RUN! RUN! RUN! ~その背伸びには意味がある~

2wei

文字の大きさ
上 下
19 / 60
【転】 過去

しおりを挟む
 休みの日に新しい服を買いに出かけた時、またまた違う女の子と楽しそうに買い物をしている寺島を見つけてしまった。
 誰のために新しい服を買いに来てると思ってるんだって無性に腹が立って、気が付けば女の子に洋服を買ってあげている寺島の腕を掴んでいた。

「おっ、おゎ! 高島くん! なっ、なんでココに!?」
「何してんの、あんた」
「えっ!? あ、いや! 違う! 今日こいつの誕生日で…っ!」
「こいつ? なに? 彼女なの?」
「ちがっ! ちがちがちがっ! 誤解してる高島くん!」

 嫉妬で怒りを覚えている俺に、寺島は自分の財布を彼女に渡した。

「ちょ、いずみ。払っといてくれ。後で連絡する」

 いずみと呼ばれた彼女は不思議そうに頷き財布を受け取る。財布を預けてしまえるような関係なのかと思うと更に嫉妬は膨れ上がった。
 知らぬ間に、俺はすっかり寺島のことを好きになっていたみたいだ。

 寺島に連れられて、ショッピングモールでも特に人通りの少ない従業員入口の手前で立ち止まる。
 購入した洋服のショッピングバッグを握りしめて俯く俺に、寺島は困った顔をしてちらりと顔をのぞき込んできた。そして落ち着いた声で言った。

「あいつ、俺の妹」

 胸につっかえていた何かがストンっと引き抜かれたような感覚がして、俺は目の前の寺島を見上げた。

「へへ……、嫉妬した?」

 照れたようにはにかむ寺島は物凄く幸せそうで、なんかちょっと腹が立った。けどそれ以上に物凄く安心してしまったこの気持ちはもう隠しようもなく、俺は寺島の胸にぽすんっと頭を預けて、「馬鹿野郎」って悪態をつくのが精一杯だった。

 それからほどなくして俺達は付き合い始めた。寺島は相変わらず女にモテモテだった。

「蘭ちゃんが嫌だったら、俺行かないよ?」

 タラシな寺島は俺へそんな事を言ってくるけど、そんなこと言われて「じゃあもう女の誘いに乗るな」なんて言えるわけがない。そんな小さい男だと思われたくないから。けど本当は嫌だった。すごくすごくすごく嫌だった。

 一度、本当に浮気じゃないだろうなって不安になって、ダメだと分かりながらも後をつけたことがある。
 決して寺島から手を繋ぐことは無かった。もちろんキスすることもそれ以上も何も無い。だけど女の方が酔っ払った振りしてベタベタ触ってくる。
 俺の寺島に触るなって怒りに行きそうになったけど、そんなこと出来るわけもなくて。俺は唇を噛み締めて我慢するしかなかった。
 でも困っている寺島を見て、またちょっと腹が立ったんだ。嫌なら嫌でなんでやめてくれって言わないんだよって。……けどそういう優しい男だってこともよく知ってる。それがまた悔しかった。

「蘭ちゃんの好きな親子丼ですよ~」

 寺島の作る親子丼は絶品だ。俺に元気がないと、寺島は決まってそれを作ってくれる。

「……ありがと」
「鶏肉が俺で、卵が蘭ちゃん! 俺は蘭ちゃんの海に溺れてるのさ!」

 何の話だ。
 たまに寺島はよく分からない例え話をする。だけど俺を笑顔にさせようと必死になってる姿は滑稽でいて優しさ以外の何ものでもなかった。

「俺は寺島が居ないと生まれてないんだな」
「あ、そっち? そういうことなら、卵は俺かな? だって蘭ちゃんがいないと俺生きられないもん!」

 平気でそんな事を言う。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

カーマン・ライン

マン太
BL
 辺境の惑星にある整備工場で働くソル。  ある日、その整備工場に所属不明の戦闘機が不時着する。乗っていたのは美しい容姿の青年、アレク。彼の戦闘機の修理が終わるまで共に過ごすことに。  そこから、二人の運命が動き出す。 ※余り濃い絡みはありません(多分)。 ※宇宙を舞台にしていますが、スター○レック、スター・○ォーズ等は大好きでも、正直、詳しくありません。  雰囲気だけでも伝われば…と思っております。その辺の突っ込みはご容赦を。 ※エブリスタ、小説家になろうにも掲載しております。

十七歳の心模様

須藤慎弥
BL
好きだからこそ、恋人の邪魔はしたくない… ほんわか読者モデル×影の薄い平凡くん 柊一とは不釣り合いだと自覚しながらも、 葵は初めての恋に溺れていた。 付き合って一年が経ったある日、柊一が告白されている現場を目撃してしまう。 告白を断られてしまった女の子は泣き崩れ、 その瞬間…葵の胸に卑屈な思いが広がった。 ※fujossy様にて行われた「梅雨のBLコンテスト」出品作です。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

獣人将軍のヒモ

kouta
BL
巻き込まれて異世界移転した高校生が異世界でお金持ちの獣人に飼われて幸せになるお話 ※ムーンライトノベルにも投稿しています

【完結】試練の塔最上階で待ち構えるの飽きたので下階に降りたら騎士見習いに惚れちゃいました

むらびっと
BL
塔のラスボスであるイミルは毎日自堕落な生活を送ることに飽き飽きしていた。暇つぶしに下階に降りてみるとそこには騎士見習いがいた。騎士見習いのナーシンに取り入るために奮闘するバトルコメディ。

【完結】ここで会ったが、十年目。

N2O
BL
帝国の第二皇子×不思議な力を持つ一族の長の息子(治癒術特化) 我が道を突き進む攻めに、ぶん回される受けのはなし。 (追記5/14 : お互いぶん回してますね。) Special thanks illustration by おのつく 様 X(旧Twitter) @__oc_t ※ご都合主義です。あしからず。 ※素人作品です。ゆっくりと、温かな目でご覧ください。 ※◎は視点が変わります。

【完結】雨降らしは、腕の中。

N2O
BL
獣人の竜騎士 × 特殊な力を持つ青年 Special thanks illustration by meadow(@into_ml79) ※素人作品、ご都合主義です。温かな目でご覧ください。

後輩に嫌われたと思った先輩と その先輩から突然ブロックされた後輩との、その後の話し…

まゆゆ
BL
澄 真広 (スミ マヒロ) は、高校三年の卒業式の日から。 5年に渡って拗らせた恋を抱えていた。 相手は、後輩の久元 朱 (クモト シュウ) 5年前の卒業式の日、想いを告げるか迷いながら待って居たが、シュウは現れず。振られたと思い込む。 一方で、シュウは、澄が急に自分をブロックしてきた事にショックを受ける。 唯一自分を、励ましてくれた先輩からのブロックを時折思い出しては、辛くなっていた。 それは、澄も同じであの日、来てくれたら今とは違っていたはずで仮に振られたとしても、ここまで拗らせることもなかったと考えていた。 そんな5年後の今、シュウは住み込み先で失敗して追い出された途方に暮れていた。 そこへ社会人となっていた澄と再会する。 果たして5年越しの恋は、動き出すのか? 表紙のイラストは、Daysさんで作らせていただきました。

処理中です...