上 下
59 / 60
おまけ

しおりを挟む
 夜。事務所で、それこそ事務仕事をしていると嵐がひょっこり顔を覗かせた。

「ただいま。まだ仕事してるの?」

 あたかも教室帰りを装って教科書やプリントの入った鞄を小脇に抱えている。

 「あぁ、おかえり。買い物にでも出かけてたのか?」
「え?」

 驚いた声を出し、嵐はポリポリ頭をかくと困ったように眉を下げて事務所に上がってきた。

「なんでバレたの?」
「宮西さんが電車に乗るお前の姿を見たんだと」
「あちゃ。まじか。変装しとけば良かった」

 この様子だと浮気では無さそうだけど。

「俺に嘘ついて店を早退するとはいい度胸だな、嵐」

 ひと睨み効かせてやったが、嵐は「ふふ」と可笑しそうに笑い、困ったように視線を天井へ向けた。

「言わなきゃダメ?」

 眉を垂れて聞かれたから、パソコンの横に置いてある自分の携帯電話を掴んだ。

「言わなくてもいい。ただ寺島に電話する」
「待って待って待って! 分かった! 言うよ!」

 嵐は携帯を机に置いた俺に盛大なため息をつくと、持っていた鞄を開いて中から白くて小さな袋を取り出した。

「ほんと……、なんでこんな所で」

 ぶつぶつ文句を言いながら、嵐は袋から正方形の箱を取り出すと、面白くなさそうに頬を膨らませてそれを俺へと差し出した。

「安いよ? ホントに安い……。でも、どうしても渡したかったから」

 飾らない言葉。
 カッコイイとは言えない。でもそれがいい。それが嵐のいいところ。

 白い箱。少し重い蓋を開けると、そこには石も装飾も何も付いていないシンプルなリングが行儀よく二つ並び、俺を見上げてきた。

「……あらし……、これ」
「男用二つ買うの、超恥ずかしかった」

 感動して涙が込上がりそうになってるのに、嵐はそう言って俺を笑わせた。

「ふっ、あはは! ほんとメンタル強いよな、お前って」
「だろ?」

 そう言っておどけた嵐だけど、とても優しい瞳で俺を見つめ、

「……つけてくれる?」

 って、どこか不安そうに聞いてきた。

 笑わせておいてそんな風に聞くのは無しだ。愛おしすぎる。好きって気持ちが止められなくなる。

「当たり前だろ……!」

 ポロリとこぼれ落ちてしまった涙に嵐は可笑しそうに笑うと、「泣き虫」って俺を抱きしめてくれた。

「ずっと好きだよ。蘭真」

 この日を境に、嵐は俺を "兄ちゃん" と呼ばなくなった。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結済み】準ヒロインに転生したビッチだけど出番終わったから好きにします。

mamaマリナ
BL
【完結済み、番外編投稿予定】  別れ話の途中で転生したこと思い出した。でも、シナリオの最後のシーンだからこれから好きにしていいよね。ビッチの本領発揮します。

出戻り聖女はもう泣かない

たかせまこと
BL
西の森のとば口に住むジュタは、元聖女。 男だけど元聖女。 一人で静かに暮らしているジュタに、王宮からの使いが告げた。 「王が正室を迎えるので、言祝ぎをお願いしたい」 出戻りアンソロジー参加作品に加筆修正したものです。 ムーンライト・エブリスタにも掲載しています。 表紙絵:CK2さま

浮気されてもそばにいたいと頑張ったけど限界でした

雨宮里玖
BL
大学の飲み会から帰宅したら、ルームシェアしている恋人の遠堂の部屋から聞こえる艶かしい声。これは浮気だと思ったが、遠堂に捨てられるまでは一緒にいたいと紀平はその行為に目をつぶる——。 遠堂(21)大学生。紀平と同級生。幼馴染。 紀平(20)大学生。 宮内(21)紀平の大学の同級生。 環 (22)遠堂のバイト先の友人。

男とラブホに入ろうとしてるのがわんこ属性の親友に見つかった件

水瀬かずか
BL
一夜限りの相手とホテルに入ろうとしていたら、後からきた男女がケンカを始め、その場でその男はふられた。 殴られてこっち向いた男と、うっかりそれをじっと見ていた俺の目が合った。 それは、ずっと好きだけど、忘れなきゃと思っていた親友だった。 俺は親友に、ゲイだと、バレてしまった。 イラストは、すぎちよさまからいただきました。

当たって砕けていたら彼氏ができました

ちとせあき
BL
毎月24日は覚悟の日だ。 学校で少し浮いてる三倉莉緒は王子様のような同級生、寺田紘に恋をしている。 教室で意図せず公開告白をしてしまって以来、欠かさずしている月に1度の告白だが、19回目の告白でやっと心が砕けた。 諦めようとする莉緒に突っかかってくるのはあれ程告白を拒否してきた紘で…。 寺田絋 自分と同じくらいモテる莉緒がムカついたのでちょっかいをかけたら好かれた残念男子 × 三倉莉緒 クールイケメン男子と思われているただの陰キャ そういうシーンはありませんが一応R15にしておきました。 お気に入り登録ありがとうございます。なんだか嬉しいので載せるか迷った紘視点を追加で投稿します。ただ紘は残念な子過ぎるので莉緒視点と印象が変わると思います。ご注意ください。 お気に入り登録100ありがとうございます。お付き合いに浮かれている二人の小話投稿しました。

こっそりバウムクーヘンエンド小説を投稿したら相手に見つかって押し倒されてた件

神崎 ルナ
BL
バウムクーヘンエンド――片想いの相手の結婚式に招待されて引き出物のバウムクーヘンを手に失恋に浸るという、所謂アンハッピーエンド。 僕の幼なじみは天然が入ったぽんやりしたタイプでずっと目が離せなかった。 だけどその笑顔を見ていると自然と僕も口角が上がり。 子供の頃に勢いに任せて『光くん、好きっ!!』と言ってしまったのは黒歴史だが、そのすぐ後に白詰草の指輪を持って来て『うん、およめさんになってね』と来たのは反則だろう。   ぽやぽやした光のことだから、きっとよく意味が分かってなかったに違いない。 指輪も、僕の左手の中指に収めていたし。 あれから10年近く。 ずっと仲が良い幼なじみの範疇に留まる僕たちの関係は決して崩してはならない。 だけど想いを隠すのは苦しくて――。 こっそりとある小説サイトに想いを吐露してそれで何とか未練を断ち切ろうと思った。 なのにどうして――。 『ねぇ、この小説って海斗が書いたんだよね?』 えっ!?どうしてバレたっ!?というより何故この僕が押し倒されてるんだっ!?(※注 サブ垢にて公開済みの『バウムクーヘンエンド』をご覧になるとより一層楽しめるかもしれません)

子悪党令息の息子として生まれました

菟圃(うさぎはたけ)
BL
悪役に好かれていますがどうやって逃げられますか!? ネヴィレントとラグザンドの間に生まれたホロとイディのお話。 「お父様とお母様本当に仲がいいね」 「良すぎて目の毒だ」 ーーーーーーーーーーー 「僕達の子ども達本当に可愛い!!」 「ゆっくりと見守って上げよう」 偶にネヴィレントとラグザンドも出てきます。

【完結】魔法薬師の恋の行方

つくも茄子
BL
魔法薬研究所で働くノアは、ある日、恋人の父親である侯爵に呼び出された。何故か若い美人の女性も同席していた。「彼女は息子の子供を妊娠している。息子とは別れてくれ」という寝耳に水の展開に驚く。というより、何故そんな重要な話を親と浮気相手にされるのか?胎ました本人は何処だ?!この事にノアの家族も職場の同僚も大激怒。数日後に現れた恋人のライアンは「あの女とは結婚しない」と言うではないか。どうせ、男の自分には彼と家族になどなれない。ネガティブ思考に陥ったノアが自分の殻に閉じこもっている間に世間を巻き込んだ泥沼のスキャンダルが展開されていく。

処理中です...