RUN! RUN! RUN! ~その背伸びには意味がある~

2wei

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【転】 過去

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 休みの日に新しい服を買いに出かけた時、またまた違う女の子と楽しそうに買い物をしている寺島を見つけてしまった。
 誰のために新しい服を買いに来てると思ってるんだって無性に腹が立って、気が付けば女の子に洋服を買ってあげている寺島の腕を掴んでいた。

「おっ、おゎ! 高島くん! なっ、なんでココに!?」
「何してんの、あんた」
「えっ!? あ、いや! 違う! 今日こいつの誕生日で…っ!」
「こいつ? なに? 彼女なの?」
「ちがっ! ちがちがちがっ! 誤解してる高島くん!」

 嫉妬で怒りを覚えている俺に、寺島は自分の財布を彼女に渡した。

「ちょ、いずみ。払っといてくれ。後で連絡する」

 いずみと呼ばれた彼女は不思議そうに頷き財布を受け取る。財布を預けてしまえるような関係なのかと思うと更に嫉妬は膨れ上がった。
 知らぬ間に、俺はすっかり寺島のことを好きになっていたみたいだ。

 寺島に連れられて、ショッピングモールでも特に人通りの少ない従業員入口の手前で立ち止まる。
 購入した洋服のショッピングバッグを握りしめて俯く俺に、寺島は困った顔をしてちらりと顔をのぞき込んできた。そして落ち着いた声で言った。

「あいつ、俺の妹」

 胸につっかえていた何かがストンっと引き抜かれたような感覚がして、俺は目の前の寺島を見上げた。

「へへ……、嫉妬した?」

 照れたようにはにかむ寺島は物凄く幸せそうで、なんかちょっと腹が立った。けどそれ以上に物凄く安心してしまったこの気持ちはもう隠しようもなく、俺は寺島の胸にぽすんっと頭を預けて、「馬鹿野郎」って悪態をつくのが精一杯だった。

 それからほどなくして俺達は付き合い始めた。寺島は相変わらず女にモテモテだった。

「蘭ちゃんが嫌だったら、俺行かないよ?」

 タラシな寺島は俺へそんな事を言ってくるけど、そんなこと言われて「じゃあもう女の誘いに乗るな」なんて言えるわけがない。そんな小さい男だと思われたくないから。けど本当は嫌だった。すごくすごくすごく嫌だった。

 一度、本当に浮気じゃないだろうなって不安になって、ダメだと分かりながらも後をつけたことがある。
 決して寺島から手を繋ぐことは無かった。もちろんキスすることもそれ以上も何も無い。だけど女の方が酔っ払った振りしてベタベタ触ってくる。
 俺の寺島に触るなって怒りに行きそうになったけど、そんなこと出来るわけもなくて。俺は唇を噛み締めて我慢するしかなかった。
 でも困っている寺島を見て、またちょっと腹が立ったんだ。嫌なら嫌でなんでやめてくれって言わないんだよって。……けどそういう優しい男だってこともよく知ってる。それがまた悔しかった。

「蘭ちゃんの好きな親子丼ですよ~」

 寺島の作る親子丼は絶品だ。俺に元気がないと、寺島は決まってそれを作ってくれる。

「……ありがと」
「鶏肉が俺で、卵が蘭ちゃん! 俺は蘭ちゃんの海に溺れてるのさ!」

 何の話だ。
 たまに寺島はよく分からない例え話をする。だけど俺を笑顔にさせようと必死になってる姿は滑稽でいて優しさ以外の何ものでもなかった。

「俺は寺島が居ないと生まれてないんだな」
「あ、そっち? そういうことなら、卵は俺かな? だって蘭ちゃんがいないと俺生きられないもん!」

 平気でそんな事を言う。
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