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なけなしザッハトルテ7
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「ちが、これは全部かっちゃんだ。かっちゃんのおかげ!」
「ふふ、本当にいいお方ですね。すごく親切で、頼もしくて。五回くらい手を握られて、十二回ほどお尻を触られましたが、全然いいです」
「おい! ダメだろ、それは!!」
「いいんですよ。八回太ももを撫でられ、二回胸をソフトタッチされました」
「やめろって!! おい、勝司!」
荒ぶってしまう俺に、竹内さんは肩を揺らしながら笑い、「もう少し言いましょうか?」なんて言うものだから俺は「あーあーあー」と叫びながら耳を塞いだ。
でも二人で大笑いして、なんだか泣き笑いしそうで。
本当に……、本当に良かった……っ!
かっちゃん、ありがとう!
「明智さんには言うなと口止めされていました。 “これは私のお節介だから” と」
「あぁ……、かっちゃんなら、そう言うかもな」
「 “あんたいい男ね” ってたぶん、三十回くらいは言われてます」
「あぁ、言うだろうな、かっちゃんなら」
苦笑するしかない俺だったけど、竹内さんは続けた。
「でも、だからこそ俺にしか明智さんは譲らない、と言ってくださいました」
ん……そっか。
「そう……いう、男だよな。かっちゃん」
「はい。とても素敵なご友人ですね」
そう思う。俺の今の、一番の親友はかっちゃんだと思ってる。
「貸しが出来たな。今度酒でも奢ってやらなきゃ」
「ふふ。私も同席させてください」
「いいね! じゃあ三人で飲もう! あ、行きたがってたクラブにも、連れてってあげますよ!」
何の気なしにそう言って笑ったけど、竹内さんは笑ったまま首を振った。
「もういいです」
「え?」
「だってもう、出会いを求める必要はないですから。目の前にすでに、好きな人がいるので」
え……、ちょ……今言うの、告白? せーので、一緒にって……約束……。ちょ、ま。
「あぁぁっ! 今日の誕生日は俺絶対忘れない……ッ!!」
両手で赤面の顔を覆い隠し、俺は恥ずかしさを紛らわすみたいに叫んだ。
「はは。私も忘れません。ここで美味しいご飯を食べたら、買い物へ出かけましょう。誕生日プレゼントを買わせてください」
「いいよ、プレゼントなんて! 木崎さんの……いや、竹内さんの告白が一番のプレゼントだから」
幸せそうに笑う彼と、真っ赤な俺。
照れる俺に彼は「良ければ下の名前で呼んでください」と言って、更に赤面させられたのは言うまでもない。
「一誠さん」
そう呼べることが嬉しい。
「士浪さん」
そう呼ばれることが嬉しい。
美味しいお祝いランチを食べて、買い物に出かけて、俺は財布を買って貰った。俺も離婚祝いを買うって豪語して、いらないと首を振る竹内さんに、ほとんど無理やり壁掛け時計をプレゼントした。
「引っ越したばかりで何も揃っていないので助かります」
いらないと言いながらも、そう言って嬉しそうに時計を受け取る竹内さんは、すごく楽しそうで、幸せそうで。絶えず笑ってくれていることが本当に嬉しいと思った。
だけど、今日ザッハトルテを作って食べて欲しいと言うと、竹内さんは申し訳なさそうに眉を垂れた。
「オーブンはかろうじてあるのですが、ボールも泡だて器もまだ買っていなくて……。それに、今日は士浪さんのお誕生日ですから、ケーキは士浪さんの好きなものを食べましょう」
俺としては今すぐにでも食べて欲しいところなんだけど……、そっか。
しょんぼりとしてしまった俺に、竹内さんは「そうだ!」と手を叩いた。
「では、ジャルディーノに行きましょうよ! 士浪さんのザッハトルテがもしかして残っているかもしれません! テイクアウトしましょう!」
昨日作った分。まだ残ってるだろうか。
二人で急いで店に向かい、ケーキのショーケーキにへばりつくと、そこには一個だけザッハトルテが残っていた。
「残ってる!!」
二人でハイタッチだ。良かった。本来用意したいものはホールケーキだったけど、最悪もう……これでいい。このなけなしのザッハトルテで……!
