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なけなしザッハトルテ8

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「なんか……違うな~」
「そうですか?」
「うん。違うと思う。でも、それを不安に思うんだったら、また指輪でもつける?」

 そう言って俺は右手を彼の目の前に出した。

「え?」

 驚いた顔をした竹内さんは、言葉を詰まらせ……、俺は苦笑を零した。

「……嘘ですよ。しばらく指輪は必要ないですね。冗談ですって! へへ」

 極力明るく笑ったけど、こんなに分かりやすく絶句されると、ちょっとだけ傷つくだろ……ばか。

「じゃあ、指輪の代わりにキスマークとかどうですか? 俺、客前出ないし、つけ放題ですよ」
「いえっ、指輪にしましょう!!」
「え、えっ!?」

 シャンパングラスをテーブルに置き、俺のグラスも奪って置くと、がしっと両手を取られた。

「士浪さん! いいんですか、そんなこと言って!? 俺からの指輪は、学生が戯れで贈るような安っぽいものじゃないですよ!? 本当にいいんですか!?」
「え? え……っ、えぇ!?」

 なに、その勢い!? ちょ、え? 待って待って。そこ断るところじゃなくて、乗ってくる所だったの!?

「は……、はい。わ、わか、分かって……ます」

 俺の方が動揺して、しどろもどろで頷く。

「本当に分かっていますか!?」
「え?」
「もう俺以外の男によそ見一切できませんからね!?」

 待て待て待て。

「え、だって。付き合うって、そもそもそういうことじゃないの? なに俺……、一誠さんと付き合いながら、他の男とエッチすると思われてたってこと?」
「ちが……っ、そんなことは! そうじゃなくて、指輪つけてたら……、周りが皆、そういう目で見ちゃうんですよ? あなたが他人のものだと、そう……」
「いいよ。指輪一つで、楓だって追い返せるなら、俺はそれが欲しい! 指輪が俺を守ってくれるってことでしょ?」

 竹内さんは俺の言葉に、「はぁぁぁ」って勢いよく息を吸い込むと、「くぅ!」と声を堪えて頭を垂れた。

「だ……、誰がこの人をこんなに可愛くしてるんだ!」
「え?」
「俺か? 俺なのか!? 俺の前でだけこんなに可愛いのか!?」

 ガバっと顔を上げた竹内さんが、たぶん、はじめてため口で俺にそう聞いてきた。

「え……? いや……知りません、ごめんなさい」
「あぁ!! 士浪さん! 後悔しないでください! 俺、結構まじですから!」

 竹内さんでも……、こんな勢いで喋ることあるんだな。い……意外かも。

「も、もちろん。俺もマジですよ。じゃなかったら……、髪切ったり、服装変えたりなんか……しませんから」

 俺の言葉に、竹内さんは「これ……俺のため?」と呟くと、ついにはくるりと背を向けた。そして。

「……わかりました。指輪を買いましょう。準備しておきます」
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