ジェントルマンズショコラ〜大人だって突然恋をする〜

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なけなしザッハトルテ7

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「あ……、ご、ごめんなさい! 早とちりでした! し、知るわけないですよね! 教えてないんだから!」
「ごめんなさい。まさか……。あ、どうしよう、俺……手ぶらだ」

 そりゃそうだって! 知らなかったんならそうだろ!

「いい、いい、いいですって! ごめんなさい! 俺が勝手に浮かれちゃって。申し訳ない」

 いやでも、……じゃあ……今日はなんで? 特別な日って……、いや、ちょ……、え? 待って、それって。

「木崎さん……え……あ、もしか……して」
「はい」

 困ったように笑った木崎さんは居住まいを正し、真っ直ぐ俺を見て報告をしてくれた。

「今朝、離婚届を出してきました。もう、木崎ではなく、私は……竹内一誠です」

 体の奥の奥から滲み出てくるような、溢れて止まらないような、喜びと安堵が俺の全身を覆った。
 離婚……出来たんだ……!

「うそ……。今日……?」
「はい。今日です」

 そう言って出された左手の薬指。もう……あのシルバーの指輪はつけられていない。
 本当の……本当? もうこの人は木崎さんじゃなくて、竹内さんで……誰かの旦那さんじゃ……ないってこと?

「引っ越しも、すでに済ませてあります。水道業も実質昨日で退職いたしまして。月末までは有給消化って感じなんですけど」
「嘘……嘘だろ? ちょっと待って。え、ほんとに?」
「ほんとですよ」

 可笑しそうに笑われる。
 ちょっと待って、気持ちが全然追い付かない!

「今じゃあ、どこに住んでるんですか?」
「ふふ……、今夜はじゃあ、うちに招待しましょうか」
「ぎゃっ」

 思わず声が漏れ、両手で口を押えると、木崎さん……いや、竹内さんは可笑しそうに笑った。

「ぎゃ、って。そんな反応あります?」
「いや、だって! 二ヶ月くらい経ってんすよ、俺達!?」
「いや、むしろ、すごく早かったでしょう? 本当はもう少し長引きそうだったんですけど」

 そう言った彼は鞄の中から一枚の紙を取り出し、俺にそれを差し出した。

 そこ書かれていたのは、『大河内弁護士事務所 新行内《しんぎょうじ》勝司』の文字。

「え……?」

 かっちゃんの仕事用の名刺。

 驚いて竹内さんに視線を戻すと、にっこりと微笑まれた。

「バーに飲みに来てくださったんです。明智さんのことを、本気で愛する覚悟があるなら、助けてあげる、って」

 嘘だろ……かっちゃん。かっちゃん……!

「新行内さんに言われた通り、離婚が成立するまでは、明智さんとの連絡を極力断ち、痕跡も消し、仕事が終わればすぐに帰るようにして。きちんと、円満に離婚できました。明智さんが、口利きしておいてくださったおかげです。本当に有り難うございました」

 俺? いや、俺なんもしてねぇ。
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