「ふふ、本当にいいお方ですね。すごく親切で、頼もしくて。五回くらい手を握られて、十二回ほどお尻を触られましたが、全然いいです」
「おい! ダメだろ、それは!!」
「いいんですよ。八回太ももを撫でられ、二回胸をソフトタッチされました」
「やめろって!! おい、勝司!」
荒ぶってしまう俺に、竹内さんは肩を揺らしながら笑い、「もう少し言いましょうか?」なんて言うものだから俺は「あーあーあー」と叫びながら耳を塞いだ。
でも二人で大笑いして、なんだか泣き笑いしそうで。
本当に……、本当に良かった……っ!
かっちゃん、ありがとう!
「明智さんには言うなと口止めされていました。 “これは私のお節介だから” と」
「あぁ……、かっちゃんなら、そう言うかもな」
「 “あんたいい男ね” ってたぶん、三十回くらいは言われてます」
「あぁ、言うだろうな、かっちゃんなら」
苦笑するしかない俺だったけど、竹内さんは続けた。
「でも、だからこそ俺にしか明智さんは譲らない、と言ってくださいました」
ん……そっか。
「そう……いう、男だよな。かっちゃん」
「はい。とても素敵なご友人ですね」
そう思う。俺の今の、一番の親友はかっちゃんだと思ってる。
「貸しが出来たな。今度酒でも奢ってやらなきゃ」
「ふふ。私も同席させてください」
「いいね! じゃあ三人で飲もう! あ、行きたがってたクラブにも、連れてってあげますよ!」
何の気なしにそう言って笑ったけど、竹内さんは笑ったまま首を振った。
「もういいです」
「え?」
「だってもう、出会いを求める必要はないですから。目の前にすでに、好きな人がいるので」
え……、ちょ……今言うの、告白? せーので、一緒にって……約束……。ちょ、ま。
「あぁぁっ! 今日の誕生日は俺絶対忘れない……ッ!!」
両手で赤面の顔を覆い隠し、俺は恥ずかしさを紛らわすみたいに叫んだ。
「はは。私も忘れません。ここで美味しいご飯を食べたら、買い物へ出かけましょう。誕生日プレゼントを買わせてください」
「いいよ、プレゼントなんて! 木崎さんの……いや、竹内さんの告白が一番のプレゼントだから」
幸せそうに笑う彼と、真っ赤な俺。
照れる俺に彼は「良ければ下の名前で呼んでください」と言って、更に赤面させられたのは言うまでもない。
「一誠さん」
そう呼べることが嬉しい。
「士浪さん」
そう呼ばれることが嬉しい。
美味しいお祝いランチを食べて、買い物に出かけて、俺は財布を買って貰った。俺も離婚祝いを買うって豪語して、いらないと首を振る竹内さんに、ほとんど無理やり壁掛け時計をプレゼントした。
「引っ越したばかりで何も揃っていないので助かります」
いらないと言いながらも、そう言って嬉しそうに時計を受け取る竹内さんは、すごく楽しそうで、幸せそうで。絶えず笑ってくれていることが本当に嬉しいと思った。
だけど、今日ザッハトルテを作って食べて欲しいと言うと、竹内さんは申し訳なさそうに眉を垂れた。
「オーブンはかろうじてあるのですが、ボールも泡だて器もまだ買っていなくて……。それに、今日は士浪さんのお誕生日ですから、ケーキは士浪さんの好きなものを食べましょう」
俺としては今すぐにでも食べて欲しいところなんだけど……、そっか。
しょんぼりとしてしまった俺に、竹内さんは「そうだ!」と手を叩いた。
「では、ジャルディーノに行きましょうよ! 士浪さんのザッハトルテがもしかして残っているかもしれません! テイクアウトしましょう!」
昨日作った分。まだ残ってるだろうか。
二人で急いで店に向かい、ケーキのショーケーキにへばりつくと、そこには一個だけザッハトルテが残っていた。
「残ってる!!」
二人でハイタッチだ。良かった。本来用意したいものはホールケーキだったけど、最悪もう……これでいい。このなけなしのザッハトルテで……!
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