘンを手に失恋に浸るという、所謂アンハッピーエンド。
僕の幼なじみは天然が入ったぽんやりしたタイプでずっと目が離せなかった。
だけどその笑顔を見ていると自然と僕も口角が上がり。
子供の頃に勢いに任せて『光くん、好きっ!!』と言ってしまったのは黒歴史だが、そのすぐ後に白詰草の指輪を持って来て『うん、およめさんになってね』と来たのは反則だろう。
ぽやぽやした光のことだから、きっとよく意味が分かってなかったに違いない。
指輪も、僕の左手の中指に収めていたし。
あれから10年近く。
ずっと仲が良い幼なじみの範疇に留まる僕たちの関係は決して崩してはならない。
だけど想いを隠すのは苦しくて――。
こっそりとある小説サイトに想いを吐露してそれで何とか未練を断ち切ろうと思った。
なのにどうして――。
『ねぇ、この小説って海斗が書いたんだよね?』
えっ!?どうしてバレたっ!?というより何故この僕が押し倒されてるんだっ!?(※注 サブ垢にて公開済みの『バウムクーヘンエンド』をご覧になるとより一層楽しめるかもしれません)
あと一度だけでもいいから君に会いたい
藤雪たすく
BL
異世界に転生し、冒険者ギルドの雑用係として働き始めてかれこれ10年ほど経つけれど……この世界のご飯は素材を生かしすぎている。
いまだ食事に馴染めず米が恋しすぎてしまった為、とある冒険者さんの事が気になって仕方がなくなってしまった。
もう一度あの人に会いたい。あと一度でもあの人と会いたい。
※他サイト投稿済み作品を改題、修正したものになります
偽物の運命〜αの幼馴染はβの俺を愛しすぎている〜
白兪
BL
楠涼夜はカッコよくて、優しくて、明るくて、みんなの人気者だ。
しかし、1つだけ欠点がある。
彼は何故か俺、中町幹斗のことを運命の番だと思い込んでいる。
俺は平々凡々なベータであり、決して運命なんて言葉は似合わない存在であるのに。
彼に何度言い聞かせても全く信じてもらえず、ずっと俺を運命の番のように扱ってくる。
どうしたら誤解は解けるんだ…?
シリアス回も終盤はありそうですが、基本的にいちゃついてるだけのハッピーな作品になりそうです。
書き慣れてはいませんが、ヤンデレ要素を頑張って取り入れたいと思っているので、温かい目で見守ってくださると嬉しいです。
王太子殿下は悪役令息のいいなり
白兪
BL
「王太子殿下は公爵令息に誑かされている」
そんな噂が立ち出したのはいつからだろう。
しかし、当の王太子は噂など気にせず公爵令息を溺愛していて…!?
スパダリ王太子とまったり令息が周囲の勘違いを自然と解いていきながら、甘々な日々を送る話です。
ハッピーエンドが大好きな私が気ままに書きます。最後まで応援していただけると嬉しいです。
書き終わっているので完結保証です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる