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おまけ
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夜。事務所で、それこそ事務仕事をしていると嵐がひょっこり顔を覗かせた。
「ただいま。まだ仕事してるの?」
あたかも教室帰りを装って教科書やプリントの入った鞄を小脇に抱えている。
「あぁ、おかえり。買い物にでも出かけてたのか?」
「え?」
驚いた声を出し、嵐はポリポリ頭をかくと困ったように眉を下げて事務所に上がってきた。
「なんでバレたの?」
「宮西さんが電車に乗るお前の姿を見たんだと」
「あちゃ。まじか。変装しとけば良かった」
この様子だと浮気では無さそうだけど。
「俺に嘘ついて店を早退するとはいい度胸だな、嵐」
ひと睨み効かせてやったが、嵐は「ふふ」と可笑しそうに笑い、困ったように視線を天井へ向けた。
「言わなきゃダメ?」
眉を垂れて聞かれたから、パソコンの横に置いてある自分の携帯電話を掴んだ。
「言わなくてもいい。ただ寺島に電話する」
「待って待って待って! 分かった! 言うよ!」
嵐は携帯を机に置いた俺に盛大なため息をつくと、持っていた鞄を開いて中から白くて小さな袋を取り出した。
「ほんと……、なんでこんな所で」
ぶつぶつ文句を言いながら、嵐は袋から正方形の箱を取り出すと、面白くなさそうに頬を膨らませてそれを俺へと差し出した。
「安いよ? ホントに安い……。でも、どうしても渡したかったから」
飾らない言葉。
カッコイイとは言えない。でもそれがいい。それが嵐のいいところ。
白い箱。少し重い蓋を開けると、そこには石も装飾も何も付いていないシンプルなリングが行儀よく二つ並び、俺を見上げてきた。
「……あらし……、これ」
「男用二つ買うの、超恥ずかしかった」
感動して涙が込上がりそうになってるのに、嵐はそう言って俺を笑わせた。
「ふっ、あはは! ほんとメンタル強いよな、お前って」
「だろ?」
そう言っておどけた嵐だけど、とても優しい瞳で俺を見つめ、
「……つけてくれる?」
って、どこか不安そうに聞いてきた。
笑わせておいてそんな風に聞くのは無しだ。愛おしすぎる。好きって気持ちが止められなくなる。
「当たり前だろ……!」
ポロリとこぼれ落ちてしまった涙に嵐は可笑しそうに笑うと、「泣き虫」って俺を抱きしめてくれた。
「ずっと好きだよ。蘭真」
この日を境に、嵐は俺を "兄ちゃん" と呼ばなくなった。
「ただいま。まだ仕事してるの?」
あたかも教室帰りを装って教科書やプリントの入った鞄を小脇に抱えている。
「あぁ、おかえり。買い物にでも出かけてたのか?」
「え?」
驚いた声を出し、嵐はポリポリ頭をかくと困ったように眉を下げて事務所に上がってきた。
「なんでバレたの?」
「宮西さんが電車に乗るお前の姿を見たんだと」
「あちゃ。まじか。変装しとけば良かった」
この様子だと浮気では無さそうだけど。
「俺に嘘ついて店を早退するとはいい度胸だな、嵐」
ひと睨み効かせてやったが、嵐は「ふふ」と可笑しそうに笑い、困ったように視線を天井へ向けた。
「言わなきゃダメ?」
眉を垂れて聞かれたから、パソコンの横に置いてある自分の携帯電話を掴んだ。
「言わなくてもいい。ただ寺島に電話する」
「待って待って待って! 分かった! 言うよ!」
嵐は携帯を机に置いた俺に盛大なため息をつくと、持っていた鞄を開いて中から白くて小さな袋を取り出した。
「ほんと……、なんでこんな所で」
ぶつぶつ文句を言いながら、嵐は袋から正方形の箱を取り出すと、面白くなさそうに頬を膨らませてそれを俺へと差し出した。
「安いよ? ホントに安い……。でも、どうしても渡したかったから」
飾らない言葉。
カッコイイとは言えない。でもそれがいい。それが嵐のいいところ。
白い箱。少し重い蓋を開けると、そこには石も装飾も何も付いていないシンプルなリングが行儀よく二つ並び、俺を見上げてきた。
「……あらし……、これ」
「男用二つ買うの、超恥ずかしかった」
感動して涙が込上がりそうになってるのに、嵐はそう言って俺を笑わせた。
「ふっ、あはは! ほんとメンタル強いよな、お前って」
「だろ?」
そう言っておどけた嵐だけど、とても優しい瞳で俺を見つめ、
「……つけてくれる?」
って、どこか不安そうに聞いてきた。
笑わせておいてそんな風に聞くのは無しだ。愛おしすぎる。好きって気持ちが止められなくなる。
「当たり前だろ……!」
ポロリとこぼれ落ちてしまった涙に嵐は可笑しそうに笑うと、「泣き虫」って俺を抱きしめてくれた。
「ずっと好きだよ。蘭真」
この日を境に、嵐は俺を "兄ちゃん" と呼ばなくなった。
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